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監督者:白澤光純
株式会社コンクルー 代表取締役CEO
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高さ6.75mを超える現場ではフルハーネス型が義務で、旧規格の安全帯はもう使えません。フルハーネスの義務化を高さ別に整理し、特別教育で学ぶこと、ランヤードやサイズの選び方、点検と交換の目安、会社として何人分そろえるかまで、厚労省とメーカーの一次情報でまとめました。
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フルハーネスの義務化が始まってから数年がたちましたが、いざ自社の現場に当てはめようとすると、「結局うちは何メートルからフルハーネスなの?」「胴ベルトはもう全部だめなの?」と、意外とはっきり答えられないままの方も多いのではないでしょうか。届いたカタログを見ても種類が多く、価格もばらばら。そのうえ社長の立場だと、一人分の善し悪しだけでなく、何人分そろえるか・特別教育はどうするか・いつ交換するか・記録はどう残すかまで考えないといけませんよね。
この記事では、フルハーネスの義務化を高さの基準から正確に整理したうえで、旧規格品の見分け方、特別教育で必要になること、本体とランヤードの選び方、点検と交換の目安、そして会社として現場に配るときの実務までを、厚生労働省の一次情報とメーカー公式の情報をもとにまとめます。数字や制度は2026年7月時点の内容で確認しています。読み終えるころには、自社の現場に何をそろえればいいかが、具体的にイメージできるはずです。
まず押さえたいのは、「フルハーネス義務化」とひとことで言っても、実際にはいくつかの高さの基準が重なっているということです。ここがあいまいなまま「とにかくフルハーネスを買えばいい」と考えてしまうと、必要のない現場にまで高価な器具を用意したり、逆に胴ベルトで済ませてはいけない高さで胴ベルトを使ってしまったりします。高さごとに整理していきましょう。
入口になるのは、器具そのものを着けるかどうかの基準です。高さ2m以上の箇所で作業床がなかったり、床の端や開口部で囲い・手すりを設けるのが難しかったりする場合には、労働者に墜落制止用器具(いわゆる安全帯)を使わせることが事業者に義務づけられています。つまり、フルハーネスか胴ベルトかという以前に、「高さ2m以上・足場が不十分」という場面では、まず何かしらの墜落制止用器具を着ける、というのが大前提です。
次が、フルハーネス義務化の核心です。高さ6.75mを超える箇所で使う墜落制止用器具は、フルハーネス型でなければならないと定められています。この高さでは胴ベルト型は使えません。(出典:厚生労働省 墜落制止用器具の規格について)
なぜ6.75mなのかというと、落ちたときのことを考えると分かりやすいです。フルハーネス型は体全体で衝撃を受け止めますが、そのぶんランヤード(命綱)やショックアブソーバ(衝撃を吸収する部品)が伸びて、体が下がる距離が長くなります。低い場所でフルハーネスを使うと、止まりきる前に地面に届いてしまうおそれがあるのです。そこで、フルハーネスが確実に効く高さの目安として6.75mという線が引かれ、それを超える高所ではフルハーネス型が求められています。
ここで多くの社長がつまずくのが、「じゃあ6.75mまでは胴ベルトでいいのか」という点です。法律上、6.75m以下では胴ベルト型(一本つり)も使えます。ただし厚生労働省のガイドラインは、これとは別に推奨の基準を示しています。一般的な建設作業では5mを超える箇所、柱の上などでの作業では2mを超える箇所では、フルハーネス型を使うことが推奨されているのです。(出典:厚生労働省 墜落制止用器具の安全な使用に関するガイドライン)
これは「5mを超えたら胴ベルトが違法になる」という意味ではありません。あくまで安全のための推奨です。とはいえ現場では、同じ人が2mの高さも7mの高さも行き来します。高さごとに器具を着け替えるのは現実的ではありませんし、うっかり基準を超えてしまうリスクもあります。ですから多くの建設会社にとっては、「うちの現場は基本フルハーネス型」と決めてしまうのが、いちばん分かりやすく安全です。胴ベルトを選ぶのは、ごく低い場所での短時間作業に限る、くらいの整理でよいでしょう。
もう一つ、混同しやすいのが胴ベルトの種類です。胴ベルトには、命綱を1本たらして使う「一本つり」と、柱などに回して体を預ける「U字つり」があります。このうちU字つりは、墜落を止める器具としては認められていません。U字つりは体の位置を保持するための「ワークポジショニング用器具」という位置づけになり、これを使う場合でも、別にフルハーネス型などの墜落制止用器具を併用する必要があります。「U字つりのベルトをしているから大丈夫」という思い込みは、この機会に見直しておきたいところです。

