電線も器具も見積のたびに値段が変わる。終わってみたら儲かっていない工事が混ざる——そんな電気工事会社の社長へ。工事ごとに粗利を守るために見るべき数字を5つに絞り、Excelでも今日から回せる集め方まで具体的に解説します。
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「電線の単価、先月の見積と変わっちゃうんですよ」——仕入先からそう言われて、見積書を作り直した経験のある社長は多いのではないでしょうか。電線やケーブル、照明器具、配線器具。材料の値段が見積のたびに変わる状況が、ここ数年の当たり前になっています。
材料に何割か乗せて、あとは経験と勘。長年それで回ってきた会社ほど、「終わってみたら儲かっていない工事」が混ざるようになったと感じているはずです。困るのは、どの工事で損をしたのか、材料の値上がりが原因なのか、手間が掛かりすぎたのかが分からないこと。そもそも工事ごとに数字を締めていない会社も少なくありません。
粗利を守るために見るべき数字は、5つに絞れます。難しい会計の知識は要りません。明日からExcelでも回せるやり方です。
先に結論からお伝えします。電気工事業が粗利を守るために見るべき数字は、次の5つです。
数字 | 計算式 | 分かること |
|---|---|---|
① 工事別粗利率 | (工事売上 − 工事原価)÷ 工事売上 | どの工事が儲かり、 |
② 材料費率 | 材料費 ÷ 工事売上 | 材料の値上がりが利益を食っていないか |
③ 1人工あたり売上 | 売上 ÷ 投入人工(延べ人数) | 職人1人1日あたりの生産性 |
④ 外注費率 | 外注費 ÷ 売上 | 応援頼みが粗利を溶かしていないか |
⑤ 追加工事の請求漏れ額 | 追加で発生した費用 − 実際に請求した追加金額 | 口約束で消えた利益 |
なぜこの5つなのか。理由はシンプルで、電気工事業の利益が溶ける場所がだいたいこの5か所だからです。
ここで大事なことを一つ言い切らせてください。儲からないのは、社長の勘が悪くなったからではありません。数字を見る単位が「会社全体」になっているのが原因です。決算や月次の試算表に出てくる会社全体の数字は、何十件という工事の平均値です。全体で黒字でも、その内側に赤字工事が埋もれている。だから「なんとなく忙しいのに儲からない」が起きるのですよね。
逆に言えば、工事1本ごとに数字を切り分けて見れば、勘に頼らなくても「どこで利益が溶けたか」をたどれるようになります。この記事の5つの数字は、業界の標準指標ではありません。町場の電気屋さんが明日から無理なく回せるよう、利益が溶けがちな5つの場所に対応させて絞ったものです。1つずつ見ていきましょう。

5つの数字の話に入る前に、土台となる原価の構造を整理しておきます。難しく考える必要はありません。電気工事1本の原価は、次の4つに分けられます。
この4分類自体は、建設業共通の考え方です。工事原価の分類や計算方法の基本は「工事原価とは?管理する目的と内訳、計算法、純工事費との違いを解説」の記事で詳しく解説しています。ここでは電気工事ならではの話に絞ります。
電気工事の原価には、他の業種と違う「クセ」が3つあります。
1つ目は、材料の値段が相場で動くこと。電線・ケーブルの主原料は銅です。銅は国際相場で日々値が動き、その動きは電線メーカーの価格改定という形で仕入れ値に反映されます。つまり電気屋の材料費は、世界の金属市場につながっているのです。銅建値は2026年に入ってからも過去最高値の更新と大幅な上下を繰り返しており(出典:JX金属「銅建値」)、「半年前の単価表で見積を出したら、発注時には利益が消えていた」という話は珍しくありません。
2つ目は、器具が「支給」か「購入」かで原価の姿が変わること。照明器具や盤を施主・元請が支給する工事なら、材料費は小さく手間賃の仕事になります。自社購入なら材料費がそのまま乗ります。同じ売上規模の工事でも、支給と購入で材料費率はまったく違う数字になる。だから材料費率は会社全体で平均して見ても意味がなく、工事の条件ごとに見る必要があります。
