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監督者:白澤光純
株式会社コンクルー 代表取締役CEO
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処分費が見積の倍近くになった、重機の回送費を計上し忘れた——それでも会社全体は黒字だから、どの現場で損したか誰にもわからない。解体工事の利益が消える「処分費・重機費・人工」の3つの穴と、現場ごとに原価を締める具体的な方法を解説します。
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坪単価の経験則で通してきた見積が、最近どうも読み違う。分別が甘いまま搬出したら、処分費が見積の倍近くになっていた現場がある。重機の回送費を計上し忘れていた月もある。近隣対応や下地の想定違いで手壊しの範囲が広がり、人工がふくらんだ現場もある——。それでも決算を締めてみれば、会社全体としては黒字。だから、「結局どの現場で、いくら損したのか」は、誰にもわからないままになっていませんか。
解体工事は、ほかの工種と比べても原価が読みにくい仕事です。処分費は分別の精度と搬入先で大きく振れ、重機は「自社の持ち物だから」とコスト意識から抜け落ちやすく、手壊しや近隣対応といった人工は現場ごとの事情が違いすぎて勘だけでは追いきれません。この記事では、解体工事の利益が消えていく原因を「3つの穴」として整理し、それぞれを、明日の現場から記録を始められるレベルまで具体的にふさいでいきます。(本文に出てくる金額・人工数は、すべて考え方を説明するための架空の例です)
先に、結論からお伝えします。町場の解体工事で利益が消えていく原因を突き詰めると、だいたい次の3つの「穴」に集約されます。
この3つに共通するのは、どれも「現場が終わってから、まとめて気づく」性質を持っていることです。会社全体の資金繰りは何とか回っているので、痛みとして表面化しにくい。だからこそ、儲かっている現場が、赤字の現場の穴を静かに埋め続けている、ということが起こります。
本記事の結論を先に言えば、この状態を抜け出す道は一つです。会社全体ではなく、現場ごとに締める。それだけです。次の章から、3つの穴の中身と、ふさぎ方を順番に見ていきます。そもそも「原価管理」という言葉の意味やメリットから丁寧に知りたい方は、建設業の原価管理とは?目的と内訳、メリット、難しい理由を徹底解説で整理していますので、そちらもあわせてどうぞ。この記事では、解体工事に特有の穴の話に絞ります。

3つの穴の話に入る前に、解体工事1本にかかるお金を、大きな箱に分けて整理しておきます。分け方が決まっていないと、「今月いくら使ったか」はわかっても、「どの現場で、何にいくら使ったか」までは追えないからです。
この5つの箱に、実際にかかったお金を振り分けていく。これが解体工事の原価管理の土台になります。工事原価の分け方そのものをもう少しきちんと知りたい方は、工事原価とは?管理する目的と内訳、計算法、純工事費との違いを解説で整理していますので、あわせてご覧ください。
解体ならではの論点が、もう一つあります。鉄骨や鉄筋などの金属くずは、売却すると収入(有価物売却益)になることがあります。これをどう会計処理し、原価とどう突き合わせるかは、消費税の扱いなども絡むため、自己流で判断せず顧問税理士に確認しておくのが安全です。ここでは、「処分費でお金が出ていくだけでなく、有価物の売却でお金が戻ってくる場合がある」という構造だけ、押さえておいてください。

処分費は、解体工事の原価の中でも特に金額が大きく、しかも読みにくい費目です。同じような規模・構造の現場でも、出てくる廃棄物の分別状態や搬入先によって、処分費は大きく変わります。
産業廃棄物は、木くず・コンクリートがら・金属くず・廃プラスチック類など、品目ごとに処分費の単価が設定されているのが一般的です。分別が甘く、複数の品目が混ざった状態(混合廃棄物)のまま搬出すると、処分場によっては選別の手間がかかるぶん、品目ごとに分けて出すより単価が高くなる傾向があります。「分別すれば処分費が下がる」と一律には言えません(品目の構成比や地域、処分場の受け入れ条件によって変わります)が、分別の精度が、処分費の見通しやすさに直結するのは間違いありません。
分別は「やったほうがいい心がけ」だけの話でもありません。床面積80m²以上の建物の解体工事では、コンクリート、アスファルト・コンクリート、木材(これらを「特定建設資材」と呼びます)について分別解体等・再資源化等を行うこと、また工事着手の7日前までに発注者から都道府県知事へ計画を届け出ることが、法律で義務付けられているとされています(出典:環境省「建設リサイクル法の概要」)。対象規模の工事では、分別の精度を上げることは、コンプライアンスと原価管理の両方に効く、数少ない取り組みの一つです。
