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監督者:白澤光純
株式会社コンクルー 代表取締役CEO
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社員が社用車で事故を起こし、相手方から会社に賠償請求が届いた――運転したのは本人なのに、なぜ会社が払うのでしょうか。使用者責任と運行供用者責任という会社が負う根拠から、本人にどこまで弁償させられるか、事故直後の対応、保険と再発防止までを、雇う側の目線でやさしく整理します。
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【今回のケース】塗装業・従業員8名の会社
「入社2年目の若手が、現場への移動中に社用車で追突事故を起こしてしまいました。幸いこちらもケガはなく、本人も相手も軽い接触で済んだのですが、後日、相手方から会社あてに車の修理代と治療費の賠償請求が届きました。運転していたのは本人なのに、なぜ会社に請求が来るのでしょうか。会社はどこまで払わなければいけないのか、そしてこの費用を本人に弁償させることはできるのか、教えてください。」
※この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の案件についての法的助言ではありません。実際の取り扱いは契約内容や状況によって変わります。判断に迷うときや相手方と争いになりそうなときは、弁護士などの専門家にご相談ください。
社員が社用車で事故を起こすと、頭が真っ白になりますよね。ケガの心配はもちろん、「これ、うちがいくら払うことになるんだろう」「本人にも少しは負担してもらわないと、他の社員に示しがつかない」と、経営者としては気持ちが揺れるところだと思います。結論からお伝えすると、業務中の社用車の事故は、原則として会社が賠償責任を負います。そして、その費用を本人に全額弁償させるのは、実はかなり難しいのです。この記事では、なぜ会社が責任を負うのかという法律の根拠から、本人にどこまで求償できるのか、事故直後にやるべきこと、保険の整理、そして二度と繰り返さないための備えまでを、雇う側の目線で順番に整理していきます。
まず、いちばん気になっているところにお答えします。従業員が仕事で社用車を運転していて起こした事故は、たとえハンドルを握っていたのが本人であっても、原則として会社が賠償責任を負います。相手方が運転者本人ではなく会社に請求してきたのは、間違いでも勘違いでもなく、法律上そうできる仕組みになっているからです。
「運転したのは本人なんだから、本人が払うのが筋では」と感じるお気持ちはよくわかります。ですが法律は、従業員を使って事業の利益を得ている会社に対して、その従業員が仕事の中で起こした損害の責任も引き受けなさい、という考え方をとっています。利益を受ける側が、それに伴うリスクも負う。これを報償責任の考え方といい、社用車事故で会社が矢面に立つ根っこにある発想です。
そしてこの裏返しとして、「では本人に弁償させればいい」と考えても、そう簡単にはいきません。会社が払った分を本人に請求すること自体はできるのですが、その金額は法律上大きく制限され、全額を取り戻すのはまず難しいのが実情です。ここが今回のいちばん大事なポイントなので、順を追って見ていきましょう。
「会社が払う」と言われても、根拠がはっきりしないと相手方にも社内にも説明できませんよね。会社が社用車事故で責任を問われるとき、その足場になっているのは主に2つの法律です。少し法律の話になりますが、押さえておくと交渉や保険会社とのやりとりで落ち着いて対応できます。
ひとつ目が、民法715条の使用者責任です。ここには「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う」と書かれています(出典:e-Gov法令検索・民法)。かみくだくと、「従業員を雇って仕事をさせている会社は、その従業員が仕事の中で他人に与えた損害を、会社として賠償しなさい」ということです。
条文には、会社が従業員の選任や監督に相当の注意をしていた場合は責任を負わない、という免責のただし書きも付いています。ただ、これが認められるハードルは実務上とても高く、「うちはちゃんと指導していたので免責されます」という主張が通ることは、まずないと考えておいたほうが現実的です。使用者責任は、車の修理代のような物の損害にも、相手のケガの治療費のような人の損害にも、どちらにも及びます。