3つ目は、短工期・多件数になりやすいこと。戸建ての改修やテナントの入れ替わり、小規模な増改築が主体の会社は、月に何十件も現場が入れ替わります。件数が多いほど、工事ごとに数字を締める手間は増える。「締めたいけど追いつかない」というのは、町場の電気屋さん共通の悩みではないでしょうか。

この3つのクセがあるからこそ、電気工事業は「どの数字を、どの単位で見るか」が利益を左右します。ここからは5つの数字を1つずつ、計算方法と使い方を見ていきます。
5つの数字の大本は、工事1本ごとの粗利率です。計算は簡単で、工事の売上から材料費・労務費・外注費などの原価を引き、売上で割るだけです。
目的はただ一つ。全体の平均に埋もれた赤字工事をあぶり出すことです。
ある月に完工した3件の工事を、工事ごとに締めてみた例です(数値はすべて架空の例です)。
工事 | 売上 | 原価 | 粗利 | 粗利率 |
|---|---|---|---|---|
A現場(戸建て改修) | 100万円 | 92万円 | 8万円 | 8% |
B現場(店舗テナント) | 60万円 | 66万円 | ▲6万円 | ▲10% |
C現場(小規模ビル改修) | 140万円 | 112万円 | 28万円 | 20% |
会社全体 | 300万円 | 270万円 | 30万円 | 10% |
会社全体では粗利率10%。これだけ見れば「今月もまあ黒字だったな」で終わります。ところが工事別に開くと、B現場は6万円の赤字です。C現場で稼いだ利益の一部が、B現場の穴埋めに消えていたことが分かります。
工事別に締めると、赤字の「理由」を掘る入口に立てます。B現場は材料の読み違いだったのか、追加工事を請求していなかったのか、手間が想定より掛かったのか。原因ごとに次の手は変わります。材料なら見積のルール(数字②)、手間なら生産性(数字③)、追加なら請求漏れ対策(数字⑤)です。
なお「電気工事業の平均粗利率は何%か」という水準値は、統計の母集団や調査区分によって数字が変わるため、この記事では安易に示しません。大事なのは他人の平均との比較ではなく、自社の過去実績との比較です。去年の自社、先月の自社と比べて粗利率が落ちていないか。工事別のバラつきが大きくなっていないか。まずはそこを見てください。原価管理の基本的な考え方は「建設業の原価管理とは?目的と内訳、メリット、難しい理由を徹底解説」の記事も参考になります。
材料費率は「材料費 ÷ 工事売上」で求めます。電気工事は材料費が原価の大きな部分を占めるので、この率の変化は粗利に直結します。
先ほど書いた通り、電線・ケーブルは銅相場に連動して価格が改定されます。国内ではJX金属が電気銅の建値(公表価格)を出しており、それをもとに電線メーカーが価格改定を発表する流れです。相場の上下そのものは、私たちにコントロールできません。コントロールできるのは「値動きをどれだけ速く自社の見積に反映するか」です。
具体的な手は2つあります。
1つ目は、見積に有効期限を付けること。「本見積の有効期限は、提出後30日とします」の一文があるだけで、受注までの間に材料が値上がりした場合の単価見直し交渉が格段にやりやすくなります。元請や施主にとっても、相場が動いている事情は説明しやすい時代です。
2つ目は、見積用の単価表を定期的に更新すること。仕入先の価格改定案内が届いたら、よく使う品目(電線・ケーブル・配線器具などの上位品目)の単価表をその都度直す。「案内はもらっているが、見積に使う単価は古いまま」という会社は、気づかないうちに安く売り続けることになります。
もう一つ、習慣にしてほしいのが「見積時の材料単価と、実際に発注した単価の差」の記録です。
