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監督者:白澤光純
株式会社コンクルー 代表取締役CEO
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「原価管理をやろう」と思ったまま期末が来てしまう——そんな社長へ。重要性の解説ではなく、費目の分け方から工事台帳のつくり方、月次の突き合わせまで、20人以下の会社がExcel1枚で回せる5ステップを、架空の記入例つきで具体的に紹介します。
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「今年こそ、原価管理をちゃんとやろう」。そう思ったまま、また一つ期末を迎えてしまった——そんな社長さんは、少なくありません。経理は奥さん任せ、原価は税理士さんが年に一度くれる決算書でまとめて眺めるだけ。会社全体でいくら残ったかはなんとなく分かる。でも、「どの工事で、いくら儲かったのか」と聞かれると、正直はっきり答えられない。忙しく現場を回しているのに、手元にいくら残る仕事だったのかが見えない。これは、だらしないからではなく、仕組みがないだけです。
やっかいなのは、「原価管理」で検索して出てくる記事の多くが、重要性とメリットばかりを語っていて、月曜の朝に自分が何をすればいいのかまでは書いていないことです。だからこの記事では、「原価管理とは何か」の解説はいったん脇に置いて、何から・どの順番でやるかの手順に振り切ります。従業員20人以下くらいの規模の会社が、Excelの工事台帳1枚から無理なく回せる、5つのステップにしぼってお伝えします。(これから出てくる金額はすべて、説明のための架空の例です)
先に、全体像からお伝えします。町場の建設会社が原価管理を始めるなら、やることは次の5ステップです。難しい会計の知識はいりません。

この5つを回すだけで、「工事ごとの儲け」が見えるようになります。
ここで、いちばん大事な前提を一つ。決算書に載っている「原価」と、この記事でつくろうとしている「工事ごとの原価」は、別物です。 決算書の原価は、1年分の材料費や外注費を会社全体でまとめた数字。税金を計算するには十分ですが、「A様邸の工事は儲かったのか」までは教えてくれません。私たちが手に入れたいのは、後者——工事1本ごとの成績表です。そのための、いちばん軽い仕組みが、これからの5ステップです。原価管理という言葉の意味やメリットそのものを先に押さえておきたい方は、建設業の原価管理とはで基本を整理していますので、そちらとあわせてどうぞ。この記事は「やり方」に徹します。
手順に入る前に、「なぜ放っておくと分からなくなるのか」を短く押さえておきます。原因が分かれば、5ステップが効く理由も腹落ちするからです。工事ごとの儲けが見えなくなるのには、建設業ならではの理由があります。
ひとつは、請求書が会社単位でまとめて届くこと。材料屋さんや協力会社からの請求は、たいてい「今月ぶん」がまとめて1枚で来ます。そこには複数の現場の材料や手間が混ざっているので、「この金額のうち、A様邸ぶんはいくらか」を後から仕分けるのは、なかなか骨が折れます。
ふたつめは、材料をまとめ買いして、現場に振り分けていないこと。ホームセンターや商社でまとめて仕入れた材料を、そのまま複数の現場で使ってしまうと、どの現場でいくら使ったのかが記録に残りません。
みっつめは、社長や家族の手間を原価に数えていないこと。社長自身が現場に入った日、奥さんが事務をした時間——ここが「タダ」で計算されていると、本当はぎりぎりの工事が「儲かった工事」に見えてしまいます。
この3つが重なると、「会社全体ではなんとなく回っているが、工事ごとの採算は霧の中」という状態になります。5ステップは、この霧を1つずつ晴らしていく作業だと思ってください。
最初のステップは、かかったお金を入れる「箱」を決めることです。箱がバラバラだと、あとで集計もできず、他の工事とも比べられません。建設業では、工事にかかったお金を大きく4つの費目に分けるのが基本になっています。
