この記事は約12分で読めます。
.png&w=3840&q=75)
監督者:白澤光純
株式会社コンクルー 代表取締役CEO
この投稿をシェアする
「そろそろ、うちに固定で入ってくれないか」——応援の職人にそう声をかけたい一人親方へ。常用・請負・雇用の違いから、税務・社会保険の分かれ目、雇うと増える法定福利費の目安、最初の手続きの順番までを整理しました。
AI搭載
コンクルーAI
中小建設会社のためのAIオールインワン業務管理ツール
顧客管理・見積作成・原価管理・電子受発注・請求支払いなど全ての業務がコンクルーAIひとつで完結


応援に来てもらっている職人さんに、「そろそろ、うちに固定で入ってくれないか」と声をかけたい。仕事が増えてきて、もう一人では回らない——そう感じている一人親方は、少なくないはずです。
ただ、「雇う」という言葉が頭をよぎった瞬間、不安もよぎります。社会保険だ、雇用保険だ、給与計算だと、聞き慣れない話が一気にのしかかってくる気がする。だったら今までどおり「常用」で日当を払い続ければこのままでいけるんじゃないか——そう考えたことがある方も、多いのではないでしょうか。周りの親方に聞いても答えがバラバラだったりします。
先に結論をお伝えします。契約書の文言や、日当か月給かといった「名目」だけでは、税務上も社会保険上も決まりません。実際にどう働いてもらっているかという「実態」で判断されます。この記事では、常用・請負・雇用の違いから、税務・社会保険の分かれ目、雇うと増えるコストの目安、最初の手続きの順番までを整理していきます。ただし個別の判断は、最終的に税務署・年金事務所・労働基準監督署や顧問の税理士・社会保険労務士への確認が必要です。
「常用で日当払いにしておけば、これまでどおり外注として扱える」——そう考えたくなる気持ちはよくわかります。ですが、税務上の外注費か給与かの判定も、社会保険の適用も、契約の呼び方ではなく実態で判断されるとされています。日当払いのまま何年続けていても、働き方の実態が雇用に近ければ、あとから給与や雇用と扱われる可能性が残ります。

とはいえ、判断材料と発生するものを順番に押さえれば、そこまで複雑な話ではありません。まずは言葉の整理から始めます。
現場でよく使われる「常用」「請負」「外注」「雇用」は、それぞれ意味が違います。
「常用」は、「日当×日数」で働いてもらう、現場の慣習的な呼び方です。建設業を規律する建設業法の条文を確認しても、「常用」という言葉は一度も出てきません。つまり「常用」は法律上の区分ではなく、業界の中で使われている俗称です。地域や職種によって、指す内容が微妙に違うこともあります。
法律が実際に区別しているのは、「請負」か「雇用」かという点です。請負は、仕事の完成そのものに対して報酬を約束する契約で、誰がどう作業するかは基本的に請け負った側の裁量に委ねられます。雇用は、使用者の指揮命令のもとで働き、その対価として賃金を受け取る契約です。「常用」という支払い方は、実態としてこのどちらかに当てはまることになります。日当で払っているからといって、自動的に請負(外注)になるわけではありません。
建設業法には、こんな規定があります。「委託その他いかなる名義をもつてするかを問わず、報酬を得て建設工事の完成を目的として締結する契約は、建設工事の請負契約とみなして、この法律の規定を適用する」(出典:建設業法 e-Gov法令検索)。契約書に何と書いてあろうと、実質が「工事の完成を約束して報酬を受け取る」ものであれば、法律上は請負契約として扱われる、ということです。
建設業法には「一括下請負の禁止」という規定もあります。請け負った工事を、いかなる方法であれまるごと他人に請け負わせることを禁じるもので、民間工事で発注者の書面による事前承諾がある場合を除き、公共工事にはその例外もありません(出典:建設業法 e-Gov法令検索)。元請から受けた工事を応援の一人親方にそのまま丸投げし、自社は現場管理に関わらないというやり方は、この規定に触れるおそれがあります。工程管理・品質管理といったマネジメント業務を、元請け側(この場合はあなたの会社)が実質的に担っているかが判断のポイントとされています(出典:国土交通省「建設工事における一括下請負の判断基準を明確化しました」)。
