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監督者:白澤光純
株式会社コンクルー 代表取締役CEO
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きちんと工事を仕上げて引き渡したのに、施主が代金を払ってくれない――。工事代金の未払いは、時効の確認から証拠集め、内容証明、支払督促や少額訴訟まで、順番に手を打てば回収できる可能性があります。払わない理由別の対処法と、次から揉めない予防策まで、請け負う側の目線で解説します。
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【今回のケース】リフォーム業・従業員10名の会社
「戸建て住宅の水まわりリフォームを個人のお客様から請け負い、契約どおり工事を終えて引き渡しました。ところが、着手時にいただいた分を除いた残金150万円を、完成から2か月たっても払っていただけません。催促しても『そのうち払う』とのらりくらりで、はっきりした理由もわかりません。仕上げたものはもうお渡ししてしまっています。この150万円、どうすれば回収できるのでしょうか。」
※この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の案件についての法的助言ではありません。実際の取り扱いは契約内容や状況によって変わります。判断に迷うときや相手方と争いになりそうなときは、弁護士などの専門家にご相談ください。
きちんと工事を仕上げてお渡ししたのに、代金だけ払ってもらえない――これほど理不尽で、じわじわと気持ちがすり減ることはありませんよね。しかも相手がはっきりした理由も言わずにのらりくらりだと、こちらは打つ手がわからず、ただ時間だけが過ぎていきます。結論からお伝えすると、完成して引き渡した工事代金は、原則としてあなたが受け取る正当な権利のあるお金です。そして、工事代金の未払いは、順番に手を打っていけば回収できる可能性が十分にあります。この記事では、まず先に確認すべき「時効」の話から、証拠のそろえ方、角を立てずに進める回収の段取り、そして払わない理由ごとの対処と予防策までを、請け負った側の目線で順番に整理していきます。
回収の話に入る前に、ひとつだけ先に確認しておきたいことがあります。工事代金を請求できる権利にも「時効」があり、これを過ぎてしまうと、法律上は請求できなくなってしまうからです。焦って動く前に、まずここを押さえておきましょう。
工事代金(請負代金)の債権は、原則として5年で時効にかかります。正確には、支払期日など「代金を請求できることを知ったとき」から5年、と定められています(出典:e-Gov法令検索・民法)。完成して引き渡し、支払日も過ぎている今回のようなケースなら、その支払日から5年、と考えておけばまず間違いありません。
「5年もあるなら急がなくても」と思われたかもしれませんが、ここには少し注意が必要です。実はこの5年という期間は、2020年4月に施行された民法改正で新しくなったものです。それより前は、工事代金など職業ごとに「短期消滅時効」という短い時効が定められていて、工事に関する債権はわずか3年で消えてしまうとされていました。改正でこの短期時効が廃止され、原則5年に統一されたという経緯があります(出典:e-Gov法令検索・民法)。古い未収金が混じっている場合は、いつの契約かで扱いが変わることがあるので、心当たりがあれば早めに確認しておきましょう。
もし時効が迫っているようなら、あわてず内容証明郵便で正式に「支払ってください」と催告しておけば、ひとまず6か月間は時効の完成を先延ばしにできます。そのあいだに、後述する支払督促や訴訟といった次の手を打てばよいのです。ただ、時効はあくまで「最後の防波堤」。時間が経つほど相手の資力は先細り、証拠も記憶も薄れて回収率は下がっていきます。「まだ時間がある」と寝かせるのではなく、気づいた今のうちに動き出すのが結局いちばんの近道です。
次にやるべきは、証拠集めです。回収の交渉でも、いざ法的手続きに進むときでも、モノを言うのは「この工事を、契約どおりに仕上げて引き渡した」という事実を示せる資料です。感情で「払ってください」と迫るより、資料で淡々と示すほうが、相手にも第三者にもずっと説得力があります。
集めておきたいのは、次のような書類や記録です。契約書・注文書・見積書といった金額と条件を示すもの。完了確認書や引渡書など、工事が終わってお客様に引き渡した事実がわかるもの。施工前後の写真や工程表など、何をどこまで仕上げたかを客観的に示せるもの。そして請求書と、これまでの催促のやりとりです。
