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監督者:白澤光純
株式会社コンクルー 代表取締役CEO
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施主に工事を直前でキャンセルされ、材料費や外注のキャンセル料をかぶってしまった――。かかった費用や損害は施主に請求できるのでしょうか。民法をふまえ、着工前後で何をいくら請求できるか、角を立てない回収の進め方、次から揉めない契約の備えまでを、請け負う側の目線で解説します。
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【今回のケース】内装工事業・従業員6名の会社
「先月、個人のお客様から住宅の内装リフォームを請け負いました。材料も発注し、応援の職人の手配も終えたところで、着工の3日前に『やっぱりやめます』と一方的にキャンセルされてしまいました。仕入れた材料費も、外注のキャンセル料も、こちらがかぶるしかないのでしょうか。かかった費用やキャンセル料を、お客様に請求することはできるのでしょうか。」
※この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の案件についての法的助言ではありません。実際の取り扱いは契約内容や状況によって変わります。判断に迷うときや相手方と争いになりそうなときは、弁護士や税理士などの専門家にご相談ください。
工事を直前でキャンセルされると、材料も人手ももう動いてしまっていて、本当に困りますよね。手間も気持ちもかけていたぶん、「はい、そうですか」と黙って引き下がるのは納得がいかない、というのが正直なところだと思います。結論からお伝えすると、施主の都合による工事のキャンセル料や、すでにかかった費用は、原則として施主に請求できます。この記事では、請負契約の解除にまつわる法律の根拠から、何をいくらまで請求できるのか、そして角を立てずにどう回収していくのかまでを、工事を請け負った側の目線で順番に整理していきます。
まず気になっているところにお答えします。施主の一方的な都合で工事を途中でやめられた場合、あなたがそのために使ったお金や、本来得られるはずだった利益は、原則として施主に請求できます。「頼んでおいて途中でやめたのだから、実費くらいは払ってもらって当然」という感覚は、法律的にもおおむね正しいのです。
その根拠になるのが、民法という法律です。工事の請負契約について、民法は「施主はいつでも契約をやめられる。ただし、そのときは業者に生じた損害を賠償しなければならない」というルールを定めています。つまり、施主には自由にやめる権利がある一方で、やめたことで業者が損をしたなら、その穴埋めはセットになっている、という考え方です。
ただし、実際に「いくら」取れるかは状況によって変わります。着工の前だったのか後だったのか、契約書にキャンセルの取り決めがあったか、相手が個人(消費者)か会社かによって、請求できる範囲は変わってきます。ここを整理せずに感情で金額をふっかけると、かえって話がこじれます。順番に見ていきましょう。
「請求できる」と言われても、根拠がはっきりしないと施主に説明できませんよね。ここは少しだけ法律の話になりますが、押さえておくと交渉のときに強くなれます。関係するのは民法の2つの条文です。
ひとつ目が民法641条です。ここには「請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができる」と書かれています(出典:e-Gov法令検索・民法)。むずかしい言い回しですが、要はこういうことです。
施主(注文者)は、工事が完成する前なら、理由がなくてもいつでも契約をやめられます。「気が変わった」でも解除は成立してしまうので、「勝手にやめるなんて許されない」と押し返すのは、残念ながら難しいのが実情です。そのかわり、やめたことであなた(請負人)に生じた損害は、施主が賠償しなければなりません。ここが今回いちばん大事なポイントです。自由にやめられる権利と、損害を払う義務は、つねにワンセットになっているのです。
この「損害」には、工事のためにすでに使ったお金だけでなく、その工事を完成させていれば得られたはずの利益(逸失利益)も含まれると考えられています。つまり材料費や外注のキャンセル料はもちろん、あなたの取り分だったはずの利益も、賠償の対象になり得るということです。
ふたつ目が民法634条です。2020年4月に施行された改正で内容が新しくなり、途中でやめられたときの精算ルールがはっきり書かれました。ポイントは、すでに仕上げた部分のうち「切り分けられる部分」から施主が利益を受けるときは、その部分を完成とみなして、業者はその割合に応じた報酬を請求できる、というものです(出典:e-Gov法令検索・民法)。いわゆる「出来高」の請求です。
