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監督者:白澤光純
株式会社コンクルー 代表取締役CEO
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残業の上限規制が始まって2年。労働時間・休日・倒産・労務単価は実際どう動いたのかを公的データで確認しました。大手と町場でまるで違う休みの実態と、小さい会社がいまから打てる現実的な手までまとめています。
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「2024年問題で建設業は大変なことになる」——2023年ごろ、そう散々言われましたよね。それから2年以上が経ちました。うちは相変わらず職人が足りず、元請からの書類は増え、若い職人の取り合いは激しくなった気がする。でも、それが業界全体の話なのか自社だけなのか、正直よく分かりません。ニュースは大手ゼネコンの話ばかりだからです。この記事では、2024年4月の残業規制から2年が経ったいま公表されている公的データをもとに、実際何が起きたのかを整理し、小規模な会社が今日から取れる現実的な対策も紹介します。
先に結論からお伝えします。2024年4月の残業規制の適用から2年が経ち、建設業ではおおよそ次の3つが同時に進んでいます。
規制で一気に何かが解決したわけでも、逆に業界が崩壊したわけでもありません。「長時間労働に頼れない前提」で、休日・単価・工期のあり方がゆっくり組み替えられている、というのがこの2年間の実態に近いといえそうです。

本題に入る前に、何が変わったのかを最小限だけおさらいします。
2024年4月、建設業にも時間外労働の上限規制が適用されました。他産業には2019年4月(中小企業は2020年4月)から適用済みでしたが、建設業や自動車運転の業務などは5年間の猶予が設けられており、その猶予が切れたのが2024年4月です(出典:厚生労働省「建設業従事者の長時間労働改善に向けたポータルサイト」)。
規制の中身を表にまとめます。
区分 | 上限 |
|---|---|
原則 | 時間外労働は月45時間・年360時間まで |
特別条項(臨時的な特別の事情がある場合) | 時間外労働は年720時間まで |
特別条項でも守るべき上限① | 時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満 |
特別条項でも守るべき上限② | 時間外労働と休日労働の合計が2〜6か月平均で80時間以内 |
特別条項でも守るべき上限③ | 月45時間を超えられるのは年6回まで |
(出典:厚生労働省「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」)
これを超えると罰則の対象になります。6か月以下の拘禁刑、または30万円以下の罰金です(2025年6月の法改正で、それまでの「懲役」という呼び方が「拘禁刑」に統一されました)。対象になるのは会社(使用者)側で、働いた人が罰せられることはありません(出典:厚生労働省「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」)。
この骨格は現時点でも変わっていません。ここから先は、2年間でデータ上どう動いたかを見ていきます。
まず労働時間そのものです。国土交通省の資料によれば、規制適用から日が浅い2023年度の時点で、建設業の年間実労働時間は2,018時間。全産業平均の1,956時間より62時間長い状態でした(出典:国土交通省「国土交通白書2025」)。
直近の状況を見ると、日本建設業連合会(日建連)の最新ハンドブックでは、建設業の年間出勤日数は235日で減少傾向にあるものの、調査産業計より26日、製造業より11日多いのが現状です。年間労働時間も、調査産業計より約237時間、製造業より約40時間長い状態が続いています(出典:日本建設業連合会「建設業の現状」)。「減ってはいるが、他産業より長い」という構図は、まだ解消されていないというのが実態に近い読み方です。

ここで大事な注意点があります。「建設業の週休2日は進んでいる」という報道は、半分正しく、半分は母集団を確認する必要がある話です。
日建連の会員企業(大手・準大手ゼネコンが中心)の調査では、2025年度上半期(2025年4〜9月)の全作業所で4週8閉所の達成率が66.4%まで来ています。前年の同じ時期より5.3ポイント上がった数字です(出典:日本建設業連合会 週休二日実現行動計画 2025年度上半期フォローアップ報告書)。
