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監督者:白澤光純
株式会社コンクルー 代表取締役CEO
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「常用で出すのと請負で受けるの、どっちが得か」——町場では日常の言葉でも、報酬の決まり方も背負うリスクも別物です。単価の考え方と儲けの構造、偽装請負と言われないための線引きを、公的資料をもとに整理しました。
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「来月、応援で2人ばかり常用で出してくれないか」「この仕事は手間請けで頼むよ」——町場では毎日のように飛び交う言葉ですよね。ところが「常用と請負って、何がどう違うの?」と改めて聞かれると、はっきり答えられる社長は意外と少ないのではないでしょうか。
実はこの2つ、報酬の決まり方も儲けの構造も、背負うリスクも別物です。線引きがあいまいなまま人を出し入れしていると、「偽装請負」や「労働者供給」を指摘されるおそれもあります。
この記事では、常用と請負の違いを法律の定義からかみ砕いたうえで、単価の考え方と儲けの構造、偽装請負にならないための線引きまで、国の資料をもとに整理します。
まず請負から。請負は民法に定義のある契約で、「当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約する」契約とされています。報酬は原則、目的物の引渡しと同時払いです(出典:e-Gov法令検索「民法」第632条・第633条)。ポイントは、報酬が「働いた時間」ではなく「仕事の完成・結果」に対して支払われることです。
たとえば内装一式を300万円で請け負ったら、3週間で終わろうが2か月かかろうが300万円。早く終われば得をし、手間取れば損をする。完成させる責任も手直しの負担も、請けた側が負います。
建設業法も「建設業」を、元請・下請を問わず「建設工事の完成を請け負う営業」と定義しています。さらに同法には、委託などどんな名前でも、報酬を得て建設工事の完成を目的とする契約は請負契約とみなす、という規定まであります(出典:e-Gov法令検索「建設業法」第2条・第24条)。契約書のタイトルではなく実態で判断される、ということですね。
一方の常用は、法律用語ではなく現場の慣用語です。一般には「1人が1日働く仕事量=1人工(にんく)」を単位に、常用単価×人工で精算する働き方・人の出し方を指します。「人工出し」「応援」もお金の流れはおおむねこれで、売っているのは仕事の完成ではなく働いた時間(労務)そのものです。
常用では、働いた日数分の人工は基本的に請求でき、工期が延びれば延びた分の人工も増えます。逆に、どれだけ段取りよく早く終わらせても、もらえるのは働いた人工分だけ。完成責任や手直しのリスクは、原則として仕事を仕切る頼んだ側にあります。
紛らわしいのが「手間請け」です。厚生労働省の研究会報告では、工事の種類や坪単価・工事面積などから総労働量と報酬の予定額を先に決め、働いた実績に応じた割合で報酬を支払う建設業の労務提供方式、と定義されています。材料は元請持ちで、手間(労務)だけを坪いくら・平米いくらで請ける形で、世話役が仲間を連れて請ける、一人親方が平米単価の口約束で請けるといった形が代表例です。
同じ報告は、①手間賃(日当)ベースの日給月給で働く人は一般に「労働者」(=雇用に近い)、②手間だけを請け負い、自分は現場で働かずに職人を出す人は一般に「事業者」、と整理しています(出典:厚生労働省・労働者性検討専門部会報告(平成8年))。同じ手間請けでも、実態によって雇用寄りにも事業者寄りにもなるわけです。この「名前ではなく実態で決まる」という感覚が、この記事で一番大事なポイントです。

常用で人を出す場合、会社に残るお金の計算はシンプルです。
受け取る常用単価×人工 −(職人に払う日当・給料+経費)= 手元に残る額
架空の例で、常用単価23,000円で職人2人を20日間出すと、売上は23,000円×2人×20日=92万円。職人に日当18,000円ずつ払うと72万円で、差し引き20万円。ここから社会保険料の会社負担分や車両費・道具代を出すことになります。
