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監督者:白澤光純
株式会社コンクルー 代表取締役CEO
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設備や資材の納期遅れで引き渡しが延びそう。施主から『その間の家賃を払え』と言われたら、応じるしかないのでしょうか。工期の遅れがそのまま賠償になるとは限りません。民法や約款をふまえ、資材遅延の責任の分かれ目、払うとしたら何を、揉めないための動き方までを業者目線で整理します。
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【今回のケース】工務店・従業員15名の会社
「注文住宅を請け負い、来月の引き渡しに向けて進めてきたのですが、キッチンやユニットバスといった住宅設備機器の納期が、メーカー側の都合で大きく遅れてしまいました。このままだと、引き渡しが1か月ほどずれ込みそうです。施主さんからは『その間に住むアパートの家賃は誰が払うんだ。おたくの都合で遅れるんだろう』と、遅れたぶんの家賃を弁償するよう求められています。資材が届かないのはうちのせいではないのに、本当に払わなければいけないのでしょうか。」
※この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の案件についての法的助言ではありません。実際の取り扱いは契約内容や状況によって変わります。判断に迷うときや相手方と争いになりそうなときは、弁護士などの専門家にご相談ください。
資材や設備の納期遅れは、いまや本当にどこの現場でも起きていますよね。自分たちは段取りどおり動いているのに、川上のメーカーで止まってしまうと、どうにもならない。それなのに、しわ寄せの矢面に立たされるのはいつも引き渡し窓口の自分たち――というのは、本当にやるせないところだと思います。結論からお伝えすると、工期が遅れたからといって、その遅れによる損害をそのまま施主に賠償しなければならない、と決まっているわけではありません。工期遅延の損害賠償は、「遅れたかどうか」ではなく「その遅れがあなたのせいと言えるかどうか」で決まります。この記事では、賠償義務が生じる分かれ目から、払うとしたら何をどこまでか、契約書・約款の遅延条項の読み方、そして角を立てずに乗り切る動き方までを、請け負う側の目線で順番に整理していきます。
いちばん気になっているところにお答えします。工期が予定より延びたとしても、それだけで自動的に損害賠償の義務が発生するわけではありません。カギをにぎるのは、その遅れがあなた(請負人)の責任と言えるかどうかです。
根拠になるのは民法です。民法415条は、約束どおりに仕事を仕上げられなかったとき(履行遅滞)、相手はそれによって生じた損害の賠償を請求できる、と定めています。ただし、ここには大事な「ただし書き」がついています。その不履行が「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由」によるものであるときは、この限りでない――つまり、あなたに落ち度がなければ、賠償の義務は原則として負わない、ということです(出典:e-Gov法令検索・民法)。
2020年4月に施行された改正で、この「責めに帰することができない事由(帰責事由)」の考え方が、遅れの場合にもはっきり当てはまることが条文上も整理されました。ですから、「引き渡しが遅れたのだから、その間の損はぜんぶ払え」という施主の言い分に、頭から従う必要はありません。まずは「この遅れは、誰のどんな事情で起きたのか」を落ち着いて切り分けるところから始めましょう。

では、今回のような「メーカーの納期遅れ」は、どちらの責任になるのでしょうか。ここが実務でいちばん悩ましいところです。「資材のせい」と一言で言っても、その中身によって結論が変わってきます。
世界的な半導体不足や住宅設備の品薄、メーカーの生産ラインの都合による遅れ、災害や物流の途絶――こうした、あなたの側では予見も回避もできなかった事情で資材が止まったのなら、それはあなたの落ち度とは言えません。近年の設備機器や給湯器の慢性的な納期遅延は、多くが川上のメーカー側で発生しているもので、一工務店の努力でどうにかできる範囲を超えています。こうしたケースは、民法415条のただし書き(帰責事由なし)にあたり、遅延の損害賠償義務は原則として生じない方向に傾きます。