この4分類は、決算のときに作る「完成工事原価報告書」の区分ともそろっています。だから最初からこの4つで記録しておくと、決算のときにも話が早くなります。費目それぞれの中身をもう少し詳しく知りたい方は、工事原価とはで内訳を整理していますので参考にしてください。
大事なのは、完璧な仕分けを目指さないことです。実務では「これはどっちの箱?」と迷う場面がよく出てきます。町場でよくある例を、いくつか先に決めておきましょう。
なお、判断に迷いやすいのが「社長自身の人件費」です。社長が現場に入った日の手間を労務費に入れるかどうかは、会社の考え方や税務上の扱いにも関わってきます。ここは自己流で決めず、顧問税理士さんに一度相談しておくと安心です。まずは「職人さんに払った給料は労務費」というところから始めれば十分です。現場でかかる間接的なお金の位置づけは、現場管理費とはもあわせて見ておくと、経費の箱の輪郭がはっきりします。
費目の箱が決まったら、それを工事ごとに受け止める器をつくります。それが工事台帳です。難しく考える必要はありません。1つの工事につき1枚(Excelなら1行、または1シート)で、次の項目が並んでいれば十分です。

図は、この最小フォーマットに架空の記入例を入れたものです(金額は説明用の作り話です)。受注額200万円の改修工事で、実際にかかったのが材料費50万・労務費60万・外注費40万・経費10万の合計160万円。すると粗利は200万 − 160万 = 40万円、と一目で分かります。見積の段階では原価155万円=粗利45万円を見込んでいたので、「5万円ぶん、想定より原価がかさんだ」ことも、同じ1枚の上で見えてきます。これが、工事台帳を持つことの威力です。
工事台帳は、じつは「あれば便利」なだけでなく、建設業法との関わりもある帳簿です。作成義務や記載項目については工事台帳は建設業法で作成義務あり?で詳しく整理していますので、正式な位置づけを押さえたい方はあわせてどうぞ。とはいえ、原価管理を始める入口としては、上の「受注額・見積原価・4費目・粗利」が並んだ1枚があれば、まずは動き出せます。ゼロから列を考えるのが面倒なら、無料で使えるExcelの工事台帳テンプレートを土台にして、自社に合わせて削るところから始めるのが早道です。
台帳をつくっても、記録が止まれば意味がありません。そして、原価管理がいちばん挫折しやすいのが、この「記録を続ける」ところです。挫折を避けるコツは、たった一つ。月末にまとめて書こうとしないことです。
「請求書が来てから台帳に書こう」と思っていると、材料の請求は月をまたいで届くことも多く、記録が1〜2か月遅れます。遅れると、進行中の工事が「今いくらかかっているか」がリアルタイムで分からず、気づいたときには手遅れ——という事態になりがちです。
だから、お金が動いた「時点」で書くのが基本です。とはいえ、その場で1件ずつ入力するのは現実的ではありませんよね。おすすめは、週に1回15分だけ、台帳に向き合う時間を決めること。1週間ぶんの領収書、発注メモ、職人さんの出面(でづら)をまとめて、どの現場のいくらかを台帳に落とす。これだけで、記録が数か月遅れることはなくなります。
このとき役立つのが、日々の記録です。誰がどの現場に何日入ったかは、作業日報や出面表があれば、労務費と外注費を台帳に落とすときの元データになります。「記録のための記録」を増やすのではなく、もともと現場で書いているものを台帳につなげる——この発想でいくと、負担がぐっと軽くなります。
ここまでで、工事ごとに「実際にいくらかかっているか」が記録できる状態になりました。ステップ4では、その記録を振り返りに使います。やることは、月に1回、見積原価(受注時の見込み)と、実際原価を突き合わせることです。
見るポイントは2つです。
1つめ。完工した工事は、見積と実際の差を見て、差が出た工事だけ「なぜ」を1行メモする。 すべての工事を細かく分析する必要はありません。見積どおりに収まった工事はスルーでOK。問題は、見積より原価がふくらんだ工事です。「なぜオーバーしたのか」を、`材料値上がり` `手間が伸びた` `追加工事がタダ働きになった` など、ひと言だけ台帳に残しておく。このメモが、あとで効いてきます。