制度の切り替えでもう一つ大事なのが、規格の移行です。かつての「安全帯」は、新しい規格の「墜落制止用器具」へと置き換わりました。旧規格に基づく製品の製造は2019年8月1日で終わり、販売と使用は2022年1月1日まで認められていました。つまり2022年1月2日以降は、旧規格の安全帯は使えません。(出典:厚生労働省 墜落制止用器具の規格について)
問題は、倉庫の奥やベテラン職人さんのロッカーに、古い安全帯が眠っているケースです。見た目が似ているだけに、新旧の区別がつきにくいのが厄介なところ。見分けるポイントは、ラベルの表示です。
会社としては、この機会に手持ちの器具を一度棚卸しして、旧規格品が残っていないかを確認しておくと安心です。判断に迷うものは、無理に使わず処分する。新しくそろえるものは、当然すべて新規格品を選びます。
器具をそろえるのと並んで欠かせないのが、特別教育です。フルハーネスは、正しく着けて正しく使えて初めて意味を持つ道具ですから、使う人への教育が法律で義務づけられています。
特別教育が必要なのは、高さ2m以上の箇所で、作業床を設けることが難しいところにおいて、フルハーネス型を使って作業する人です。ここで注意したいのは、対象の基準が6.75mではなく2mだという点。「6.75mを超えないから教育はいらない」という理解は誤りです。足場のしっかり組まれた床の上での作業は対象外ですが、鉄骨の上や、足場の組立て・解体の途中など、しっかりした床がない高所でフルハーネスを使うなら、特別教育を受けた人でなければなりません。
特別教育の内容は、学科と実技に分かれています。標準的な科目と時間は次のとおりです。
区分 | 科目 | 時間 |
|---|---|---|
学科 | 作業に関する知識 | 1時間 |
学科 | 墜落制止用器具(フルハーネス型)に関する知識 | 2時間 |
学科 | 労働災害の防止に関する知識 | 1時間 |
学科 | 関係法令 | 0.5時間 |
実技 | 墜落制止用器具の使用方法等 | 1.5時間 |
合計 | 6時間(学科4.5時間+実技1.5時間) | |
おおむね1日で修了できる内容です。自社で講師を用意して社内で実施することもできますが、多くの中小の会社では、教習所や講習団体が開く講習会に人を送るのが現実的です。オンラインで学科を受けられる講座もあります。費用は団体によって幅がありますが、一人あたり一万円前後を見ておくとよいでしょう。
過去の経験や資格によっては、一部の科目が省略できます。たとえば、フルハーネス型を使う作業に6か月以上たずさわってきた経験がある人は、学科の一部と実技が省略され、胴ベルト型を6か月以上使ってきた人は「作業に関する知識」が省略されます。足場の組立て等の特別教育や、ロープ高所作業の特別教育を修了している人は、「労働災害の防止に関する知識」が省略できます。ただし、どこまで省略を認めるかは講習を開く団体によって扱いが異なり、「省略なしで全科目を受けてもらう」という方針の団体もあります。人を送る前に、どの科目が対象になるかを確認しておくと、二度手間になりません。
制度と教育が整理できたら、いよいよ器具選びです。カタログを開くと専門用語が並んで身構えてしまいますが、社長として押さえるべきポイントは、そう多くありません。
フルハーネス本体は、肩と腿でしっかり体を支える構造が基本です。選ぶときに見るのは、まずサイズ。S・M・Lといったサイズ展開があり、体格に合っていないと、ずり上がったり緩んだりして本来の性能が出ません。人によって体格は違うので、共用ではなく一人ずつ体に合ったものを選ぶのが基本です。がっしりした体格の職人さんには、対応できる体重(使用可能質量)の大きいモデルや特大サイズがあるかも確認しておきましょう。
次に重量です。フルハーネスは一日中着けているものですから、軽いほど体の負担が減ります。最近は装着感を軽くしたモデルも増えていて、夏場の熱がこもりにくい工夫がされたものもあります。毎日使う道具だからこそ、「着け心地の良さ」は生産性にも直結します。可能なら、購入前に何種類か試着してもらうと失敗が減ります。
意外と見落とされがちで、しかも大事なのがランヤードの選び方です。新規格のランヤードには、ショックアブソーバの性能によって第一種と第二種があり、どちらを選ぶかは「フックを体のどこの高さに掛けて作業するか」で決まります。
なぜ掛ける高さで変わるかというと、フックの位置が低いほど、落ち始めてからロープが張るまでの距離(自由落下距離)が長くなり、体にかかる衝撃も大きくなるからです。足元にフックを掛ける現場で第一種を使うと、想定より大きな衝撃がかかってしまうおそれがあります。基本は第一種を選び、腰より高い位置に掛けて使う。足元にしか掛けられない現場や、高さがまちまちで掛ける位置が定まらない場合は、より大きな落下に対応した第二種を選ぶ、と覚えておけば大きく外しません。(出典:厚生労働省 墜落制止用器具の安全な使用に関するガイドライン)
