求人を出しても応募が来ないのに、育てた職人から辞めていく。給料がとくに高いわけでもないのに辞めない同業もいます。建設業の離職の実態を統計で確認し、辞める会社に共通する7つの点と、お金をかけずに今日から直せることを整理しました。
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また一人、辞めていきました。理由を聞けば「一身上の都合」。求人を出しても応募は来ないのに、時間をかけて育てた職人から抜けていく。「結局は給料か」と思う一方で、同業で給料がとくに高いわけでもないのに、職人が辞めない会社があることも知っています。うちと何が違うのか——。
一人辞めるたびに、残ったメンバーへのしわ寄せも増えます。工期は変わらないのに人手だけが減り、忙しさに拍車がかかって、また次の一人が辞めやすくなる——そんな悪循環に心当たりがある方も多いはずです。
職人が辞める理由は、給料だけではありません。この記事では、公的な統計で離職の実態を確認したうえで、職人が辞める会社に共通する7つの点と、給料を上げる以外に今日から直せることを、お金のかからない順に整理します。
まず、数字で確認しておきます。
厚生労働省「雇用動向調査」によると、令和6年の建設業の年間離職率は10.0%で、全産業計の14.2%より低くなっています(出典:厚生労働省 雇用動向調査)。「建設業は人が辞めやすい」というイメージとは裏腹に、在籍している人だけを見れば、むしろ辞めない業界に見えます。
ただし、これは在籍年数の長いベテランが多い分、平均が下がって見えている面があります。問題は入口、つまり若手・新人の定着です。
厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況」によると、高校を卒業して建設業に就職した人(令和4年3月卒業者)のうち、卒業後3年以内に離職した人の割合は41.4%(令和7年6月時点の集計)。全産業計の37.9%より高く、直近4年連続で40%を超えています(出典:厚生労働省 新規学卒就職者の離職状況)。10人採用しても、3年後に残っているのは6人に届かない計算です。求人広告費、面接や研修にかけた時間、独り立ちするまで先輩が付き添う人件費——採用から3年以内に辞められると、そのほとんどが回収できないまま消えていきます。
背景の一つに、建設業で働く人の高齢化があります。令和4年時点で、建設業に就業する人のうち55歳以上は35.9%、これからを担う29歳以下は11.7%にとどまります(出典:国土交通省 建設業を巡る現状と課題)。ベテランが少しずつ引退していく中で若手が定着しなければ、現場を支える人自体がいなくなってしまいます。建設業全体が抱える人手不足の構造については、建設業の課題とは?近年の状況・動向や解決法、2030年問題を解説でも詳しく整理しています。
では、辞める理由は給料なのでしょうか。同じ厚生労働省の調査で、転職者が前の職場を辞めた理由(全産業・男性)を見ると、「給料等収入が少なかった」は10.1%です。一方で「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」8.6%と「職場の人間関係が好ましくなかった」9.0%を合わせると17.6%になり、給料単体を上回ります(出典:厚生労働省 雇用動向調査)。建設業に限った数字ではありませんが、給料だけがすべてではないことを示す手がかりにはなります。「給料さえ上げれば辞めない」という思い込みで手を止めてしまうと、労働条件や人間関係といった、実はもっと直しやすい部分を見過ごすことになりかねません。

ここからは、現場でよく聞く「職人が辞める会社」の共通点を7つに整理します。上の統計が証明しているのは、あくまで離職理由の大まかな分類までです。以下の7つは、その分類とも重なる形で現場の声を編集部が整理したもので、「調査で証明された事実」ではなく「現場でよく聞く指摘」として読んでください。