一方、専門工事業者の団体でつくる建設産業専門団体連合会(建専連)が2025年11〜12月に、正会員34団体の所属企業とその下請け(751件の回答)を対象に行った調査では、技能者本人の4週8休の達成率は18.9%(前年度比8.6ポイント増)にとどまっています。公共工事が主体の企業でも約40%、民間工事が主体の企業では約10%です(出典:建設産業専門団体連合会の調査結果を報じた記事)。
つまり「元請の現場閉所率」と「技能者本人の休日取得率」はまったく違う数字だということです。日建連のデータは大手・元請中心であり、そのまま町場の実感として受け取ると実態とズレます。建専連の調査で「週休2日導入が難しい理由」の1位は「適正な工期が確保できていない」、次いで「元請けが休ませてくれない」でした(出典:建設産業専門団体連合会の調査結果を報じた記事)。
次に、経営体力に関わる数字を見ていきます。
帝国データバンクの集計によると、2025年の建設業の倒産は2,021件(前年比6.9%増)でした。2013年以来12年ぶりに2,000件を超え、過去10年で最多の水準です(出典:帝国データバンク「建設業の倒産動向2025年」)。
倒産に至らず事業をたたむ「休廃業・解散」はさらに多く、東京商工リサーチの集計では2025年に建設業で1万283件(全体に占める割合15.3%、前年比9.5%増)にのぼりました(出典:東京商工リサーチ「2025年の休廃業・解散」プレスリリース)。
2026年上半期(1〜6月)も、帝国データバンクの集計で建設業の倒産1,043件(前年同期比5.8%増)、休廃業・解散4,894件(同27.8%増)となり、合計5,937件は上半期として過去最多だった2009年(5,811件)を上回っています(出典:帝国データバンク「建設業の倒産・休廃業解散動向2026年上半期」)。
ここで注意したいのは、これらの数字だけから「残業規制のせいで倒産が増えた」と結論づけることはできない点です。資材価格の高騰や金利上昇、後継者不在など要因は一つではありません。ただし、規制適用後の2年間にこの水準の倒産・廃業が公表されているのは事実です。
帝国データバンクによると、2026年上半期の「人手不足倒産」は全国で227件(前年同期比12.4%増)。5期連続で上半期の過去最多を更新し、業種別では建設業が65件で最多です(出典:帝国データバンク「上半期の倒産件数2年連続で5000件超え」プレスリリース)。
就業者数そのものも減り続けています。総務省「労働力調査」によると、建設業の就業者数は2025年に478万人で、ピーク時(平成9年)の約7割まで減少しました。年齢構成では55歳以上が36.7%を占める一方、29歳以下は11.7%にとどまり、他産業に比べて高齢化が目立ちます(出典:総務省「労働力調査」を引用した日本建設業連合会の資料)。建設業全体が抱える人手不足の構造的な背景については、建設業の課題とは?でも幅広く整理しています。
一方で、明るい材料もあります。国土交通省が公表した2026年3月から適用の公共工事設計労務単価は、全国・全職種の単純平均で前年度比4.5%の引き上げとなり、加重平均は25,834円と初めて25,000円を超えました。14年連続の上昇です(出典:国土交通省「公共工事設計労務単価について」)。労務単価がそのまま自社の請求額に直結するわけではありませんが、「技能者の賃金を上げる方向で国が単価を動かし続けている」という事実は、見積や価格交渉の材料になります。
ここまでの数字を踏まえて、実際に町場の現場で起きている変化を整理します。うわさや肌感覚ではなく、報道・公的な調査で確認できる範囲にとどめます。
元請からの工期・書類の要求は厳しくなっています。建専連の調査で「週休2日導入が難しい理由」の最多回答が「適正な工期が確保できていない」だったことは先ほど触れたとおりです。国土交通省も、著しく短い工期での契約を禁止するルールや、労務費の内訳を見積に明示する仕組みを2025年12月に本格運用に乗せるなど、発注者側の姿勢を制度で正すほうへ動いています。
職人・技能者の取り合いは、単価の面でも表れています。前述のとおり公共工事設計労務単価は14年連続で上がっており、これは「単価を上げないと人が集まらない・辞めていく」という需給の圧力が統計にも表れていると読めます。