もう一つ現場で効いてくるのが、ランヤードを2本備えた「2丁掛け(ダブルランヤード)」です。高所を移動するとき、フックを一度外して掛け替えると、その一瞬だけ命綱が外れます。この「掛け替えの瞬間」に起きる墜落は少なくありません。2丁掛けなら、片方を次の場所に掛けてからもう片方を外せるので、移動中も常にどこかにつながった状態を保てます。少し値は張りますが、移動の多い現場ほど、この安心感は大きいです。
器具は、そろえて終わりではありません。フルハーネスは消耗品で、時間とともに確実に劣化します。「見た目がきれいだから大丈夫」とは限らないのが、安全器具の怖いところです。点検と交換のルールを、会社として決めておきましょう。
いちばん大切なのは、使う前の点検を毎日の習慣にすることです。難しい道具は要りません。次のような項目を、着ける前にさっと目と手で確認します。落下を止める性能は、ベルト一本のほつれや金具一つのがたつきで大きく損なわれます。少しでも異常があれば、その器具は使わない。これを徹底するだけで、防げる事故は確実に増えます。

異常がなくても、器具には寿命があります。メーカーが示している交換の目安は、使用を開始した日から数えてランヤードで2年、ハーネス本体・ベルト部で3年です。これはあくまで目安で、使う頻度や保管の状態によって前後します。屋外で毎日使う現場と、たまにしか使わない現場では傷み方が違いますから、目安の年数が来ていなくても、点検で劣化が見つかれば早めに交換します。(出典:TAJIMA(タジマ)公式サイト)
そして、これがいちばん徹底したいルールです。一度でも墜落・落下を止めた器具は、外観に問題がなくても、その場で廃棄します。ショックアブソーバは、大きな衝撃を一度吸収すると、内部が引き伸ばされて元に戻りません。見た目が無事でも、次に落ちたときにはもう性能を発揮できない可能性が高いのです。「もったいないから」と使い回すことのないよう、落下を止めた器具は回収して確実に処分する、という運用を会社のルールにしておきましょう。
ここからが、社長ならではの検討事項です。一人分の器具を選ぶのとは別に、「会社として現場に行き渡らせる」となると、考えることが一気に増えますよね。
フルハーネスは、サイズや体格に合っていないと性能が出ません。ですから、数を絞って使い回すのではなく、使う人ごとに支給するのが基本です。そのうえで、破損や急な増員に備えて予備を何セットか持っておくと、いざというときに現場を止めずに済みます。新しい職人さんが入ったその日に「合う器具がない」とならないよう、サイズにも少し幅を持たせて用意しておくと安心です。
意外と後回しにされがちですが、記録を残すことも会社の大切な備えです。具体的には、次の3つをそろえておきたいところです。
こうした記録は、元請けに提出するグリーンファイル(安全書類)を整えるときにも役立ちます。特別教育の修了状況や器具の管理は、安全書類でも問われる項目だからです。人数や現場が増えてくると紙やエクセルだけでは追いきれなくなってくるので、支給や点検、教育の記録を現場管理アプリ(コンクルーAIなど)でまとめておくと、更新と共有の手間を減らせます。
気になる価格ですが、フルハーネスはメーカー希望小売価格を公表せず、実勢価格で流通しているものが多いです。2026年7月時点の主要メーカーの実勢価格帯は、おおまかに次のようなイメージです。
おおむね、本体と第一種ランヤードのセットで1万円台後半から2万円台が中心的な価格帯です。軽量タイプや2丁掛け、機能を盛り込んだ上位モデルになると、3万円台から4万円台になることもあります。ここに、体格の大きい人向けの特大サイズや、フックを掛ける位置に合わせた別のランヤードを足していく、というのが実際の買いそろえ方になります。(出典:各メーカー公式サイトおよび主要通販サイトの表示価格、2026年7月時点。TAJIMA(タジマ)公式サイトほか)
ここまで読んで、それでも何から手をつければいいか迷う社長のために、進め方をまとめておきます。
まず、自社の現場は基本フルハーネス型でそろえると決めてしまいましょう。建設現場は5mを超えるとフルハーネスが推奨され、6.75mを超えれば胴ベルトは使えません。高さごとに着け替える手間とリスクを考えれば、フルハーネスに統一するのが分かりやすく安全です。買うものはすべて新規格品。手持ちに旧規格の安全帯が残っていないか、この機会に棚卸ししておきます。
次に、使う人に特別教育を受けてもらい、記録を残します。高さ2m以上で作業床が確保できない場所で使うなら、教育は欠かせません。器具は一人ずつ体に合ったものを支給し、ランヤードはフックを掛ける高さに合わせて第一種を基本に選ぶ。移動の多い現場では2丁掛けにしておくと、掛け替えの一瞬の危険を減らせます。
あとは、作業前の点検を習慣にし、目安の年数か、落下を止めたら交換・廃棄する。この運用を会社のルールとして回していけば、フルハーネスの義務化にきちんと対応しながら、現場の安全を一段引き上げられます。完璧を一度に目指すより、まず一人分をきちんとそろえて型を作り、それを現場に広げていく。そこから、会社の安全が少しずつ確かなものになっていくはずです。