例えば、見積時点で材料費42万円・売上120万円(材料費率35%)と読んでいた工事が、発注時の値上がりで材料費46万円になったとします(架空の例です)。材料費率は約38%に上がり、差の4万円はそのまま粗利から消えます。この4万円、記録していなければ「なんとなく儲からなかった」の一言で流れてしまいます。記録していれば「値上がりで溶けた」と分かり、次の見積で単価を直すか、有効期限を短くする判断につながります。
材料費率は月次で会社全体の推移を見ながら、支給と購入で条件が違う工事は分けて見るのがコツです。
3つ目の数字は、労務費の側から見た生産性です。計算は「月の売上 ÷ 投入した人工の延べ数」。職人1人が1日でいくら稼いだか、を示します。
人工は職人さんの人数×日数の延べで数えます。社長が現場に出ているなら、社長の分も入れてください。
架空の例で見てみましょう。売上600万円・投入120人工の月は、1人工あたり5万円です。別の月は売上540万円・90人工で、1人工あたり6万円でした(いずれも架空の例です)。
面白いのはここからです。売上だけ見れば600万円の月のほうが「良い月」に見えます。ところが1人工あたりで見ると、540万円の月のほうが2割も効率が良い。つまり600万円の月は、手間の掛かる工事を多く抱えていた可能性が高いのです。
この数字が分かると、次の問いに答えられるようになります。
参考までに、国土交通省は公共工事の積算の基準として「公共工事設計労務単価」を毎年度公表しており、そこには「電工」という職種区分があります。直近では令和8年3月から適用する単価が公表され、全職種平均で14年連続の上昇となりました(出典:国土交通省「令和8年3月から適用する公共工事設計労務単価について」)。これは公共工事の見積の土台になる数字であり、民間の町場工事の日当をそのまま決めるものではありません。ただ「職人1人1日の価値を、国も単価として管理している」という視点は、自社の人工単価を考えるときの参考にはなります。
1人工あたり売上は、業界平均と比べるより自社の月次推移で見てください。じわじわ下がり続けているなら、値上げ交渉か、手間の掛かる仕事の取り方そのものを見直すサインです。
4つ目は「外注費 ÷ 売上」で計算する外注費率です。
電気工事は繁忙期の波が大きく、年度末や案件の重なりで応援の電工さんを頼む会社は多いはずです。外注自体は悪いことではありません。自社にない技能を補ったり、忙しい時期を乗り切ったりするための、立派な経営の手です。
問題は、気づかないうちに率が上がっているケースです。応援の日当は、一般に自社職人の1日あたりコストより高くなります。例えば自社職人の1日コストが2万8千円(給与・社会保険の会社負担・諸経費込みの試算。架空の例です)で、応援の日当が3万5千円(こちらも架空の例です)なら、1日あたり7千円の差。月に延べ20人工を応援で回せば、14万円が粗利から静かに消えていきます。
さらに、初めて入る職人さんは現場の段取りや仕上げのクセを知らない分、自社職人より手間が掛かることもあります。単価の差だけでなく、生産性(数字③)の低下もセットで起きやすいのが、外注頼みの怖さです。
外注費率は、単独で見るより「粗利率とセット」で月次推移を追うのがコツです。外注費率が跳ねた月に粗利率がどう動いたか。この2つの関係が見えてくると、「この繁忙期は応援を何人工までなら許容できるか」「採用して自社人工を増やしたほうが得なラインはどこか」という判断が、感覚ではなく数字でできるようになります。
最後の数字は、計算式というより「記録と照合の運用」です。追加で発生した費用と、実際に請求できた追加金額の差を追います。
電気工事は、他の業種より小さな追加が構造的に多い仕事です。施主や内装屋さんからの「このコンセント、ついでにここにも増やせます?」「スイッチの位置、やっぱりこっちで」という口約束。図面にない照明の追加、仕様変更による器具の取り替え、他業種の手戻りに付き合わされた手直し。1件1件は小さい。だからこそ、口約束のまま消えやすいのですよね。