分別の精度と同じくらい大事なのが、見積時に想定した数量と、実際に搬出した数量の差を、現場ごとに記録しておくことです。ここで新しく帳簿を作る必要はありません。産業廃棄物の処理を業者に委託する際は、排出事業者がマニフェスト(産業廃棄物管理票)を交付することが法律で定められているとされています(出典:日本産業廃棄物処理振興センター「マニフェスト制度とは」)。マニフェストには品目・数量・搬出先が記録されるため、控えをファイルに溜めておくだけで、それがそのまま「その現場で実際に何が何トン(何m³)出たか」という実績データになります。見積時に立てた数量との差を、現場ごとにこの控えと突き合わせるだけで、次の見積の精度は着実に上がっていきます。
もう一つ、地味だけれど効くのが、搬入先ごとの処分単価を、年に1回は棚卸しする習慣です。長年同じ処分場に頼んでいると、単価改定に気づかないまま、古い単価感覚で見積を出してしまうことがあります。処分費の単価相場は、地域や時期、品目の需給で変動が大きく、この記事で「相場はいくら」と示すことはできません。だからこそ、自社が実際に払っている単価を、年1回は複数の搬入先で確認し直す。それが、相場情報が取りにくい処分費において、いちばん確実な情報源になります。搬入先そのものの探し方や、残土と産廃の見分け方まで含めて整理したい方は、残土・産廃の処分はどこへもあわせてご覧ください。この記事では「原価としてどう管理するか」に絞ります。
重機費のやっかいなところは、外注したリース代・回送費は請求書で見えるのに、自社保有の重機にかかっているコストは、請求書が来ないぶん「タダ」であるかのように扱われがちなことです。
自社の重機にも、実は毎日コストがかかっています。減価償却費(購入代金を耐用年数で割った、帳簿上の目減り分)、整備・点検費、保険料——これらは、その重機を1日も動かさなくても発生する固定的なコストです。ここで、考え方を示すための架空の例を見てみましょう(実際の減価償却の計算方法は資産の耐用年数や会計処理によって変わるため、正確な数字は顧問税理士や会計ソフトで確認してください)。
架空の設例として、ある重機の年間コストが、減価償却費100万円・整備費20万円・保険料10万円の合計130万円、年間の稼働日数が130日だとします。
130万円 ÷ 130日 = 1日あたり1万円
この重機を7日間動かした現場には、燃料代とは別に、目に見えない維持コストが1万円×7日=7万円乗っている計算になります。リース機なら請求書に載る金額ですが、自社保有機だとこの7万円は誰にも請求されず、そのまま利益から静かに消えていきます。正確な金額を出すことより、「自社の重機にも1日あたりの原価がある」と意識することのほうが大事です。大まかな金額でいいので、自社の主要な重機について、年間の維持コストと稼働日数から「1日あたりいくらか」を一度出しておくと、見積のときに重機の欄を0円で通してしまうことがなくなります。
リース・レンタル機の場合は、また別の落とし穴があります。現場までの回送費(重機を運ぶトラック代)は、稼働日数に関係なくかかる固定費です。1日だけ使うつもりが、最低レンタル日数の設定で結局3日分の料金になった、ということも起こります。さらに、近隣対応や搬入待ちで重機を現場に置いたまま動かせない「遊び」の日も、レンタル料金は発生し続けます。見積の段階で、回送費・最低日数・遊びが出そうな日数まで含めて計算できているか、一度チェックしてみてください。
重機費についても、やることは処分費と同じです。見積のときに「重機を何台、何日使う予定か」を書き出しておき、完工後に実績の台数×日数と突き合わせる。差が出た現場があれば、「近隣対応で2日延びた」「回送を余分に呼んだ」など、理由を一行メモしておく。この積み重ねが、次の見積で重機費を読み違えない力になります。
3つ目の穴は、人工(にんく。作業員1人が1日働く量を表す、建設業でよく使う単位です)の膨らみです。解体工事は、重機で一気に壊せる部分と、手で壊すしかない部分が混在する仕事です。この手壊しの見積もりが、経験の勘に頼っているぶん、実際とずれやすいところでもあります。
人工の実績を追うための土台になるのが、出面(でづら。誰が、どの現場に、何日入ったかの記録)です。出面がなければ、「予定より人工が増えた」ことにすら気づけません。まずは、現場ごとに誰が何日入ったかを記録する。この記録さえあれば、完工後に予定人工と実績人工を突き合わせるだけで、差が数字として見えてきます。架空の例ですが、予定20人工で見積もった現場が、実績26人工だったとします。差は6人工。この6人工がどこで発生したのかを、分解して考えてみます。