いっぽうで、同じ「資材の遅れ」でも、そこにあなたの段取りの問題が絡んでいると話は変わります。たとえば、発注そのものを忘れていた・先延ばしにしていた、納期遅れの連絡を受けていたのに施主に伝えず放置していた、代替品を探すなどの手を打てたのに何もしなかった、あるいはそもそも余裕のない工期で安請け合いしていた――こうした事情があると、「資材のせい」ではなく「あなたの対応のせい」と評価され、賠償責任を問われる可能性が出てきます。
つまり、実際の争いでは「資材が遅れたか」よりも「あなたが落ち度なく動いていたと言えるか」が焦点になります。原因がメーカーにあっても、報告や代替策を怠れば足をすくわれる。逆に言えば、後ほど触れる「早めの報告」や「記録づくり」は、そのまま自分を守る備えにもなるのです。
次に、仮にあなたの側に落ち度があって賠償することになった場合、いったい何をどこまで払うのか、という話です。ここでも上限のない青天井ではなく、法律が範囲を区切っています。
目安になるのは民法416条です。賠償の対象になるのは、原則としてその遅れによって「通常生ずべき損害(通常損害)」とされています。特別な事情から生じた損害(特別損害)は、その事情を当事者が予見すべきであったときに限って対象になります(出典:e-Gov法令検索・民法)。むずかしく聞こえますが、要は「引き渡しが遅れたら普通はこれくらい困るよね」という範囲のものが対象で、その人だけの特殊な事情による損は、事前に分かっていた場合だけ、ということです。
今回のご相談にある「引き渡しが延びた間のアパート家賃」は、まさに通常損害の代表例です。新居に入れないぶん、施主は仮住まいの家賃を余計に払うことになりますから、これは遅れによって通常生じる損害として認められやすいものです。ほかにどんなものが対象になりやすいか、整理してみます。
費目の例 | 損害の区分 | 賠償の対象になりやすさ |
|---|---|---|
引き渡しが延びた間の仮住まい・アパート家賃 | 通常損害 | なりやすい |
つなぎ融資・二重ローンで余計にかかる利息 | 通常損害 | なりやすい |
予定していた引っ越しを延期した費用 | 通常損害 | なりやすい |
「入居後すぐ始める予定だった商売の儲け損ね」などの特殊事情 | 特別損害 | 施主の事情を予見できた場合に限られる |
ここで押さえておきたいのは、これらはあくまで「あなたに落ち度があって賠償する場合」の範囲だということです。前の章のとおり、遅れの原因があなたにないのであれば、そもそもこの支払い自体が原則として生じません。家賃の話が出ると気持ちがあせりますが、まずは「払う立場なのかどうか」から確認するのが順番です。
法律の原則を押さえたら、次は自分の契約書を開いてください。実は、揉めごとの多くはここで決着がつきます。契約書やその下敷きになった約款に、遅れたときの取り決めが書かれていることが多いからです。とくに次の3つに目を通しておきましょう。
受注者の責めによる遅れについて、「遅滞日数に応じて、請負代金額に年◯%の割合で計算した額」といった違約金の予定額が定められている契約があります。民間の工事で広く使われている約款では、年10%程度の率を目安に置く例がみられます。こうした予定額が契約で決められている場合、実際の損害がそれより多くても少なくても、原則としてその予定額で精算することになります。まずは自分の契約書に、この種の条項が入っているかどうかを確認してください。
多くの約款には、天災地変など「当事者のどちらの責めにも帰することができない事由」を不可抗力と定め、それによって生じた損害を誰がどう負担するかのルールが置かれています。資材の広域的な品薄や物流の途絶が、この不可抗力にあたるかどうかは、約款や契約の書きぶりによって変わります。自分の契約でどう定義されているかを読んでおくと、「これは不可抗力だから」と主張する際の足場になります。
ここがいちばん見落とされがちで、いちばん大事なところです。標準的な約款には、不可抗力やその他の正当な理由があるとき、受注者のほうから工期の延長(変更)を請求できるという規定が置かれています。ただし、これは黙っていても勝手に工期が延びる仕組みではありません。多くの場合、「その事由が生じたら、所定の手続きで、書面などにより延長を申し出る」ことが前提になっています。何を盛り込むべきか迷うときは、国土交通省の中央建設業審議会がまとめている民間建設工事標準請負契約約款が参考になります。中小規模の工事向けに、よりシンプルな(乙)も用意されており、不可抗力・工期変更・損害に関する条項が整理されています(出典:国土交通省・建設工事標準請負契約約款について)。
条項の話を押さえたうえで、では実際にどう動けば揉めずにすむのか。ポイントは3つ、「早く」「書面で」「代替案とセットで」です。順番に見ていきましょう。