2つめ。進行中の工事は「着地見込み」を見る。 まだ終わっていない工事も、「もう使った額」+「これから使う見込みの額」で、完工時にいくらかかりそうか(着地見込み)を出せます。架空の例で見てみましょう(金額は説明用です)。
見積では粗利60万円のはずが、このままいくと50万円に目減りしそうだ——と、工事の途中で気づけるわけです。まだ工期が残っているなら、残りの段取りを締め直す、追加分をきちんと請求する、といった手が打てます。完工してから「赤字だった」と知るのとは、天と地ほど違います。
この「受注時に原価の目標を組む」考え方は、実行予算そのものです。そして、予定と実際を突き合わせて差を見る一連の流れは予実管理と呼ばれます。名前は難しそうですが、やっていることは「見込みと実際を並べて見る」だけ。まずは月1回、完工した工事と進行中の工事を、この目線で眺めるところから始めてください。
工事が終わったら、最後の仕上げです。完工=締めの儀式だと考えてください。ここをきちんとやると、原価管理が「記録」から「見積が上手くなる仕組み」へと変わります。
締めのときにやることは3つです。
この3つを工事のたびに積み重ねると、数か月後に、ある景色が見えてきます。「自分の見積が、どの工種で甘くなりがちか」です。たとえば「解体はいつも見積より手間がかかる」「塗装は読みどおりに収まる」「足場は最近の単価上がりを見積に反映できていない」——といった傾向が、感覚ではなく記録として分かってくる。
そうなれば、次の見積で単価を調整できます。甘かった工種は少し厚めに見る、逆に余裕のある工種は競争力を出す。原価管理が、見積力に変わる瞬間です。原価管理は「過去を記録する後ろ向きの作業」だと思われがちですが、続けると「次の見積を強くする前向きの武器」になります。ここまで来ると、やめられなくなります。
5ステップを見てきましたが、いちばんの課題は「続けられるか」です。最後に、続けるためのコツと、Excelでやるときの限界についてお伝えします。
続けるコツは、欲張らないことに尽きます。
この3つを守れば、Excelの工事台帳1枚でも、しっかり回ります。実際、多くの会社は、まずここから始めるのが正解です。
ただし、Excelには限界もあります。工事の本数が増えてくると、領収書や請求書を1件ずつ台帳に転記する作業がだんだん重くなり、月末に何十件ものデータを打ち込むうちに、入力ミスや記入漏れも出てきます。原価管理が続かなくなる会社の多くは、やる気の問題ではなく、この「転記と集計が追いつかない」ところでつまずきます。そうなってきたら、見積や日報に一度入れた数字が、そのまま工事ごとの原価に自動でたまっていくような仕組み——たとえば建設業向けの業務管理ツール「コンクルーAI」のようなもの——に転記そのものを任せてしまうのも、続けるための一つの選択肢です。
なお、原価管理の勘所は業種によって少しずつ違います。材料の比重が大きい工種、手間(人工)が採算を左右する工種——それぞれに固有のコツがあります。たとえば塗装業の原価管理では、塗料の材料費と職人の手間をどう見るかを掘り下げています。自分の業種に寄せて読みたい方は、こうした工種別の記事もあわせてどうぞ。
最後に、5ステップをもう一度、表で振り返ります。難しく考えず、まずは直近で完工した1つの工事を、この形で振り返ってみるのがおすすめです。
ステップ | やること | 頻度の目安 |
|---|---|---|
① 費目を揃える | 材料費・労務費・外注費・ | 最初に一度決める |
② 工事台帳をつくる | 1工事1枚で受注額・ | 工事の受注ごと |
③ 動いた時点で書く | 発注・人工をその都度、 | 週1回 |
④ 見積と実際を突き合わせる | 差の出た工事に「なぜ」を1行/ | 月1回 |
⑤ 完工時に締める | 未払いを確認し粗利を確定、 | 工事の完工ごと |
「工事ごとの儲け」は、特別な才能がないと見えないものではありません。4つの費目に分けて、1工事1枚の台帳に、動いた時点で書き込む。たったこれだけの積み重ねが、どんぶり勘定から抜け出す確かな一歩になります。今年こそ、で終わらせないために。まずは1枚、台帳をつくってみてください。