決算の時期、銀行の担当者に未成工事支出金の内訳を聞かれて言葉に詰まった経験はありませんか。完成工事高・未成工事支出金など建設業特有の勘定科目を一般会計の言葉に置き換え、銀行からよく聞かれる質問への準備の仕方までまとめました。
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決算の時期、銀行の担当者から「未成工事支出金の内訳をいただけますか」と聞かれて、言葉に詰まった経験はありませんか。工事は順調に進み、現金も回っているのに、決算書の数字だけを見せると「実態が分かりにくい」と言われてしまう。経理は税理士に任せきりで、自社の数字を自分の言葉で説明できない——そんなもどかしさを抱える社長は少なくないはずです。
この記事は、決算書を良く見せるためのテクニック集ではありません。建設業特有の勘定科目が一般業種でいう何にあたるのかを整理し、銀行に何かを聞かれたときに、工事の実態にもとづいて自分の言葉で説明できるようになるための記事です。
決算書の数字そのものと同じくらい、その数字の中身を工事ごとに説明できるかどうかが、金融機関との対話の質を左右すると言われています。とくに未成工事支出金のように、期をまたぐ工事の原価が積み上がっていく科目は内訳を聞かれる場面が多く、その場で答えに詰まると「何か理由があるのでは」と余計な詮索を招きかねません。
逆に言えば、これから見ていく建設業特有の勘定科目の意味と、工事ごとの中身をきちんと説明できる状態を作っておけば、それだけで金融機関とのやり取りはずいぶん楽になります。この記事で扱うのは「決算書を良く見せる技術」ではなく、「決算書の数字を、工事の実態から正しく整理して説明できるようにする」ための準備です。
建設業の決算書を見ると、「完成工事高」「未成工事支出金」といった、普段の簿記では見かけない科目が並んでいます。建設業許可を持つ会社は、建設業法施行規則で定められた様式にもとづいて財務諸表を作成することとされているためです(出典:建設業法施行規則)。
なぜ一般の科目をそのまま使わないのでしょうか。理由は、工事という商売の時間とお金の流れが、ほかの業種とかなり違うからです。工事は着工から引き渡しまで数か月、大きな工事なら1年以上かかることもあり、その途中で決算をまたぐと「まだ終わっていない工事」の扱いが必要になります。さらに、着手金を先に受け取ったり、完成後の入金が数か月先になったりと、お金が動く時期と売上・原価を計上すべき時期がずれます。この特殊性に対応するため、建設業では専用の科目が使われています。
主要な6科目を、一般業種の科目と並べた対応表がこちらです(出典:国土交通省告示 建設業法施行規則別記様式第十五号及び第十六号の勘定科目の分類)。
建設業の勘定科目 | 一般業種でいう科目 | 決算書上の位置 |
|---|---|---|
完成工事高 | 売上高 | 損益計算書・収益 |
完成工事原価 | 売上原価 | 損益計算書・費用 |
完成工事未収入金 | 売掛金 | 貸借対照表・資産 |
工事未払金 | 買掛金 | 貸借対照表・負債 |
未成工事支出金 | 仕掛品 | 貸借対照表・資産 |
未成工事受入金 | 前受金 | 貸借対照表・負債 |

この対応表を手元に置いておくと、銀行の担当者や税理士との会話で科目名が出てきても、「一般の会社でいう売掛金のことだ」と頭の中で翻訳しながら聞けます。ここから先は、とくに質問されやすい未成工事支出金と完成工事高について、もう少し掘り下げます。
6科目のうち、銀行から内訳を聞かれることが多いのが未成工事支出金です。まだ引き渡していない工事のために使った材料費・労務費・外注費・経費を、工事が完成するまで一時的にためておく資産の科目です(出典:国土交通省告示 建設業法施行規則別記様式第十五号及び第十六号の勘定科目の分類)。工事が完成すると、たまっていた金額がそのまま完成工事原価に振り替わります。

未成工事支出金の残高は、複数の工事が同時に進んでいる建設業では、決算のたびに増えたり減ったりするのが自然です。ただ、既存記事「建設業の未成工事支出金とは?資産と負債のどっち?仕訳の方法を解説」でも取り上げているとおり、この科目は原価の計上を先送りして利益を実態より多く見せる目的で使われるリスクが指摘される科目でもあります。だからこそ大切なのは、残高を小さく見せる工夫をすることではなく、その金額になっている理由を工事ごとに説明できる状態を作っておくことです。
具体的には、工事名・進捗状況・原価の内訳(材料費・労務費・外注費・経費)を一覧でいつでも出せるようにしておくことです。この4区分は、建設業許可の財務諸表に含まれる完成工事原価報告書の様式でも使われている、建設業の原価集計の基本の形です(出典:国土交通省告示 建設業法施行規則別記様式第十五号及び第十六号の勘定科目の分類)。原価の内訳の考え方をもう少し詳しく知りたい方は、「工事原価とは?管理する目的と内訳、計算法、純工事費との違いを解説」もあわせてご覧ください。
