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監督者:白澤光純
株式会社コンクルー 代表取締役CEO
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建設業では、工事の着工から完成・引渡しまでに長い期間を要するケースが少なくありません。そのため、工事途中で発生した費用をどのように会計処理するかは、利益管理や決算の正確性に大きく影響します。 未成工事支出金は、こうした建設業特有の事情に対応するための重要な勘定科目です。しかし、仕組みを正しく理解していないと、計算ミスや計上漏れ、さらには粉飾決算と疑われるリスクにつながることもあります。 本記事では、未成工事支出金の基本的な考え方から、計算方法、仕訳例、管理のポイント、までを詳しく解説します。
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まず、未完成工事支出金の基本的な情報を分かりやすく紹介します。
未成工事支出金とは、建設工事が完了する前の段階で発生した支出を一時的に棚卸資産として計上・管理するための勘定科目です。
この勘定科目は、建設業会計において用いられます。貸借対照表上では資産の部に表示され、完成していない工事に関する金銭的な投入状況を表す指標です。
あくまで工事途中段階の支出を管理するための科目であり、最終的には工事の完了や進捗(しんちょく)に応じて別の勘定科目へ振り替えられます。
未成工事支出金が資産として扱われるものは、工事が完了するまでの間、建設途中の建物や構築物がまだ発注者に引き渡されていない状態にあるためです。
引き渡しが行われていない以上、その工事対象物は会計上、建設会社の管理下にあるものとして位置付けられます。
工事中の建物は未完成であっても、材料や労務、外注作業などが積み重なった結果として一定の価値を形成しています。そのため、建設会社が工事のために投下した費用は、単なる支出ではなく、完成に向けて形成されつつある建物の価値の一部として認識されます。
この考え方に基づき、工事完成前に発生した費用は、いったん棚卸資産として貸借対照表に計上されます。
仕掛品は、製造業において製品が完成するまでの間に発生した原価を一時的に集計するための勘定科目です。材料の投入や加工が進んでいても、まだ販売できる状態にない段階では、完成品として扱わず、仕掛品として管理されます。
これと同様に、建設業では工事が完了するまでの原価を未成工事支出金として管理します。
業種によって勘定科目の名称は異なりますが、進行中の作業にかかった費用を完成まで資産として保留する点は共通しています。
製造業では仕掛品、建設業では未成工事支出金、業種によっては別の名称が用いられることもありますが、いずれも完成や引き渡しの時点で売り上げ原価へ振り替えられる仕組みです。
建設業会計は、工事の着工から完成・引き渡しまでに長い期間を要する建設業の特性に対応した会計の考え方です。建設工事では、売り上げが計上されるまでに時間がかかるケースが多く、完成時に多額の売り上げが一度に計上されます。
そのため、一般的な会計処理をそのまま適用すると、工事ごとの収支状況を正しく把握しにくい点がデメリットです。建設業会計では、こうした点を踏まえ、工事案件ごとに原価を管理しやすい仕組みが整えられています。勘定科目の名称も一般会計とは異なり、売上高は完成工事高、仕掛品は未成工事支出金として処理されます。
また、売り上げの計上方法については、工事完了時にまとめて認識する方法と、工事の進行状況に応じて段階的に認識する方法のいずれかを選択できる点も特徴です。このように、建設業会計では工事の実態に即した専門的な処理が求められます。
未完成工事支出金が必要な理由は、次のとおりです。
それぞれを詳しく解説します。
建設工事では、工事の進行中に材料費や人件費などの費用が発生する一方で、売り上げは工事が完成するまで計上できないケースが多くあります。
そのため、費用が先に計上され、売り上げが後の会計期間にずれることで、会計期間ごとの損益が実態とかけ離れてしまうことがあります。
未成工事支出金を用いることで、工事完成前に発生した費用を一時的に資産として管理し、工事完了後に売り上げと対応させた費用計上が可能です。
工事ごとの利益を正しく把握するためには、1件の工事に対して発生した全ての費用を適切に管理する必要があります。
建設業では、工事期間と会計期間が一致しないことが多く、費用の発生状況を整理しないままでは、工事全体の収支を正確に把握できません。
未成工事支出金として工事途中の費用を集計しておくことで、工事が完了した際に売り上げと原価の正しい対応ができ、結果として工事全体の収益状況の適切な把握が可能です。
未成工事支出金に含まれる費用は、次のとおりです。
それぞれを分かりやすく解説します。
材料費とは、工事の施工に必要な材料を仕入れた際に発生する費用を指します。