なお、建設工事の請負契約は工事内容や請負代金の額、工期など法律で定められた事項を書面で取り交わすこととされており(出典:建設業法 e-Gov法令検索)、「常用」という口約束のままでは、そもそもこのルールから外れている可能性があります。
常用・請負・雇用の違いを簡単に整理すると、次のようになります。
常用(俗称) | 請負・外注 | 雇用 | |
|---|---|---|---|
法律上の位置づけ | 定義なし(業界の慣習) | 建設業法上の請負契約 | 労働契約 |
段取りの指示 | ケースによる | 基本的に本人の裁量 | 発注側が指揮命令 |
道具・材料 | ケースによる | 基本的に本人持ち | 会社が用意することが多い |
報酬の決まり方 | 日当×日数が多い | 業務の完成に対して | 労働時間・成果に対して |
他の現場に行く自由 | ケースによる | ある | 基本的にない |
実際には、表のようにきれいに分かれないケースも多いはずです。次の章から、税務・社会保険それぞれの判断材料を具体的に見ていきます。
一人親方に「常用」で来てもらっている場合、その報酬は税務上「外注費」として処理しているケースが多いはずです。ところがこの区分は、契約書の文言だけでは決まりません。国税庁は、大工・左官・とび職などが受け取る報酬について、次の5つの観点を総合的に考慮して判断するとしています(出典:国税庁「大工、左官、とび職等の受ける報酬に係る所得税の取扱いについて」)。
ほぼ同じ考え方は、消費税の取り扱いを定めた通達にも示されています。事業者とは自己の計算において独立して事業を行う者をいい、雇用契約に基づいて働く場合はそもそも「事業」にあたらないという原則のもと、代替性・指揮監督・報酬の請求権・材料用具の負担という観点が判断材料として挙げられています(出典:国税庁「消費税法基本通達1-1-1」)。
どれか1つで白黒が決まるわけではなく、これらを総合的に見て「どちらに近いか」を判断するという点が重要です。「常用で日当払いだから、これは外注で間違いない」とは言い切れません。実態が雇用に近いと判断されれば、契約の呼び方にかかわらず給与として扱われることがあります。
もし「これは実質、給与にあたる」と判断された場合、何が起きるのでしょうか。金額の大小はケースごとに変わるため触れませんが、構図は次のとおりです。
どの要素も、あとから覆ると複数の負担が同時に効いてくるものです。個別の状況でどちらに当たるかは、実態を見た税理士に確認するのが確実です。
税務の話とあわせて気になるのが、社会保険です。ここは「誰を」「どんな形で」雇うかによって、発生するものが変わってきます。
まず労災保険です。厚生労働省は、常勤・パート・アルバイトなど雇用形態にかかわらず、労働者を1人でも雇っている事業場は労働保険(労災保険と雇用保険の総称)への加入が法律で義務づけられていると案内しています(出典:厚生労働省「労働保険への加入について」)。労災保険は短時間で働く人も対象になり、保険料は全額を事業主が負担します。「1人だけ、週に数日だけ」という雇い方でも、労災保険は加入の対象になると考えておいたほうが安全です。
雇用保険は、労災保険と基準が少し異なります。1週間の所定労働時間が20時間以上で、31日以上の雇用が見込まれる場合に、原則として被保険者になるとされています(出典:厚生労働省岡山労働局「雇用保険の被保険者について」)。保険料は事業主と労働者の双方が負担します。つまり、最初に雇う相手が週20時間未満の短い勤務であれば、その人自身は雇用保険の対象外になることもあります。ただしその後もう一人雇い、その人が基準を満たせば、その時点で加入の手続きが必要になります。
健康保険・厚生年金保険は、事業の形態によって扱いが変わります。日本年金機構によると、株式会社などの法人の事業所は社長1人だけの会社であっても加入が義務づけられています(強制適用事業所)。一方、個人事業のままの場合は、農林漁業・サービス業など一部の業種を除き、常時5人以上の従業員を使っていることが強制加入の要件です(出典:日本年金機構「適用事業所と被保険者」)。