条文では、仕事の完成前に契約が解除されたときなどに、この割合的な報酬を請求できると定められています。たとえばクロスの張り替えを半分まで終えていたなら、その半分は施主にとっての利益として残っているわけですから、その分の代金は堂々と請求してよい、ということです。着工してしまっている案件では、この「出来高」が請求の柱になります。
まとめると、施主都合のキャンセルでは、641条で「使った費用と得られたはずの利益」を、634条で「すでに仕上げた分の出来高」を根拠に請求していく、というのが基本の組み立てになります。
根拠がわかったところで、実際に何を積み上げて請求書を作るのかを見ていきましょう。請求できるものは、大きく3つの費目に分けると整理しやすくなります。
いちばん請求しやすいのが、実際に財布から出ていったお金です。返品できない発注済みの材料費、応援職人の手配をキャンセルしたことで発生した違約金、着工後に施工した部分を撤去・廃棄するための費用などがこれにあたります。領収書や発注書、メールのやりとりなど、支払った事実がわかる資料をそろえておくと、あとで強い証拠になります。
すでに現場に入って施工していた場合は、その仕上げた分の報酬を出来高として請求できます。「全体の何割まで終わっていたか」を、写真や工程表で示せるようにしておきましょう。着工前のキャンセルならこの費目はありませんが、少しでも手をつけていたなら、その分は請求に含めて構いません。
その工事をやり遂げていれば手元に残ったはずの利益、いわゆる逸失利益も、民法641条を根拠に請求の対象になります。ただし、ここには注意点があります。契約がなくなったことで「使わずに済んだお金」は、損害から差し引かれるという考え方です。まだ買っていなかった材料費や、投入せずに済んだ人件費は、あなたの損にはなっていないので請求できません。
さらに、キャンセルで空いた日程や人手を別の現場に回して利益を得た場合は、その利益も差し引かれることがあります。これを損益相殺といいます。裁判例でも、こうした「浮いた費用」や「他で埋めた利益」を差し引いて損害額を考える傾向がありますので、満額まるごとが通るとは限らない、という点は頭に入れておいてください。
言葉だけだとイメージしづらいので、着工前にキャンセルされたケースをモデル計算にしてみます。あくまで考え方を示すための一例で、実際の金額は状況によって変わります。
費目 | 金額(例) | 考え方 |
|---|---|---|
返品できない発注済み材料費 | 15万円 | すでに使ったお金(①) |
外注職人の手配キャンセル料 | 3万円 | すでに使ったお金(①) |
得られたはずの利益(逸失利益) | 20万円 | 民法641条(③) |
他の現場に人を回して得た利益 | −10万円 | 損益相殺による差し引き |
請求できる目安 | 28万円 | 請負金額100万円・利益率20%を想定 |
このように、「使ったお金+得られたはずの利益−浮いたぶん」で組み立てるのが基本の考え方です。着工後であれば、ここに出来高(②)が加わっていきます。

ここまでは「原則」の話でした。ただ、相手や契約のしかたによっては、請求できる額に上限がついたり、そもそも請求できなかったりするケースがあります。あとで「聞いていない」とならないよう、代表的な3つを押さえておきましょう。
相手が事業者ではなく個人のお客様の場合、消費者契約法という法律が働きます。契約書に「キャンセルの場合は請負金額の何割」といった違約金・キャンセル料の条項を入れていても、その金額が、同じような契約を解除したときに業者に通常生じる「平均的な損害」を超える部分は無効になります(出典:e-Gov法令検索・消費者契約法)。
たとえば「着工前のキャンセルでも一律で代金の8割いただきます」といった強気の条項を入れていても、実際の平均的な損害が3割程度なら、超えた5割ぶんは無効とされ、請求できるのは3割まで、という具合です。個人のお客様相手には、キャンセル料は「実際に生じる損害の範囲」で設計しておくのが安全ですし、結局はそれが通る額でもあります。
こちらから個人宅を訪問して営業し、その場で契約したリフォーム工事などは、特定商取引法でいう「訪問販売」にあたることがあります。この場合、お客様は法律で決められた契約書面を受け取った日から8日間はクーリング・オフができ、その期間内に解除されると、業者は損害賠償も違約金も請求できません(出典:消費者庁・特定商取引法ガイド)。
しかも、すでに工事に着手していても、クーリング・オフされると原状回復の費用まで業者の負担とされます。これは、お客様のほうから来店・依頼してくれた通常の工事にはあてはまりません。あくまで飛び込み営業などで契約した場合の話ですが、訪問販売型で仕事を取っている方は、着工を急ぎすぎないなど、8日間の期間を意識しておく必要があります。
契約時に手付金や着手金を受け取っているケースも多いですよね。これらはすでに手元にあるお金ですから、最終的に請求できる金額から差し引いて精算します。受け取った着手金より損害のほうが大きければ差額を請求し、逆に損害より着手金が多ければ、余った分は返すのが基本です。