外注費の上昇は、倒産統計の裏側にもうかがえます。帝国データバンクの分析では、建設業の人手不足倒産の背景として「若手の不足と高齢の職人の引退による作業員不足」に加え「外注費が高騰する中での人件費増」も挙げられています(出典:帝国データバンク「上半期の倒産件数2年連続で5000件超え」プレスリリース)。人を確保するための外注費上昇に、価格転嫁が追いつかない会社から先に苦しくなっている構図です。
まとめると、「規制でルールは変わったが、それに見合うだけ工期や金額が調整されているとは限らない」というギャップが、2年経ってもなお町場の現場に残っている、というのが実態に近いと言えそうです。
規制そのものを変えることはできません。ですが、「時間の使い方」「工期の決め方」「金額の決め方」という3つのレバーは、自社の交渉と工夫で動かせる余地があります。
一番手をつけやすいのがここです。見積書の作成、写真や日報の整理、請求書のとりまとめといった事務作業に、思いのほか時間を取られている会社は少なくありません。手戻りや、現場と事務所の間の移動・電話でのやり取りも、積み重なると大きな時間になります。
紙の書類をなくす、写真の整理を自動化するなど、業務管理システムを使って事務作業の時間そのものを圧縮する会社も増えています。建設業の業務管理を効率化する方法については、建設業の業務管理を効率化するには?で具体的に整理しています。「コンクルーAI」のような建設業向けのクラウドサービスも、見積・原価管理・日報といった事務作業の時間を圧縮する選択肢のひとつです。規制で減った分の時間を、現場の稼働ではなく事務作業の効率化から捻出する、という発想です。
2つ目のレバーは、工期そのものへの向き合い方です。
建設業法は、著しく短い工期での請負契約を発注者・受注者双方に禁止しています(建設業法第19条の5、2020年10月施行)。何が「著しく短い工期」にあたるかは、中央建設業審議会が勧告した「工期に関する基準」が目安になります。違反した発注者には国土交通大臣などが勧告できる仕組みで、対象は請負代金500万円以上(建築一式工事は1,500万円以上)の工事です(出典:国土交通省「工期に関する基準の実施を勧告」)。
「今までもこの工期でやってきたから」で終わらせず、「この工期で週休2日を確保しようとすると、この人数では収まりません」と、見積の内訳や工程表で具体的に示しながら伝える。制度がその交渉の後ろ盾になっている、という点を知っておくだけでも、話の切り出しやすさは変わってきます。
3つ目は、上がったコストを金額に反映することです。2025年12月に本格運用が始まった「労務費に関する基準」(標準労務費)は、見積書に労務費の内訳を示す努力義務を定めた制度です。詳しい内容と小規模な会社での実務対応は、標準労務費で見積もりはどう変わる?で解説しています。
公共工事設計労務単価が14年連続で上がっているという事実も、価格交渉の材料になります。「国の単価がこれだけ上がっている中で、この金額では人を確保できません」という説明は、感覚論ではなく数字に基づいた交渉になります。

働き方改革に取り組む中小企業向けに、厚生労働省の「働き方改革推進支援助成金・業種別課題対応コース」があります。長時間労働の是正に取り組む建設業の中小企業事業主も対象で、対象経費の4分の3(一定の要件を満たす場合は5分の4)が助成されます。2026年度は4月13日から申請を受け付けており、交付申請の期限は11月30日です(出典:厚生労働省「働き方改革推進支援助成金・業種別課題対応コース」)。
書類のデジタル化や勤怠管理の仕組みづくりにかかる費用を、こうした助成金でまかなえないか、最寄りの労働局や社会保険労務士に確認してみる価値はあります。助成金は年度ごとに内容が変わるため、申請時は最新の公募要領を確認してください。
2024年4月の残業規制から2年。データを見る限り、労働時間の長さも倒産・廃業の多さも、簡単には解消していません。それでも単価は14年連続で上がり、工期や労務費の見積もりを適正化する制度も動き出しています。「対応しないと罰則がある」という守りの理由だけでなく、「休日と適正な単価を用意できる会社が人に選ばれる」という理由が、この2年で現実味を帯びてきたと言えそうです。
人手不足はこれからも簡単には解消しません。だからこそ、休日を確保できること、適正な工期と単価で仕事を受けられることは、これからの採用・受注の両方で強みになります。まずは自社の工期の決め方、見積の労務費の内訳、日々の事務作業にかかる時間から、見直せるところがないか棚卸ししてみてください。