マージンは薄い。それでも、天候や段取りの遅れで工期が延びても働いた人工で精算でき、完成責任も負いません。「読みやすいけれど、大きくは儲からない」のが常用の構造です。
請負の儲けはこうなります。
請負金額 −(材料費+労務費+外注費+経費)= 粗利
同じく架空の例で、300万円で請けた内装工事の原価が材料費120万円+労務費100万円+経費30万円=250万円なら、粗利は50万円。原価を230万円に抑えれば粗利70万円、手戻りや拾い漏れで300万円を超えれば赤字。腕と段取りがそのまま儲けに跳ね返ります。
お金の入り方も違います。常用は月々の人工精算で現金が回りやすい一方、請負の報酬は原則引渡しと同時払い(実務では中間金や出来高払いの取り決めもあります)。材料の立て替えなど資金繰りの負担も含め、リスクを取る代わりに利幅を自分で作れるのが請負の構造です。

公的データの代表格が、国土交通省が毎年公表する「公共工事設計労務単価」です。令和8年3月適用の単価では、全国全職種の加重平均が1日(8時間)あたり25,834円と、初めて25,000円を超えました。引き上げは14年連続です(出典:国土交通省「令和8年3月から適用する公共工事設計労務単価について」)。主な職種の全国平均は次のとおりです。
職種 | 全国平均(所定労働8時間あたり) |
|---|---|
大工 | 30,331円 |
とび工 | 30,780円 |
鉄筋工 | 31,267円 |
型わく工 | 31,671円 |
左官 | 30,508円 |
普通作業員 | 23,605円 |
軽作業員 | 18,605円 |
ただし、使うときは2つ注意があります。
つまり、この金額をそのまま常用の受け渡し価格と考えると、社会保険にきちんと入っている会社ほど原価割れします。出す側は経費分を乗せて請求し、入れる側はその分を見込んで払うのが、国の考え方に沿った形です。この単価は下請取引でも確保されるべき「適正な労務費」の計算の基礎にも位置づけられており、標準労務費の話と地続きです。詳しくは「標準労務費で見積もりはどう変わる?施行半年の現在地と小規模建設会社の実務対応」で解説しています。
民間の手間請け・常用の単価は、地域や職種、元請との付き合いの深さによる幅が大きく、公的な統計として「これが相場」と言い切れる数字はありません。ネット上には出典のはっきりしない相場情報も多く出回っています。単価の話をするときは、前述の設計労務単価のような出どころの確かな数字を物差しにしつつ、自社の原価(日当+法定福利費+経費)を割らない水準を自分で決めるのがおすすめです。
ネットには「常用契約は違法」という刺激的な見出しもありますが、正確な言い方ではありません。常用という働き方そのものが違法なのではなく、雇用でも適正な請負でもない形で、人を他社の指揮命令の下で働かせることが問題になるのです。順番に整理しますね。
建設業務(土木・建築など工作物の建設・解体等の作業や、その準備の作業)への労働者派遣は法律で禁止されています。送り出す側だけでなく、受け入れて建設業務に就かせる側も禁止で、違反には「1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金」という罰則が定められています(出典:e-Gov法令検索「労働者派遣法」第4条・第59条)。
しかも労働局の資料では、建設現場では単体なら建設業務に当たらない仕事も「準備作業」とみなされて禁止業務に該当することがほとんど、と説明されています(出典:福島労働局「いわゆる偽装請負になっていませんか?」)。ほかの業種には「派遣で人を借りる」受け皿がありますが、建設の現場作業には基本的にありません。だから現場への人の出し入れは「雇用」か「適正な請負」かの二択で考える必要があるわけです(国の認定による例外的な制度もありますが、日常の応援とは別の話です)。
派遣が禁止されているのに、請負や常用の名目で人を出し、実際には受け入れた側が職人に直接指揮命令して働かせる。これが「偽装請負」と呼ばれる状態です。労働局の資料でも、請負契約と称しながら実態として注文主と労働者の間に指揮命令関係がある場合には偽装請負とみなされ、労働者派遣法違反になると説明されています(出典:福島労働局・同資料)。