「うちは契約書をきちんと交わしていなかった」という方も、あきらめる必要はありません。契約書が一枚もなくても、見積書やメール・LINEのやりとり、実際に工事をした写真、材料の発注記録といった間接的な証拠を積み上げれば、「たしかに工事を請け負い、仕上げた」という事実は十分に示せます。実際、契約書なしの未払いでも回収に至るケースは珍しくありません。まずは手元にあるものをかき集めるところから始めましょう。

証拠がそろったら、いよいよ回収に動きます。とはいえ、いきなり弁護士や裁判を持ち出すと、費用も手間もかさみますし、ご近所づきあいや紹介元との関係が気になることもありますよね。基本は、穏やかな手段から段階を踏んでいくのがおすすめです。多くのケースは、裁判まで行かずに途中の段階で解決します。
最初は、あらためての催促と話し合いです。このとき大切なのが、まず「なぜ払わないのか」を確認すること。単なる先延ばしなのか、資金繰りなのか、それとも仕上がりに不満があるのか。理由によって次の打ち手が変わってきます。そのうえで、先ほどそろえた資料を見せながら、「この工事を、こう仕上げてお渡ししました。残りはこの金額です」と具体的に示します。口頭だけでなく、請求書や督促の文面を残る形(書面やメール)で送っておくと、あとで「言った・言わない」になりません。
話し合いに応じてもらえないときは、内容証明郵便での正式な請求に進みます。内容証明は「いつ・誰が・どんな内容を請求したか」を郵便局が証明してくれる仕組みです。それ自体に相手を強制する力はありませんが、「こちらは本気で回収するつもりだ」という姿勢がはっきり伝わり、これを受け取った段階で支払いに応じる相手も少なくありません。金額の根拠と支払期限を明記して送りましょう。先ほど触れたとおり、時効が近い場合はこの催告で時効の完成を6か月延ばす効果も兼ねられます。
それでも動いてもらえないときは、いよいよ裁判所を使った手続きです。ひとくちに「裁判」といっても、金額や相手の出方によっていくつか選択肢があり、使い分けがポイントになります。
ひとつ目が支払督促。書類審査だけで、相手の言い分を聞く手続きを経ずに、裁判所から支払いを督促してもらえる制度です。金額の上限がなく、申立ての手数料も通常の訴訟より抑えられるのが利点です。ただし、相手が「督促異議」を申し立てると通常の訴訟に移行します(出典:裁判所・支払督促)。相手が金額そのものは争っていない、というケースに向いています。
ふたつ目が少額訴訟。60万円以下の支払いを求めるときに使える簡易な裁判で、原則1回の審理で即日に判決が出ます。ただし、同じ簡易裁判所で使えるのは1人あたり年10回まで、といった制限があります(出典:裁判所・少額訴訟)。手軽ですが、対象は60万円以下に限られる点に注意してください。
三つ目が通常訴訟です。金額が大きい、あるいは相手が「不具合があった」などと本格的に争ってくるケースは、争点をきちんと審理する通常の訴訟になります。今回のご相談のように残金が150万円ある場合、60万円以下が条件の少額訴訟は使えませんので、現実的には支払督促か、この通常訴訟が選択肢になります。整理すると次のとおりです。

手続き | 使える場面 | 特徴 |
|---|---|---|
支払督促 | 金額の上限なし。相手が金額を争わなそうなとき | 書類審査だけで督促を発付。相手が異議を出すと通常訴訟へ移行。手数料は訴訟より安め |
少額訴訟 | 60万円以下の未払い | 原則1回の審理で即日判決。1つの簡裁で年10回まで。手数料は数千円程度 |
通常訴訟 | 60万円超、または争いが複雑なとき(今回の150万円もこちら) | 争点をしっかり審理し、判決には強制力がある。弁護士費用も見込んでおく |
いずれの手続きでも、判決や督促が確定すれば、最終的には相手の財産の差押え(強制執行)へ進むことができます。ここまでの後ろ盾があるからこそ、その手前の話し合いや内容証明も効いてくる、という関係になっています。
「裁判はハードルが高い」と感じる方も多いですよね。実は建設の世界には、いきなり訴訟に踏み込まなくても頼れる、専門の窓口が用意されています。
ひとつが建設工事紛争審査会です。建設業法にもとづいて国土交通省と各都道府県に設けられた公的な機関で、工事代金の支払いをめぐる争いなど、建設工事の請負契約に関するトラブルを、あっせん・調停・仲裁という手続きで解決してくれます。法律・建築・土木の専門家が委員として関わり、裁判に比べて簡易・迅速・妥当な解決をめざせるのが心強いところです(出典:国土交通省・建設工事紛争審査会)。とくに元請と下請のあいだの代金トラブルでは、有力な選択肢になります。