具体的には、木材や鉄筋、ガラス、セメント、砂利など、実際に工事現場で使用される建設資材が該当します。また、特定の工事で使用する目的で購入した機械や道具についても、その工事に直接使用されるものであれば材料費に含まれます。
一方で、複数の現場で共通して使用するために購入した機械類や材料は、間接材料費として扱われます。これらは特定の工事だけにひも付けられないため、購入額の全額を一つの工事原価に含めることはせず、複数の工事に按分(あんぶん)して計上します。
労務費は、工事現場で作業を行う従業員に支払われる給与や法定福利費などの人件費です。
労務費は、直接労務費と間接労務費に区分されます。直接労務費とは、工事の施工に直接従事する職人に支払われる給与で、実際に工事や製造などの直接作業を行っている部分の費用です。現場から現場への移動時間など、作業そのものに該当しない時間に対応する給与は、直接労務費には含まれません。建設業の積算において労務費として扱われるものは、この直接労務費であり、直接工事費を構成する要素の1つです。
一方、間接労務費は、工事や製造に間接的に関わって発生する人件費を指します。職人以外の従業員への給与や賞与、各種手当、退職金の積立費用、法定福利費などが該当します。
建設業の積算では、現場監督や現場事務員、本店・支店の従業員の給与などが間接労務費とされ、現場管理費や一般管理費等として間接工事費に含めて処理されます。
外注費とは、工事に必要な作業を自社で行わず、他の会社や個人事業主に依頼した場合に発生する費用を指します。建設業では、人手不足への対応や専門的な作業を行う目的で外注を利用することが多く、工事費用を算出する際によく用いられる項目です。
外部の業者が担当した作業が工事に直接関係している場合には、自社の従業員による施工でなくても外注費として扱われます。
一方で、材料や道具を自社で準備し、他社が作業のみを行う場合や人員不足を補うために応援として作業員を依頼した場合には、外注費には該当しません。このような費用は、労務費のうち労務外注費として区分されます。
経費とは、工事を進めるために現場で発生した各種の支出のうち、材料費や労務費、外注費に直接当てはまらない費用を指します。
具体的には、工事現場で使用した水道光熱費や、現場と他の場所を行き来する際に発生した移動費などが該当します。いずれも工事の施工に必要な支出であり、現場で直接発生した点が特徴です。
これらの経費は、工事の進行に伴って発生しますが、工事が完成するまでは費用として確定しません。そのため、工事が未完成の段階では、未成工事支出金として一時的に集計・管理されます。
未成工事支出金の正しい計算方法を分かりやすく解説します。
未成工事支出金を正確に計算するためには、工事ごとの費用を整理した工事台帳の作成が欠かせません。
工事台帳には、材料費・労務費・外注費・経費といった費用を項目別に記録します。これにより、未完成の工事に対してどの費用がどれだけ発生しているのか把握可能です。
工事台帳は、費用管理の基礎資料となるだけでなく、会計処理や税務申告の際にも重要な役割を果たします。
未成工事支出金の算出に、特別な計算式は必要ありません。
未成工事支出金は、工事にかかった各種費用を合計した金額です。具体的には、工事台帳に記載された材料費、労務費、外注費、経費を集計し、その合計額を未成工事支出金として計上します。
費用は発生した段階で随時記帳し、計上漏れが生じないよう注意することが重要です。
例えば、請負金額が2,000万円、利益率が20%の工事では、最終的な利益は400万円、工事費用は1,600万円です。
工事が完成している場合は、売り上げと費用を同じ会計期間に計上します。その結果、損益計算書には売り上げ2,000万円と工事費用1,600万円が反映され、差額である400万円が当期の利益とです。
このように、完成した工事では費用と収益が対応した形で計算されます。
一方、決算時点で工事が完了していない場合は、売り上げを計上できません。
この場合、工事にかかった1,600万円の費用は未成工事支出金として処理されます。損益計算書には売り上げや費用は表示されず、利益も発生しません。
その代わり、貸借対照表では未成工事支出金が資産として計上され、対応する支払義務が負債として表示されます。
未成工事支出金は、工事が完成するまでに発生した費用を一時的に資産として管理するため、工事中と完成時で仕訳が分かれる点が特徴です。
ここでは、利益率20%・請負金額100万円の工事を例に、具体的な処理の流れを確認します。なお、工事費用は合計80万円で、材料費40万円、外注費40万円と仮定します。
工事が未完成の段階では、発生した材料費は費用として計上せず、未成工事支出金として処理します。
材料費を現金で支払った場合
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
未成工事支出金(材料費) | 400,000 | 現金 | 400,000 |
この時点では、損益計算書には影響せず、貸借対照表の資産として管理されます。
工事が完成したタイミングで、未成工事支出金を工事原価へ振り替えます。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