来週の現場がいつ休みになるか、金曜日にならないと分からない。雨予報でも「行けたら行く」で待機になる。家族との予定も、子どもの行事も、通院も、いつも会社の都合待ちになってしまいます。
工程のしわ寄せは、まっさきに職人の生活に来ます。休みが読めない生活が続くと、家族から「この仕事、続けるの」と聞かれる場面が出てきます。休みが読めないこと自体が、辞める決め手になっているケースは少なくありません。
今日からできるのは、天候に大きく左右されない範囲の予定だけでも、1週間先まで先に出すことです。急な変更は仕方ないとしても、前日までに一報を入れるだけで、受け取る側の印象は変わります。2週間先まで休みの見込みが分かる会社と、前日にならないと分からない会社とでは、家族の受け止め方がまるで違います。
頑張っても、何をどうすれば単価が上がるのか、誰も説明してくれない。上がるときも上がらないときも理由がはっきりせず、ベテランの勘や社長のそのときの都合で決まっているように見えてしまう。
頑張りが数字に結びつかないと、頑張る理由自体が見えなくなります。とくに向上心のある若手ほど、基準がはっきりしている同業他社に目が向きやすくなります。逆に言えば、基準さえ見えていれば、今の単価に多少の不満があっても「あと何ができれば上がるか」が分かるだけで、納得感はまるで違ってきます。
いきなり立派な評価制度を作る必要はありません。まずは「この作業を一人でできるようになったら単価がいくら上がる」という対応関係を、紙1枚に書き出すところから始められます。
材料が届かず、現場でただ待つ時間がある。前工程の段取りが悪くて、せっかく仕上げた箇所をやり直す。腕のある職人ほど、この手待ち・手戻りにいら立ちを感じます。
段取りの悪さは、職人にとって「自分の腕を無駄にされている」感覚に直結します。技術に自信がある人ほど、こうした無駄の多い現場に早く見切りをつけます。手待ちの時間は給料には表れませんが、職人の気持ちのうえでは確実にマイナスとして積み上がっています。
前日か当日の朝に、その日使う材料・図面・担当箇所を一度声に出して確認するだけでも、手戻りはかなり減らせます。情報共有のやり方を見直したい場合は、建設業の現場管理を効率化する方法!効率化が急務な理由と注意点とはもあわせて参考にしてください。
使っている工具は刃こぼれしたまま、車両も古いまま。現場の休憩スペースやトイレの状態も、後回しにされがちです。
これは「会社が自分たちの働く環境を大事にしていない」というシグナルとして、職人には伝わります。売上や利益の話をされるより、道具や現場環境の粗末な扱いのほうが、辞めたい気持ちに直結しやすいものです。新しい重機や大がかりな設備投資の話ではなく、日々手にする工具や車両の状態こそが、毎日の実感として効いてきます。
すべてを一気に変える必要はありません。消耗品や小さな備品から、壊れたら直す・古くなったら替えるという当たり前のサイクルを、まず一つ作ることが出発点になります。
新人への教え方が、「見て覚えろ」の一言で終わっている。分からないことを聞くと、怒られたり面倒がられたりする。同じ作業でも、教える人によって説明が違う。
こうした教え方は、とくに入ったばかりの若手の初期離職に直結します。何を聞いていいのか分からないまま孤立し、数か月で辞めていくパターンです。教える側に悪気がなくても、「教わっていない」と感じさせてしまえば、若手にとっては同じことです。
完全なマニュアルは不要です。まずは最初の1週間だけでも「誰が・何を・どの順番で教えるか」を決めておくだけで、新人が抱える不安はかなり減ります。
現場作業が終わったあと、日報の記入、写真の整理、報告書の作成を、職人が一人で夜遅くまで片付けている。本来の仕事である「作る」以外の負担が、じわじわと積み重なっていきます。
体力的な疲労より、こうした事務作業の負担のほうが、辞めたい気持ちを静かに後押しすることがあります。とくに、紙とExcelが混在した書類仕事は、慣れていない人ほど時間を取られます。現場で汗をかいた後にパソコンに向かう1時間は、体感としてはその何倍にも重く感じられるものです。