もうひとつ、今回のように相手が個人のお客様で、住宅のリフォームや新築をめぐるトラブルなら、住まいるダイヤル(住宅リフォーム・紛争処理支援センター)の電話相談も使えます。国土交通大臣が指定した窓口で、建築士の資格を持つ相談員が、中立の立場でアドバイスをしてくれます(出典:住まいるダイヤル(住宅リフォーム・紛争処理支援センター))。「これは裁判するほどなのか」「まず誰に相談すれば」と迷ったときの、最初の一歩として頼ってみてください。
ここまでは回収の「進め方」の話でした。ただ、実際にうまく回収するには、相手がなぜ払わないのかを見極めて、対応を変えることが大切です。理由を取り違えると、話がかえってこじれてしまいます。よくある3つのパターンで見ていきましょう。
いちばん多いのが、「ここが気に入らない」「不具合がある」と、仕上がりを理由に支払いを渋るケースです。このときは、まず本当に施工に問題があるのかを、契約時の仕様や図面と照らして冷静に確認しましょう。そのうえで、補修の話と代金の話は切り分けて整理するのがコツです。仮に手直しが必要な箇所があったとしても、それは補修で対応すべき問題であって、軽微な不具合を理由に代金全額の支払いを拒めるとは限りません。裁判でも、不具合の程度に見合った範囲で調整する考え方が取られる傾向があります。話がかみ合わないときは、先ほどの住まいるダイヤルや第三者の検査を挟むと、感情論から抜け出しやすくなります。
相手にほんとうに支払う意思はあるが、資金繰りが厳しい、というケースもあります。この場合、全額一括にこだわって身動きが取れなくなるより、分割払いでも確実に回収するほうが賢明なことが多いです。ポイントは、口約束で終わらせず、支払金額・回数・期日を書いた合意書をきちんと残すこと。金額が大きければ、公正証書にしておくと、万一支払いが滞ったときに差押えへ進みやすくなります。「一部でもいいから、まず入れてもらう」という一歩が、結果的に全額回収への近道になります。
今回のご相談のように、はっきりした理由も言わず「そのうち払う」とかわし続けるパターンです。こうした相手には、こちらが記録と手続きで淡々と詰めていく姿勢が効きます。やりとりはすべて書面やメールで残し、期限を切って請求する。応じなければ内容証明を送り、それでも動かなければ支払督促や訴訟に進む――という段取りを、実際に一歩ずつ見せていくのです。「この人は本気で、手順を踏んでくる」と伝わると、潮目が変わることは少なくありません。ずるずると引き延ばされること自体が損失なので、区切りをつけて次の手に移る判断も大切です。
ここまで読んで、「そもそも未払いを起こさないようにしたい」と思われたはずです。実は工事代金の未払いは、契約と請求のしかたを少し整えるだけで、その多くを防げます。最後に、次から泣かないための備えを整理しておきます。
いちばん効くのは、やはり契約書に支払条件をきちんと書いておくことです。「いつ・いくらを・どのタイミングで払うか」、そして万一遅れたときの遅延損害金まで一文入れておくと、いざというときの拠りどころになります。何を盛り込めばよいか迷うときは、工事請負契約書に入れておきたい項目を解説した記事もあわせて読んでみてください。
あわせて、請求のしかたも見直しましょう。工期が長い工事なら、完成後にまとめて請求するのではなく、出来高に応じて中間金を分割で請求していくと、未回収のリスクを小さく分散できます。着手時に材料費相当の着手金・前受金を受け取っておくのも有効です。そして、可能な範囲で「引き渡しと代金の受け取りは同時に」を基本にし、検収(お客様に完成を確認してもらうこと)は口頭ではなく書面で残す。こうした小さな積み重ねが、「渡したのに払ってもらえない」という事態そのものを遠ざけてくれます。なお、工事が完成する前に施主の都合でキャンセルされたときの費用請求は、話の筋が少し変わります。そちらは工事を途中でキャンセルされたときの費用請求をまとめた記事で詳しく扱っていますので、必要な方はご覧ください。
仕上げた仕事の代金を払ってもらえないのは、金額以上に、こちらの誇りや信頼を軽んじられたようで、こたえるものですよね。ですが、法律はきちんと請け負った側にも回収の道を用意してくれています。まずは時効を確認し、証拠をそろえて、話し合いから一歩ずつ。焦らず順番に進めれば、道は開けます。この「建設業のトラブル相談」では、こうした「これって誰に聞けばいいんだろう」という社長業の困りごとを、これからも取り上げていきます。