なお、契約で「解約手付」を定めていた場合、お客様が手付を放棄して解約する、という形もあります。ただし、それで精算がすべて終わるとは限らず、実際に生じた損害と照らして考えることになります。手付や着手金を「もらったもの」と決めつけて処理すると、あとでトラブルになりやすいので気をつけてください。
請求できることはわかっても、いきなり弁護士や裁判を持ち出すと、少額のわりに手間もお金もかかってしまいます。ご近所づきあいや、紹介元との関係が気になることもありますよね。まずは穏やかな手段から、段階を踏んで進めるのがおすすめです。
最初は口頭やメールでの話し合いからです。このとき大事なのが、感情ではなく資料で示すこと。発注書・領収書・現場の写真・工程表・見積書などをそろえ、「このために、これだけ実際にかかっています」と具体的に見せられるようにします。先ほどのモデル計算のように費目ごとに整理して提示すると、相手も納得しやすく、「ふっかけている」という印象を与えずにすみます。
話し合いで応じてもらえないときは、内容証明郵便で正式に請求します。内容証明は「いつ・誰が・どんな内容を請求したか」を郵便局が証明してくれる仕組みで、それ自体に強制力はありませんが、「本気で回収する姿勢だ」という意思がはっきり伝わります。金額の根拠と支払期限を明記して送りましょう。ここで支払いに応じる相手も少なくありません。
それでも解決しないときは、第三者の力を借ります。建設工事の請負契約をめぐる争いには、建設業法にもとづく建設工事紛争審査会という専門機関があり、あっせん・調停・仲裁によって、裁判より簡易・迅速に解決を図れます。法律や建築・土木の専門家が委員として関わってくれるのが心強いところです(出典:国土交通省・建設工事紛争審査会)。
相手が個人で、住宅のリフォームや新築をめぐるトラブルなら、国土交通大臣が指定した住まいるダイヤル(住宅リフォーム・紛争処理支援センター)の電話相談も使えます。建築士の資格を持つ相談員が、中立の立場でアドバイスしてくれます(出典:住まいるダイヤル(住宅リフォーム・紛争処理支援センター))。金額がはっきりしていて相手も争っていないようなら、簡易裁判所の「支払督促」という手続きも、費用を抑えて請求できる選択肢です。いきなり訴訟に踏み込む前に、こうした窓口をうまく使ってみてください。

ここまで読んで、「そもそも揉めないようにしたい」と思われたはずです。実は今回のようなトラブルは、契約の入り口をきちんとしておくだけで、その多くを防げます。
いちばん効くのは、契約書や注文書に中途解約時の精算ルールをあらかじめ書いておくことです。着工前と着工後で分けて、「実費+出来高+利益をどう精算するか」を一文でも入れておくと、いざというときの拠りどころになります。何を盛り込めばよいか迷うときは、国土交通省の中央建設業審議会がまとめている民間建設工事標準請負契約約款が参考になります。大きな工事向けの(甲)と、中小規模向けでよりシンプルな(乙)があり、解除や損害に関する条項も整理されています(出典:国土交通省・建設工事標準請負契約約款について)。契約書そのものの作り方やチェックポイントは、工事請負契約書に入れておきたい項目を解説した記事もあわせて読んでみてください。
あわせて、次の3つも見直しておきましょう。ひとつ目は着手金の設計です。材料を発注する前に代金の一部を受け取っておけば、直前でキャンセルされても、材料費を丸かぶりするリスクを減らせます。ふたつ目は見積書の有効期限を明記すること。「この見積りは発行から30日間有効」と書いておくだけで、話がずるずる長引くのを防げます。3つ目は、個人のお客様向けのキャンセル料条項は「実際に生じる損害の範囲」で設計すること。先ほどの消費者契約法の話のとおり、欲張った条項は結局無効になってしまうからです。
最後に、実際にキャンセル料や損害賠償金を受け取れたときの経理も、簡単に触れておきます。地味ですが、間違えると税務でつまずくところです。
勘定科目としては、本業の売上とは分けて雑収入で処理するのが一般的です。金額が大きい場合は営業外収益として区分することもあります。悩ましいのが消費税で、心身や資産に加えられた損害の穴埋めとして受け取る損害賠償金は、原則として消費税の課税対象外(不課税)とされています。ただし、その名称ではなく「実質」で判断するのがルールで、実際に引き渡した仕事の対価にあたる部分は課税対象になり得ます(出典:国税庁タックスアンサー No.6257)。
実務的には、すでに施工した出来高の精算にあたる部分は「売上(課税)」、純粋に得られなかった利益の穴埋めにあたる部分は「損害賠償金(不課税)」と分けて考えるとすっきりします。金額の内訳によって扱いが変わるので、迷ったら受け取る前に顧問の税理士さんに相談しておくと安心です。
工事を直前でキャンセルされるのは、金額以上に気持ちがこたえるものですよね。ですが、法律はきちんと請負業者の側にも回収の道を用意してくれています。まずは慌てず資料をそろえて、話し合いから一歩ずつ進めてみてください。この「建設業のトラブル相談」では、こうした「これって聞いてもいいのかな」と思うような、社長業のちょっとした困りごとをこれからも取り上げていきます。