ここで考えてみてほしいのですが、1件2万円の追加が月に5件発生して、そのうち2件が請求漏れだったとします(架空の例です)。月4万円、年間で48万円。これは粗利の話なので、売上ではなくそのまま利益から消えます。従業員数人の会社で年間48万円は、工具の更新でも賞与の上積みでもできた額です。
請求漏れを防ぐ仕組みは、難しいものでなくていいので次の2ステップで回してください。
ステップ1: 追加が発生したその場で記録する。「いつ・どの現場で・何を・材料は何を使ったか・誰から依頼されたか」を、スマホのメモや写真で残します。ポイントは、その場で金額交渉まで終わらせようとしないことです。現場で施主に嫌な顔をされるのが嫌で追加請求をやめてしまう会社は多いのですが、まず記録さえあれば、請求するか・サービスするかの判断は後で社長ができます。記録がなければ、判断の機会すら失われます。
ステップ2: 月次で請求書と照合する。月末に、その月に記録された追加分と、実際に出した請求書を突き合わせます。「記録にあるのに請求に載っていない」ものがあれば、請求漏れか、意図的にサービスしたかのどちらかです。この照合を習慣にするだけで、口約束で消える追加は激減します。
追加請求は「値切られるのが怖い」「関係が悪くなりそう」で敬遠されがちですが、記録ベースで「発生した事実」を丁寧に伝える形なら、意外と受け入れられるものです。事実が積み上がっていること自体が、交渉力になります。
ここまで読んで、「数字は分かった。でもどうやって集めるの?」と思った社長のために、集め方の話をします。
答えはシンプルで、工事1本ごとに「売上・材料費・労務費(人工数)・外注費・追加の記録」を書き残していくこと。いわゆる工事台帳を回すことです。5つの数字はすべて、工事台帳に記録される項目から計算できます。
最小の運用はこれだけです。
ツールはExcelやスプレッドシートで十分始められます。工事台帳の項目や保存期間、建設業法上の位置づけは「工事台帳は建設業法で作成義務あり?保存期間や項目、目的を徹底解説」の記事にまとめています。
台帳の運用に慣れてきたら、次の段階として「受注時に予定の原価を組んでおく」実行予算の考え方を足すと、見積と実績のズレを工事中に捕まえられるようになります。実行予算の作り方は「建設業における実行予算とは?内訳や作成する目的、注意点を徹底解説」、予算と実績を比較する予実管理の進め方は「建設業における予実管理とは?重要な理由や手順、課題・注意点を解説」の記事が参考になります。
ただ、正直にお伝えすると、手作業の集計には限界があります。特に電気工事は短工期・多件数になりやすい業種です。月に何十件も工事が動くと、請求書や納品書からの転記だけで月末が潰れ、肝心の「数字を見て次の判断をする」時間が残りません。集計の手間で続かなくなったら、仕組みに任せる段階です。工事ごとの原価や粗利の集計を、日々のデータ入力から自動で行えるようにしたのが、私たちが提供しているコンクルーAIです。
まずは手書きでもExcelでもいいので、今月完工した工事から1行ずつ記録を始めてみてください。続く形が見えてから、仕組み化を考えれば十分間に合います。
電気工事業が材料費高騰のなかで粗利を守るために見る数字は、①工事別粗利率、②材料費率、③1人工あたり売上、④外注費率、⑤追加工事の請求漏れ額の5つです。
儲からないのは勘が悪いせいではなく、「会社全体」の数字しか見ていないせいです。工事1本ごとに数字を切り分ければ、利益がどこで溶けたかをたどれます。そして原因が分かれば、見積の有効期限、単価表の更新、追加の記録と照合——次の手はすべて具体的です。
完璧を目指さなくて大丈夫です。まず今月の完工工事から、工事台帳の1行目を書き始めてみてください。その1行が、「うちの会社はどの仕事で儲かっているのか」を教えてくれる最初の一歩です。