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監督者:白澤光純
株式会社コンクルー 代表取締役CEO
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2025年12月に施行された「労務費の基準(標準労務費)」。施行半年の最新状況と、小規模建設会社が見積もり・下請取引で対応すべきポイントを、基準値の調べ方から見積書の内訳明示・10年保存まで実務目線で整理します。
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「標準労務費って、結局どうなったの?」——2024年の建設業法改正のニュースで名前は聞いたけれど、その後を追いきれていない。そんな方も多いのではないでしょうか。
実はこの制度、もう本格的に動き出しています。2025年12月2日に中央建設業審議会が「労務費に関する基準」を勧告し、同月12日には改正建設業法が全面施行。労務費を著しく低くした見積もりや契約は、公共工事・民間工事を問わず禁止されました(出典:国土交通省「労務費に関する基準」)。
施行からおよそ半年。職種ごとの具体的な金額(基準値)の公表、見積書様式例の提示と、制度は「決まる段階」から「使われる段階」へ移りました。この記事では2026年7月時点の最新状況を整理し、小規模な建設会社の目線で「見積もりをどう変えればいいのか」を具体的にお伝えします。
正式名称は「労務費に関する基準」です。2024年6月に公布された第三次・担い手3法(建設業法・入契法などの一体改正)で、中央建設業審議会がこの基準を作成・勧告する仕組みがつくられました。報道などでよく見る「標準労務費」は、この基準が示す「適正な労務費」の通称です。
背景にあるのは、担い手不足への強い危機感です。建設業就業者はピークだった1997年の685万人から2023年には483万人まで減少(出典:国土交通省・改正建設業法説明会資料〔総務省「労働力調査」を基に算出〕)。技能者の60歳以上の割合は25.8%に達する一方、30歳未満は11.7%にとどまります(出典:中央建設業審議会「労務費に関する基準」〔総務省「労働力調査」令和6年平均〕)。生産労働者の年間賃金も、建設業は432万円と全産業の508万円を15%ほど下回っているのが実態です(出典:同説明会資料〔厚生労働省「賃金構造基本統計調査」令和5年〕)。
賃金の原資である労務費は、総価一式の契約慣行の中で「削りやすい費目」として扱われがちでした。安く請ける会社が競争で勝ち、職人さんの賃金が上がらず、人が入ってこない。この悪循環を、発注者から末端の下請まで、すべての取引段階で断ち切ろうというのが制度の狙いです。
要点を表にまとめます。
項目 | 内容 |
正式名称 | 労務費に関する基準(通称:標準労務費) |
根拠 | 建設業法第34条(第三次・担い手3法による改正) |
勧告 | 2025年12月2日、中央建設業審議会が作成・勧告 |
施行 | 2025年12月12日に改正建設業法が全面施行 |
対象 | 公共・民間、元請・下請を問わず、すべての建設工事の請負契約 |
禁止されること | 労務費等を著しく低くした見積もりの提出(受注者)/見積もりの変更依頼(注文者)、総価での原価割れ契約 |
違反した場合 | 建設業者は国土交通大臣等から指導・監督処分、発注者は勧告・公表 |
適正な労務費の考え方はシンプルで、「職種別の公共工事設計労務単価×歩掛(単位施工量あたりに必要な人工数)×数量」。このとき労務単価は、公共工事設計労務単価を下回る水準に設定しないこととされています。
考え方だけでは価格交渉で使いにくいため、国土交通省は職種分野別・都道府県別に、トンあたり・平米あたりの労務費の目安「基準値」を公表しています。2025年12月時点で13職種分野・99工種(建設業許可全29業種のうち15業種の作業に対応)が設定済み。たとえば東京都では、鉄筋工事(建築)が71,472円/t、型枠工事(建築)が5,291円/㎡です(出典:国土交通省・改正建設業法説明会資料)。
自社の職種・都道府県の基準値は、国交省の「労務費に関する基準ポータルサイト」で検索できます。職種別の意見交換会は続いており、対象分野は今後も順次広がる見込みです。まだ基準値がない職種でも、「設計労務単価×歩掛」で適正な労務費を確保すべきという考え方は同じように適用されます。

基準値の計算の基礎になる公共工事設計労務単価は、2026年3月適用分で全国全職種平均(加重平均値)が25,834円となり、初めて25,000円を超えました。前年度比プラス4.5%(単純平均)で、14年連続の引き上げ。2012年度の13,072円と比べると、およそ2倍の水準です(出典:国土交通省報道発表・令和8年2月17日)。