何よりも効くのが、早い報告です。メーカーから「納期が厳しい」という一報が入った時点で、はっきり見通しが立っていなくても、施主に状況を共有しておきましょう。前の章のとおり、遅れを黙っていた期間は「対応の落ち度」と評価されかねません。逆に、早めに正直に伝えていた事実は、あなたが誠実に動いていた証拠になります。言いにくい話ほど、先送りが命取りになります。
新しい引き渡し予定日が見えてきたら、口約束ではなく工期変更の合意書を交わしましょう。新しい引渡日はもちろん、「今回の遅れはメーカーの納期遅延が原因であること」「その責任の所在」まで一文で書き添えておくと、あとで「言った・言わない」になりません。こうした遅れが工程全体にどう響くのかを施主に説明する際は、作業のつながりを図にしたネットワーク工程表の使い方をまとめた記事も役に立ちます。「この設備が入らないと、この作業に進めない」を目で見せられると、相手の納得感がまるで違います。
遅れの原因が自分にないことを示すいちばんの材料は、メーカーからの納期回答です。「◯月◯日納品予定が△月△日に変更」といったメールや注文書は、そのまま消さずに保存しておきましょう。そのうえで、代替メーカーの製品への切り替えや、設備以外の部分を先に仕上げて一部だけ先行して引き渡すといった代替案をセットで提案できると、「困った、困った」で終わらず「なんとかしようとしてくれている」という印象に変わります。これも、あなたが落ち度なく動いた記録になります。

ここまで読んで、「そもそも遅れの余地がない工期で受けているのが問題では」と感じた方もいるかもしれません。そのとおりで、いちばんの予防は入口、つまり見積り・契約の段階にあります。
資材の納期が読みにくい時代に、余裕のない工期で安請け合いをすると、少しの遅れですぐ「工期内に間に合わない」状態に追い込まれます。これは「工期ダンピング」とも呼ばれ、いまは法律も問題視しています。建設業法19条の5は、注文者が「通常必要と認められる期間に比して著しく短い期間を工期とする請負契約」を結んではならないと定めており、令和6年法律第49号による改正で、令和7年(2025年)12月12日から、この規制は建設業者(受注者)自身が著しく短い工期で契約を結ぶことにも広げられました(出典:e-Gov法令検索・建設業法)。無理な短工期は、もはや「頑張り」ではなくルール違反になりうる、という時代です。
では、どれくらいの工期が「適正」なのか。その物差しとして、中央建設業審議会が「工期に関する基準」をまとめています。ここでは、資材の調達期間や、休日・天候、関係者との調整などを、あらかじめ工期に織り込んで考えるべきだと示されています(出典:国土交通省・工期に関する基準)。実務的には、見積書や契約書に「本見積りは主要設備の納期を◯週間と見込んだもの。納期が変動する場合は工期を協議する」といった一文を入れておくだけで、いざというときの拠りどころができます。契約書に何を盛り込むべきかは、工事請負契約書に入れておきたい項目を解説した記事もあわせて読んでみてください。
手を尽くしても施主と折り合えないときは、無理にふたりで抱え込まず、第三者の力を借りましょう。いきなり弁護士や裁判に持ち込むと、手間もお金もかかってしまいます。
建設工事の請負契約をめぐる争いには、建設業法にもとづく建設工事紛争審査会という専門機関があります。あっせん・調停・仲裁といった手続きで、裁判より簡易・迅速に解決を図ることができ、法律や建築・土木の専門家が委員として関わってくれるのが心強いところです(出典:国土交通省・建設工事紛争審査会)。
相手が個人のお客様で、住宅の新築やリフォームをめぐるトラブルなら、国土交通大臣が指定した住まいるダイヤル(住宅リフォーム・紛争処理支援センター)の電話相談も使えます。建築士の資格を持つ相談員が、中立の立場でアドバイスをしてくれます(出典:住まいるダイヤル(住宅リフォーム・紛争処理支援センター))。「これは自分だけで抱える話なのか」と迷ったら、まずはこうした窓口に事情を話してみるだけでも、気持ちがずいぶん軽くなります。
資材が届かないだけでも胃が痛いのに、そのうえ賠償まで求められると、本当に参ってしまいますよね。ですが、繰り返しになりますが、工期が遅れたこと自体が、そのまま賠償の義務につながるわけではありません。まずは落ち着いて「この遅れは誰のせいか」を切り分け、早めの報告と記録で自分の誠実さを形に残しておく。それだけで、立てる場所がずいぶん変わってきます。この「建設業のトラブル相談」では、こうした「聞いてもいいのかな」と思うような、社長業のちょっとした困りごとを、これからも一緒に考えていきます。