ふたつ目が、自動車損害賠償保障法(自賠法)3条の運行供用者責任です。「自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる」と定められています(出典:e-Gov法令検索・自動車損害賠償保障法)。社用車を業務のために走らせ、その便益を受けているのは会社ですから、会社は「運行供用者」としての責任を負うことになります。
こちらの特徴は2つあります。ひとつは、対象が人のケガや死亡(人身損害)に限られること。相手の車の修理代のような物の損害は、この条文ではなく先ほどの使用者責任などで考えます。もうひとつは、会社側が責任を免れるのが極めて難しいことです。免責が認められるには、運転者も会社も運行に関して注意を怠っていなかったこと、被害者や運転者以外の第三者に故意・過失があったこと、車に構造上の欠陥や機能の障害がなかったこと、この3つをすべて会社側が証明しなければなりません。事実上、無過失に近い重い責任だと理解しておいてください。
気になるのが、「業務中じゃなかったらどうなるの」という境目ですよね。純粋に仕事で運転している最中の事故なら、上の2つの責任はほぼ確実に会社に及びます。一方、通勤の途中や、会社に無断で私用に使っていた最中の事故は、状況によって判断が分かれます。
ざっくり言うと、「会社の車を、業務の延長といえる形で使っていた」と見られるほど、会社の責任は及びやすくなります。たとえば社用車で直行直帰していた、日ごろから私用も黙認していた、といった事情があると、私用中でも会社が責任を問われることがあります。「私用だから会社は関係ない」と即断せず、事故の状況は具体的に整理しておきましょう。

ここが多くの社長さんの本音だと思います。「会社が払うのは仕方ないとして、原因を作った本人にも、いくらかは負担してもらいたい」。その気持ちはもっともです。ただ、法律は本人への負担のさせ方にもブレーキをかけています。
会社が被害者に賠償したあと、その分を従業員に請求することを求償といいます。求償できること自体は法律で認められています。ただし、その金額は「損害の公平な分担」という観点から、信義則上相当と認められる範囲に制限される、というのが裁判例で積み重ねられてきた考え方です。
具体的には、会社の事業の性質や規模、日ごろの労働条件や勤務態度、事故の起こり方、会社が保険に入っていたかどうかなど、いろいろな事情を総合して判断されます。その結果、会社が本人に請求できるのは損害の一部にとどまり、事案によっては数分の1程度まで減らされることも珍しくありません。「原因は本人なんだから全額」という感覚は、残念ながら法律上は通りにくいのです。むしろ、本人が先に被害者へ賠償したケースで、あとから会社に負担を求める(逆求償)ことを認めた最高裁の考え方もあり、本人にすべてをかぶせるのは筋違い、というのが今の流れだと言えます。
これは会社にとって理不尽に聞こえるかもしれません。ですが見方を変えれば、「事故のリスクは、雇って利益を得ている会社側があらかじめ保険などで備えておくべきもの」という設計になっている、ということです。次章以降の保険と予防の話が効いてくるのは、まさにこのためです。
ここで気をつけたいのが、本人負担の決め方です。就業規則や誓約書に「社用車で事故を起こしたら一律○万円を弁償する」といった金額をあらかじめ定めておくことは、労働基準法16条が禁じる「賠償額の予定」にあたり、無効とされます(出典:e-Gov法令検索・労働基準法)。実際の損害と関係なく金額を先に決めておくやり方は、認められないということです。
また、本人に負担してもらう分が決まったとしても、それを本人のはっきりした同意なく給料から天引きするのは、賃金は全額支払わなければならないという同法24条の原則に反し、違法になります。弁償させる場合でも、金額の根拠を示し、本人が納得したうえで、別途支払ってもらう形をとるのが安全です。感情にまかせて天引きしてしまうと、今度は会社が労務トラブルを抱えることになりかねません。
ここからは、実際に事故の一報が入ったときの動き方です。若手が動転して電話してきた、というような場面でも、社長が順番を知っていれば落ち着いて指示を出せます。大きく3つのステップで考えましょう。