つまり、個人事業の一人親方が初めて1人だけ雇うという場面では、健康保険・厚生年金は法律上ただちに強制加入にはならないケースが多い、ということです。ただし、従業員の半数以上が同意して事業主が申請すれば、5人未満でも任意で加入すること(任意適用事業所)もできます。法人化している、あるいは検討している場合は、この強制加入のルールが直接関わってくるので区別して考えてください。一人親方と個人事業主の違いや保険の扱いについては、一人親方と個人事業主の違いは?保険の加入可否や従業員の制約を解説でも詳しく整理しています。
見落としやすいのが、あなた自身の労災保険です。一人親方の労災特別加入には「労働者を使用する日数」の条件があり、厚生労働省の案内では、雇う日数の合計が1年間に100日に満たない場合は引き続き一人親方等として特別加入できるとされています(出典:厚生労働省「特別加入制度のしおり」)。
逆に言うと、雇う日数が年100日を超えると一人親方としての特別加入は続けられなくなり、「中小事業主等」の特別加入に切り替える必要が出てきます。これには、雇った労働者の労働保険(労災・雇用保険)が成立していることと、その事務処理を労働保険事務組合に委託していることが条件で、建設業を含む多くの業種は常時使用する労働者数300人以下が対象とされています(出典:厚生労働省「労災保険特別加入制度について」)。毎日でなくたまに手伝ってもらう関わり方でも、年間の合計日数がどれくらいになりそうかは頭の片隅に置いておきたいポイントです。

「うちはまだ、雇うところまでは踏み切れない」と感じた方もいるはずです。それも一つの選択ですが、その場合は外注として適正な形を保っておく必要があります。
国土交通省は、法定福利費の負担を避ける目的で技能者の個人事業主化(いわゆる一人親方化)が進んでしまう懸念があるとして、「建設業の一人親方問題に関する検討会」を設け、働き方の実態を確認する自己診断チェックリストの活用などを進めています(出典:国土交通省「建設業の一人親方問題に関する検討会」)。実態が雇用に近いのに、書類の上だけ一人親方(外注)の形にしている状態は「偽装一人親方」と呼ばれ、行政が是正を求める対象になり得ます。
これは、意図的に悪いことをしているという話とは限りません。長年の商慣習のなかで、気づかないうちにそうなっているケースのほうが多いはずです。大切なのは、業務ごとに注文書・請書を交わす、請求書は相手本人の名義で発行してもらう、道具はできるだけ本人持ちにするといった「外注らしい実態」を積み重ねることです。一人親方への発注を続ける場合に整えておきたい書類やインボイスの実務は、一人親方への外注で揃える書類と実務|インボイス・外注費・偽装請負で詳しく整理しているので、あわせて確認してみてください。
実際に雇うと決めた場合、日当や月給のほかに会社としてどれくらいのお金が必要になるのか、法律で決まっている保険料の全体像を料率とあわせて整理します。
法定福利費は、健康保険料(介護保険料を含む)・厚生年金保険料(子ども・子育て拠出金を含む)・雇用保険料のうち、事業主が負担する部分を指すのが一般的です(出典:国土交通省「法定福利費を内訳明示した見積書について」)。それぞれの令和8年度の料率を見てみます。健康保険料は都道府県ごとに料率が異なり、たとえば東京支部では9.85%です(出典:全国健康保険協会「令和8年度保険料率」)。厚生年金保険料は18.3%で固定されています(出典:日本年金機構「厚生年金保険の保険料」)。雇用保険料は、建設の事業の場合で合計1,000分の16.5、うち事業主負担分は1,000分の10.5です(出典:厚生労働省「令和8年度雇用保険料率のご案内」)。

保険の種類 | 全体の料率 | 会社(事業主)負担分 |
|---|---|---|
健康保険料(協会けんぽ東京支部の例) | 9.85% | 4.925% |
介護保険料(40〜64歳が対象) | 1.62% | 0.81% |
厚生年金保険料 | 18.3% | 9.15% |
子ども・子育て拠出金 | 0.36% | 0.36%(全額事業主負担) |
雇用保険料(建設の事業) | 1,000分の16.5 | 1,000分の10.5(1.05%) |