見積もりの土台となる単価そのものが、毎年上がり続けている。これが今の前提条件です。「去年の単価表のまま見積もる」こと自体が、すでにリスクになりつつあります。
2026年に入ってからも動きは続いています。3月には国交省が「建設工事の見積書様式例」とその書き方ガイドを公表しました(出典:労務費に関する基準ポータルサイト・見積書様式例)。また「労務費に関する基準の運用方針」では、いわゆるお得意様価格や値引きの扱い、多能工の労務単価の設定方法など、実務で迷いやすい論点への考え方も示されています。2026年3月26日には基準のフォローアップを行うワーキンググループも開かれ、運用状況を見ながら制度を磨く段階に入りました。
規制されるのは発注者だけではありません。受注者が自ら、労務費等を著しく低くした見積書を提出することも禁止されました。違反すると国土交通大臣等による指導・監督処分の対象です。仕事を取るための安値見積もりという戦い方は、法律上のリスクを伴うようになりました。
下請に仕事を出すとき、自社は「注文者」の立場になります。提出された見積書の労務費等を著しく低くするような変更依頼は禁止。民間の施主を含む発注者が違反すると、勧告・公表の対象になります。小規模でも、職人さんや専門工事会社へ発注する場面は多いですよね。「昔からこの単価でお願いしているから」は、通用しなくなりつつあります。
労務費・材料費に加えて、法定福利費(事業主負担分)・安全衛生経費・建退共掛金を内訳明示した「材料費等記載見積書」の作成が努力義務になりました。公共工事では、入札金額内訳書への内訳明示が義務です。さらに運用方針では、当初見積書と最終見積書を工事目的物の引渡しから10年間保存することとされています。建設Gメンが当初と最終の差額を確認し、労務費のダンピングが起きていないかを調べる運用が想定されているためです(出典:国土交通省「労務費に関する基準」の運用方針)。
基準値は、標準的な作業内容・施工条件を前提に計算された値です。個別の契約にそのまま当てはめるものではなく、現場の条件や自社の施工能力を踏まえて補正しながら労務費を算出するのが正しい使い方です。禁止されるのは、あくまで通常必要と認められる額を「著しく下回る」見積もりや契約。機械化などの生産性向上で人工が少なく済み、結果として金額が下がるケースまで問題にされるわけではありません。建設Gメンも、価格低下がダンピングによるものか生産性向上によるものかを見分けたうえで対応するとされています(出典:中央建設業審議会「労務費に関する基準」)。
一人親方との取引も、請負契約であればこの制度の対象です。また運用方針では、処遇改善の努力義務などの規制から逃れることを目的とした「一人親方化」や受注単位の細分化を、新しい商慣行の定着を妨げるものとして明確に問題視しています。働き方の実態が労働者に当たる場合は偽装請負のおそれもあるとされており、外注の形だけ変えて安く済ませる、という方向に逃げるのは危険です。
ここまでを踏まえると、制度の本質が見えてきます。国が目指しているのは、上流から下流へ価格が押し付けられる構造をやめて、必要な労務費を先に確保したうえで、技術力や生産性で競争する構造への転換です。
つまり、これからの見積もりは「安さ」ではなく「根拠」で戦うものになります。どの職種を何人工、単価いくらで見ているか。法定福利費はいくらか。内訳で示せる会社は価格交渉で守られる側に回れますし、どんぶり勘定の一式見積もりのままでは、交渉の土俵に乗ること自体が難しくなっていきます。
とはいえ、職種別に単価×歩掛×数量で積み上げ、法定福利費まで明示した見積書を毎回手作業でつくるのは、正直かなりの手間ですよね。Excelや手書きに頼っている会社ほど負担は大きくなります。単価・歩掛のマスタを整えて見積作成を仕組み化する、ツールで内訳明示を自動化するといった業務側の見直しを、制度対応とセットで進めるのが現実的です。たとえばコンクルーAIのような見積作成機能を持つ業務管理ツールを使えば、労務費を内訳で積み上げた見積書の作成や、過去見積もりの保存・流用を日常業務の中で無理なく回せます。
標準労務費は「守らされる規制」というより、適正な価格で受注するための後ろ盾です。職人さんの処遇を守る原資を確保しながら、根拠のある見積もりで堂々と交渉する。そういう会社が発注者からも職人さんからも選ばれる方向へ、ルールそのものが変わりました。
施行から半年、商慣行がまだ固まりきっていない今こそ、動き出すチャンスです。まずは自社の職種の基準値の確認と、見積書の様式見直しから始めてみてください。
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