完成工事高(売上高にあたる科目)をいつ計上するかにも、建設業らしい考え方があります。工事が完成し引き渡した時点でまとめて売上を計上する「工事完成基準」と、工事の進み具合に応じて期の途中でも売上を計上していく「工事進行基準」の2つです。
この分野は近年の会計基準の見直しでやや込み入っています。上場企業など金融商品取引法の開示対象になる会社では、2021年4月1日以後に始まる事業年度から「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号)が適用されており、工事の収益も原則として進捗に応じて計上する考え方がベースになっています(出典:企業会計基準委員会 収益認識に関する会計基準)。一方、非上場の中小企業については、この基準の適用は任意とされており、中小企業庁が示す「中小企業の会計に関する基本要領」などに沿って、従来どおり工事完成基準で処理を続けることも引き続き認められているとされています(出典:中小企業庁 中小企業の会計に関する基本要領)。なお、非常に規模が大きく長期にわたる工事については、税務上は別のルールで工事進行基準にもとづく処理が求められる場合があります(出典:国税庁 法人税基本通達 工事の請負に係る収益及び費用の帰属事業年度)。
自社がどちらの基準で処理しているか、税務上の収益計上の時期をどう扱うべきかは、会社の規模や工事の内容によって変わります。この記事の説明はあくまで一般的な整理にとどめ、自社がどちらに当てはまるかは顧問税理士に確認してください。銀行に聞かれたときに「うちは工事完成基準で処理しています」とすぐ答えられるようにしておくだけでも、説明の印象はかなり変わります。
決算書を提出したあと、銀行の担当者からよく聞かれる質問と、その場で慌てないための準備を整理しました。金融機関や担当者によって重視するポイントは異なるため、以下はあくまで想定される一例です。
準備しておきたいのは、工事別の一覧です。工事名・受注額・進捗状況・原価の内訳(材料費・労務費・外注費・経費)がひもづいていれば、その場で説明できます。
準備しておきたいのは、その期に完成した工事の並びが分かる資料です。大型の工事がその期に完成時期を迎えたのか、着工が例年より遅れたのかなど、時系列で説明できると伝わりやすくなります。
準備しておきたいのは、工事別の原価内訳です。外注費や材料費が特定の工事で膨らんだのか、複数の工事にわたる傾向なのかを、数字で示せるようにしておきます。
準備しておきたいのは、まだ完成していない受注済み工事の残高一覧と、今後の完成見込み時期です。先の見通しを示す材料になります。
金融機関がどの指標を重視するかは一律ではありませんが、公表されている枠組みとして、経済産業省の「ローカルベンチマーク」があります。自己資本比率やEBITDA有利子負債倍率(債務償還年数とも呼ばれる、借入をキャッシュフローで返済するのに何年かかるかを示す指標)など、6つの財務指標が金融機関との対話のたたき台として示されています(出典:経済産業省 ローカルベンチマーク)。また、中小企業庁の「経営者保証に関するガイドライン」では、経営者保証なしで融資を受けられる可能性がある要件の一つとして、財務基盤の強化と並んで「金融機関に対する適時適切な情報開示」が挙げられています(出典:中小企業庁 経営者保証に関するガイドライン)。どちらも、数字そのものだけでなく、聞かれたときに説明できる状態にあることの大切さを裏づけていると言えそうです。
具体的な評価基準は金融機関ごと、担当者ごとに異なります。「この処理をすればこの指標が良くなる」といった話ではなく、聞かれたことにきちんと答えられる準備をしておく、という受け止め方をしてください。
ここまでの想定問答で挙げた資料は、どれも決算の直前に慌てて作るものではありません。工事台帳や工事別の原価管理が日頃から回っていれば、必要になったときにすぐ取り出せるものになります。工事台帳の役割については、「工事台帳は建設業法で作成義務あり?保存期間や項目、目的を徹底解説」でも詳しく解説しています。
逆に、工事ごとの原価がどんぶり勘定のまま決算を迎えると、未成工事支出金の内訳を聞かれても「集計してみないと分かりません」としか答えられず、説明に時間がかかってしまいます。コンクルーAIのような工事原価管理システムを使って日頃から工事別に原価を記録できていれば、決算のときに未成工事支出金の内訳をすぐ出せる状態を作りやすくなります。特別な決算対策をするよりも、日頃の記録を積み重ねることのほうが、結果として銀行への説明力につながります。
決算書の数字を大きく見せる工夫ではなく、工事の実態を正しく説明できる状態を作ることが、銀行との対話の土台になります。最後に、この記事のポイントを整理します。