工事原価(材料費) | 400,000 | 未成工事支出金(材料費) | 400,000 |
外注費についても、工事が未完成であれば未成工事支出金として処理します。請求書を受領した場合の例は次のとおりです。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
未成工事支出金(外注費) | 400,000 | 未払金 | 400,000 |
工事完了後、外注費分も工事原価へ振り替えます。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
工事原価(外注費) | 400,000 | 未成工事支出金(外注費) | 400,000 |
工事中に労務費を現金で支払った場合も、同様に未成工事支出金として処理します。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
未成工事支出金(労務費) | 300,000 | 現金 | 300,000 |
このように、工事中は未成工事支出金として集計し、完成時に工事原価へ振り替えることで、工事の進捗と損益を正しく対応させられます。
未成工事支出金を管理するときのポイントは、次のとおりです。
未成工事支出金を適切に管理するには、工事ごとに発生した費用を正確に把握することが前提です。
材料の数量や金額、外注先への支払額、仮設設備の設置・撤去費用、廃材処分費、現場監督者に係る労務費などを工事単位で記録していく必要があります。
そのためには、現場での材料受払いや作業時間を都度記録できる体制を整え、工事の進捗と費用の関係を常に把握しておくことが重要です。
未成工事支出金の計上漏れは、損益の誤認や税務上の問題につながる恐れがあります。
これを防ぐためには、費用が発生した時点で速やかに処理できる仕組みが欠かせません。材料購入や外注発注の際には必ず伝票を作成し、経理部門へ迅速に回付することが求められます。
また、現場監督者と経理担当者が定期的に情報共有を行い、工事の進捗と発生費用に食い違いがないかを確認することで、計上漏れのリスクを低減できます。
近年では、工事原価管理システムを導入し、未成工事支出金を効率的に管理する企業も増えています。
工事原価管理システムを利用すると、材料の発注から現場での使用状況、外注費の支払いまでを一元的に管理でき、工事ごとの原価情報をリアルタイムで把握可能です。
導入には一定のコストがかかりますが、業務効率の向上と管理精度の改善につながり、長期的には経営の安定に寄与します。
未成工事支出金の正確性を保つためには、定期的な棚卸と帳簿残高の確認が欠かせません。
四半期や半期ごとに、現場にある材料や仮設設備を実地で確認し、帳簿上の未成工事支出金と突き合わせることが重要です。差異が見つかった場合には、原因を早期に特定し、適切な修正処理を行う必要があります。
この作業を怠ると、決算時に未成工事支出金が過大または過小に計上され、損益や税務申告に大きな影響を及ぼす可能性があります。
最後に、未成工事支出金に関するよくある質問とその回答を紹介します。
未成工事支出金は、負債としては扱われません。
前述のとおり、将来その工事が完成し、工事原価として費用計上されることを前提としているため、貸借対照表では資産の部に計上されます。
負債とは、将来に返済や履行の義務を伴うものを指しますが、未成工事支出金には返済義務そのものはありません。あくまで、工事完成後に売り上げと対応させるために、工事途中の費用を一時的に繰り越している状態です。
なお、工事途中で発注者から受け取った前受金などは「未成工事受入金」として負債に計上されます。
未成工事支出金は、故意・過失を問わず、粉飾決算につながりやすい勘定科目です。
未成工事支出金は、当期に発生した工事原価を一時的に資産として計上し、工事完成まで次期以降へ繰り越す仕組みであるため、経費を先送りしやすい特徴があります。例えば、当期中に完成した工事にかかる原価を未成工事支出金として処理すれば、当期の費用が少なくなり、利益を実態より多く見せることが可能です。
このような処理は外見上分かりにくく、不正が発覚しにくい点が問題視されます。そのため、未成工事支出金は税務調査などでも厳しく確認される項目であり、過失であっても罰則を免れない可能性があります。
未成工事支出金に係る消費税は、原則として工事の引渡し時点で処理されます。
未成工事支出金として資産計上し、次期に繰り越す処理は法人税法上の考え方によるものであり、消費税法上の処理とは直接結び付いていません。そのため、工事が未完成であっても、材料費や外注費などの支出に含まれる消費税は、支出が発生した期の仕入税額控除の対象です。
未成工事支出金として一時的に資産計上しているかどうかにかかわらず、消費税については通常どおり当期中に控除額として処理します。
一方、売り上げに係る消費税は、工事が完成し引渡しが行われたタイミングで認識されるため、法人税上の損益計上時期とはズレが生じる点に注意が必要です。