人工が膨らむ原因は、だいたい2つに集約されます。ひとつは、手壊し範囲の見立て違いです。図面や見た目だけで判断すると、実際に壁を剥がしてみたら下地の造りが違っていて、想定より手間がかかった、ということが起こります。もうひとつは、近隣対応や待機です。散水や養生シートの調整、近隣からの問い合わせ対応、搬出車両の入場待ちなど、直接「壊す」作業ではないのに時間を取られる場面が、解体工事には多くあります。
この2つは、事前に完全には読み切れません。だからこそ大事なのは、「どの現場で、何人工増えたか」を完工のたびに記録し、増えた理由を一行でも残しておくことです。「浴室まわりの下地が想定と違った」「近隣説明に半日かかった」——この積み重ねが、次の見積で手壊し部分に見込む余裕(バッファ)の精度を上げていきます。
ここまで、処分費・重機費・人工という3つの穴を見てきました。最後に、これらを現場ごとに管理する、いちばん軽い仕組みをお伝えします。むずかしい道具はいりません。やることは3つのサイクルを回すだけです。

この3つのサイクルは、Excelの工事台帳1枚からでも始められます。現場ごとにシートを1枚用意し、実行予算・出面・搬出実績・重機の稼働日数を入力していくだけで、最低限の原価管理は回り始めます。最初から作り込みすぎた仕組みを目指す必要はありません。
ただし、現場数が増えてくると、記録の転記や集計は少しずつ重くなっていきます。同時に動く現場が5件、6件と増え、伝票や出面の入力が後回しになると、気づいたときには何件分もの記録が溜まっている——ということが起こりがちです。そうなってからでは立て直しに手間がかかるので、現場数がまだ少ないうちに、この3つのサイクルを回す習慣そのものを先につくっておくことをおすすめします。
解体や改修の工事を行うときは、規模にかかわらず、着工前に石綿(アスベスト)の使用有無を事前調査することが法律で義務付けられているとされています。そのうえで、床面積80m²以上の解体工事や請負代金100万円以上の改修工事では、その調査結果を電子システムで都道府県等へ届け出ることも義務付けられているとされています(出典:環境省「石綿事前調査結果の報告について」)。つまり、事前調査そのものは規模を問わず必要になる工事が多く、「省略できるかどうか判断する費用」ではなく、見積の段階から織り込んでおくべき必須の外注費・経費だということです。調査の結果、石綿の使用が確認された場合は、除去や処理に別途大きな費用がかかります。この除去費用は、もとの解体工事の原価にそのまま混ぜ込まず、別枠の追加費用として扱ったほうが、あとで「その現場、結局いくらだったのか」が見えやすくなります。対象規模や具体的な調査・報告の手順は、着工前に自治体の窓口や専門の調査会社に確認してください。
古い建物の基礎の残骸、井戸、浄化槽、想定していなかった埋設物——解体工事では、掘ってみないとわからない「地中障害物」に当たることがあります。これは、もとの見積の前提には入っていなかった作業です。もとの工事の原価にそのまま合算してしまうと、「この現場は見積が甘かった」という誤った振り返りになってしまいます。地中障害物が見つかったら、発見時の状況を写真で記録し、追加の原価・追加の請求として、もとの工事とは別枠で管理するのが基本です。そうしておけば、もとの工事の原価データも、追加分の実績データも、どちらも次の見積に正しく活かせます。
坪単価(延床面積あたりの単価)による見積の目安づけそのものが、意味を失ったわけではありません。ざっくりとした最初の当たりをつけるには、今でも使える感覚です。ただ、坪単価だけを最終的な見積の根拠にするのは、リスクが増しています。処分費は品目構成や搬入先で変動し、重機費や人工も現場条件で振れ幅が大きいからです。坪単価は最初の見当をつける道具として使い、処分費は品目×数量、重機費と人工は台数・日数×人工数で、それぞれ積み上げて検算する。この二段構えにしておくと、坪単価の勘を活かしながら、読み違いのリスクを減らせます。
解体工事の利益は、処分費・重機費・人工という3つの穴から、少しずつ、しかし確実に漏れていきます。どの穴も、派手な失敗ではなく、「気づかないうちに積み重なる」タイプの原価です。だからこそ、会社全体の帳尻ではなく、現場ごとに締めることが効いてきます。分別の精度を上げる、自社の重機にも1日あたりの原価を意識する、出面から人工の予実を追う——どれも、明日の現場から一つずつ始められることばかりです。まずは直近で完工した1件を、この3つの穴の目線で振り返ってみてください。