介護保険料は40〜64歳の方が対象で、それ以外の年齢では発生しません。都道府県ごとの健康保険料率は協会けんぽのサイトで確認できるので、自社の所在地の数字に置き換えて考えてください。
これをもとに、月給30万円の職人を1人雇う場合の会社負担を試算してみます(すべて架空の例です。実際の金額は標準報酬月額の等級表に当てはめて決まるため、あくまで目安としてご覧ください)。40歳未満なら、健康保険4.925%+厚生年金9.15%+子ども子育て拠出金0.36%+雇用保険1.05%で合計15.485%、月におよそ46,000円、年間で55万円台になります。40歳以上なら、これに介護保険0.81%が加わって合計16.295%、月におよそ49,000円、年間で58万円台という計算です。
この試算は健康保険・厚生年金・雇用保険にもとづくものです。前の章で触れたとおり、個人事業のまま5人未満で働く場合、健康保険・厚生年金は法律上ただちに強制加入とはならず、その場合に発生するのは雇用保険(月給30万円で会社負担は月3,000円強)と次の労災保険にしぼられます。法人や任意加入の場合は、上記15〜16%程度の負担が発生するイメージです。
このほかに労災保険料も会社負担として発生します。建設業は工事の種類で料率の幅が大きく、建築事業(既設建築物設備工事業を除く)で1,000分の9.5、既設建築物設備工事業で1,000分の12、その他の建設事業で1,000分の15です(出典:厚生労働省「労災保険率表」)。ただし現場で働く分の労災保険は、元請が現場単位でまとめて加入する「一括有期事業」が一般的で、請負代金のなかで扱われます。自社がどちらに当たるかは労働基準監督署に確認してください。
数字だけ見ると身構えてしまうかもしれませんが、逆に言えば「日当×日数」だけでは見えていなかったコストが、これで初めて見える形になるということでもあります。
実際に雇うと決めたら、何から手をつければいいのでしょうか。大まかな順番を整理します。
雇い入れる前に、賃金や労働時間、業務内容といった労働条件を書面(またはメールなど)で明示します。「常用」のような口約束のまま働いてもらうのではなく、雇用契約であることをはっきりさせる最初のステップです。
労働者を雇ったら、事業所を管轄する労働基準監督署に「保険関係成立届」を提出します。雇用保険の対象になる人を雇う場合は、あわせてハローワークに「雇用保険適用事業所設置届」と「雇用保険被保険者資格取得届」を提出します。保険関係成立届は成立した日から日をおかずに届け出るのが基本とされているので、早めに動くのが安心です。正確な期限や必要書類は、管轄の労働基準監督署・ハローワークで確認してください。
法人の場合、または個人事業で強制適用・任意適用の対象になる場合は、年金事務所で新規適用の手続きを行い、雇った人ごとに資格取得の届出をします。
前述のとおり、雇う日数によっては一人親方としての特別加入から中小事業主等の特別加入へ切り替える必要が出てきます。特別加入団体や労働保険事務組合に、早めに相談しておくと安心です。
これらの手続きは、初めてだと迷う部分も多いはずです。頻繁に人を雇うわけではないなら、最初の1人を雇うタイミングだけ、社会保険労務士に単発で相談してしまうのも現実的な選択肢です。顧問契約を結ばなくても、スポットで手続きを代行・確認してくれる社労士事務所は少なくありません。
「常用」という言葉には、法律上の定義がありません。日当で払っていようが、長年の付き合いだろうが、実態が雇用に近ければ、税務上も社会保険上も雇用として扱われることがあります。逆に、外注として適正な形を保てば、無理に雇用契約に切り替える必要もありません。大事なのは、名目ではなく実態で判断するという一点です。
この記事で挙げた判定要素や保険の要件は、あくまで一般的な目安です。あなたの会社の状況にそのまま当てはまるとは限りません。外注費か給与か、社会保険に入るべきかどうかの最終的な判断は、所轄の税務署・年金事務所・労働基準監督署、あるいは顧問の税理士・社会保険労務士に確認してから進めてください。仕事が増えて人手が必要になったというのは、喜ばしい変化のはずです。その変化に制度の話でつまずくことがないよう、一つずつ整えていきましょう。