書式をテンプレート化する、記入項目を必要最小限に絞るなど、書類仕事そのものを軽くする工夫が有効です。建設業の作業日報の目的や記載内容、テンプレート、効率化の方法とはもあわせて参考にしてください。
社長と顔を合わせるのは、朝礼のときか、たまに現場に顔を出したときだけ。込み入った話をする場所も時間もありません。不満があっても、誰に言えばいいのか分からないまま抱え込みます。
不満を溜める場所も吐き出す場所もない状態が続くと、辞意は会社側から見て「突然」に見えます。実際には、辞める何か月も前から少しずつ溜まっていたことがほとんどです。現場では話しづらいことも、現場を離れた短い雑談の中でなら口に出せる、ということもあります。
面談という形にこだわらなくてかまいません。月に1回、10分でいいので、仕事の話を離れた雑談の時間を作るだけでも、変化の兆しに気づきやすくなります。

7つを一度に直そうとすると、どれも中途半端になります。お金のかからない順に、3段階に分けて考えてみてください。
ステップ1:今週からできること(コストはかかりません)
翌週の休みの見込みを、天候に大きく左右されない範囲で早めに伝えること(①)。月1回、10分だけの雑談の時間を作ること(⑦)。この2つは、道具も予算も必要ありません。今週から始められます。
ステップ2:仕組みを見直す(小さな投資で済みます)
朝の段取り確認を習慣にし、書類仕事をテンプレート化すること(③⑥)。工具や現場環境は、壊れたものから順に直していくこと(④)。ここは多少の手間やコストがかかりますが、大きな投資は不要です。
ステップ3:制度をつくる(少し腰を据えて)
単価が上がる条件を紙に書き出すこと、新人の教え方の手順を決めること(②⑤)。ここまで来ると社内のルールとして根付かせる作業になるので、多少の時間がかかります。①〜⑥を放置したままステップ3だけ整えても、効果は限定的です。生活に関わる部分(ステップ1)から手をつけるのが、遠回りに見えて近道です。
3つとも一度にやろうとせず、まずはステップ1の2つだけ、今週のうちに実行してみてください。それだけでも、職人が会社を見る目は変わり始めます。

ここまで、給与を上げる以外に直せることを中心に見てきました。誤解のないよう先に触れておくと、これは「給与を上げなくていい」という話ではありません。
業界全体を見れば、賃金を底上げする動きはすでに進んでいます。公共工事設計労務単価は令和8年3月適用分で全国全職種の加重平均が25,834円となり、14年連続で上昇しました(出典:国土交通省 令和8年3月から適用する公共工事設計労務単価について)。2025年12月には、中央建設業審議会が技能レベルごとに支払うべき賃金の目安を示す「労務費に関する基準」(標準労務費)を勧告し、運用が始まっています(出典:国土交通省 労務費に関する基準)。標準労務費が見積もりにどう影響するかは、標準労務費で見積もりはどう変わる?施行半年の現在地と小規模建設会社の実務対応で詳しく整理しています。
問題は、1〜7を放置したまま賃上げだけを進めた場合です。給料を上げても、休みが読めない・単価の基準が見えない・雑務が丸投げのままといった辞める理由がそのまま残っていれば、採用コストだけが上がり、定着率は変わらないという結果になりかねません。底に穴が空いたバケツに水を注ぎ足しているようなもので、注ぐ量を増やす前に、穴をふさぐ作業が要ります。給与と、この記事で挙げた7つは、両方そろって初めて効いてきます。
最後に、7つの共通点をチェックリストの形で振り返ります。当てはまる項目があっても、それは「ダメな会社」という意味ではありません。多くの会社に起きている、構造的な課題です。当てはまる数が多いほど、直したときの効果も大きいはずです。
まずは1つ、今週中に手をつけられそうなものから始めてみてください。給料を上げる前に、直せることは意外と近くにあります。小さな一歩でも、続けていけば、職人が「この会社でもう少しやってみよう」と思う理由になります。