大事なのは、契約書に「請負」と書いてあっても守ってはくれないこと。見られるのは現場の実態で、誰が指示を出し、誰が時間を管理しているかが判断の中心です。
常用まわりのリスクは、2つに分けて考えるのがコツです。
「昔からこのやり方だ」という慣行でも、法律の目で見ると危うい形になっていることがあります。出す側も入れる側も、次の線引きを一度点検してみてください。

では、線はどこにあるのか。国の基準では、請負の形をとっていても、次の事柄をすべて自分の会社で行っていなければ労働者派遣事業を行う事業主とされる、という建て付けになっています。職業安定法の施行規則にも同趣旨の要件があります(出典:厚生労働省「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年労働省告示第37号))。社長向けに翻訳すると、チェックすべきはこんなところです。
形のうえで全部を満たしていても、法違反を免れるため故意に偽装した場合は免れない、という念押しまであります。実態がすべて、ということですね。該当するかどうかは個別の実態を踏まえた総合判断とされるので、次のフローは自己点検の目安に使ってください。

働く本人が労働基準法上の「労働者」に当たるかも、契約の形式ではなく働き方の実態から総合的に判断するとされています。国の研究会報告は、仕事を断る自由があるか、やり方まで指揮監督を受けているか、時間や場所を拘束されているか、代わりの人を働かせられるか、報酬が「働いた時間の対価」になっているか——といった要素で見る枠組みを示しました(出典:厚生労働省・労働基準法研究会報告(昭和60年))。とくに報酬が時間給・日給・月給など「時間を単位として計算される」場合は労働者性を補強する重要な要素とされ、日当いくらの常用はもともと雇用に近い性質を帯びやすいわけです。
手間請けを扱った平成8年の専門部会報告には、対照的な2つの事例が載っています(出典:厚生労働省・労働者性検討専門部会報告(平成8年))。
注目したいのは、2人とも報酬が出来高ベースな点です。出来高払いだから・請求書を出させているから請負、とはならないと報告は述べています。逆に、勤務場所が建築現場になるのは仕事の性格上当然で、それだけでは指揮監督の根拠になりません(時間の指定・管理は、一般的には労働者性を強める要素です)。道具も、電動の手持ち工具程度では労働者性は弱まらず、据置式の高価な機械を持ち込むレベルで初めて事業者らしさが強まる、と整理されています。
建設の現場は安全確保のため作業時間や場所がそろいがちで、その指定が仕事の性質上やむを得ないものか指揮命令なのかを見極める必要がある、という指摘も報告にあります。AさんBさんはあくまで代表例で、実際の判断は個々の実態次第ですが、「うちの常用さんはどちらに近いか」を考えるだけでも、リスクの見当はつくはずです。
経営目線でもうひとつ見逃せないのが、建設業許可との関係です。建設業法の「建設業」は建設工事の完成を請け負う営業と定義されているため、常用(人工出し)は建設工事の請負に当たらず、許可を取るときの実務経験としても認められないのが一般的な運用とされています。将来、許可を取って請負の幅を広げたいなら、請負としての契約書類と実績を残しておくことが大事です。
常用中心から請負中心に切り替えると、儲けは「見積と原価の管理」で決まります。見積の精度が甘かったり、原価をどんぶりで掴んでいたりすると、リスクだけ背負って利幅が残りません。
まずは工事ごとに契約書をきちんと交わすこと。書き方は「工事請負契約書とは?役割や記載項目、印紙、雛形、注意点を徹底解説」で解説しています。そのうえで、見積・原価・請求をどんぶりにしない仕組みを持つこと。エクセルでも構いませんし、弊社の建設業向け業務管理システム「コンクルーAI」のように、見積から原価までまとめて管理できるツールを使う手もあります。常用で出た人工分の請求実務は「一人親方の請求書の書き方!人工代など記載項目と注意点を詳しく解説」も参考にしてください。
最後に、この記事のポイントを整理します。
常用も請負も、町場の仕事を回すうえで欠かせない形です。違いと線引きを押さえ、儲けの構造から自社に合った使い分けを考えていきましょう。すでに判断に迷う形がある場合は、最寄りの労働局や社会保険労務士など専門家に相談してみてください。