何よりも先に、ケガ人の救護と現場の安全確保です。負傷者がいれば救急車(119番)を呼び、二次事故を防ぐために車を安全な場所へ移すなどの措置をとります。そのうえで、忘れずに警察(110番)へ連絡します。「かすり傷程度だから」と当事者同士で済ませてしまうと、あとで保険が使えなかったり、話がこじれたりする原因になります。人身・物損にかかわらず、警察への報告は運転者の義務だと本人に伝えてください。
次に、本人から会社へすぐ報告を上げてもらいます。会社は、加入している任意保険の保険会社へ事故の連絡を入れます。ここが実務上とても大切なところで、保険会社に早く入ってもらうと、相手方とのやりとりの窓口を担ってもらえます。あわせて、事故現場の写真、相手の連絡先や車のナンバー、状況のメモなどを残しておくと、後の示談交渉や過失割合の話し合いで役に立ちます。
相手方には、誠意をもってお見舞いの気持ちを伝えることが大切です。ただし、その場で「治療費は全部こちらで持ちます」「○万円お支払いします」といった賠償額や示談の約束はしないでください。金額の交渉は保険会社を通して進めるのが基本で、早まった口約束が後で自分たちの首をしめることがあります。また、運転していた本人が業務中にケガをしていれば、労災(業務災害。通勤途中なら通勤災害)の対象になり得ます。本人の治療についても、労災の申請が必要かどうかを確認しておきましょう。

会社が責任を負うといっても、その多くは保険でまかなうのが現実的です。ただ、自動車保険はいくつかの種類が重なっていて分かりにくいので、社用車事故で関係するものを一般論として整理しておきます。自社の契約内容は、この機会に証券を出して確かめておくと安心です。
まず土台になるのが自賠責保険です。すべての車に加入が義務づけられていますが、補償の対象は相手の人身損害(ケガや死亡)だけで、しかも支払いに上限があります。相手の車の修理代のような物の損害は対象外で、上限を超える人身損害もカバーしきれません。つまり自賠責は「最低限のセーフティネット」であって、これだけでは足りない、という位置づけです。
その足りない部分を埋めるのが任意保険です。任意保険は主に、相手のケガ・死亡に備える対人賠償、相手の車や物に備える対物賠償、自分の車の修理に備える車両保険、そして自分側の搭乗者のケガに備える人身傷害などで構成されています。今回のように相手の修理代と治療費を請求されているケースでは、自賠責を超える人身分と物損分を、この任意保険の対人・対物でカバーしていくことになります。社用車を複数台持っている会社では、契約が古いまま補償内容を見直せていないこともありますので、対物賠償が無制限になっているか、車両保険や人身傷害が付いているか、といった点を点検しておきましょう。
ここまで読んで、「そもそも事故を起こさせないことがいちばんだ」と感じられたはずです。おっしゃるとおりで、社用車のリスクは、日ごろの仕組みづくりでかなり下げられます。最後に、明日からできる備えを整理しておきます。
まず、就業規則とは別に車両管理規程を用意し、社用車の使い方のルールを明文化しておきましょう。私用運転は原則禁止か許可制にする、運転する社員の免許証を定期的に確認して有効性や違反状況を把握する、日々の点検と運転前後の体調確認を習慣づける、といったことを文章にしておくと、いざというときの会社の姿勢が明確になります。前章でも触れたとおり、事故時の弁償額を一律で決める条項は無効になりますので、そこは盛り込まないよう注意してください。
あわせて押さえておきたいのが、アルコールチェックの義務です。一定台数以上の白ナンバー車を使う事業所(たとえば乗車定員11人以上の車を1台以上、またはその他の車を5台以上使う事業所)は、安全運転管理者を選任し、運転者の酒気帯びの有無を確認する義務があります。2022年4月から目視などによる確認と記録の1年間保存が、2023年12月からはアルコール検知器を用いた確認が義務化されています(出典:警察庁・安全運転管理者の業務の拡充等)。社用車を何台も使う塗装業のような会社では、自社が対象になっていないか一度確認しておくことをおすすめします。
そのうえで効果が高いのが、ドライブレコーダーの設置と、日ごろの安全運転教育です。ドラレコは万が一のときの過失割合の証拠になるだけでなく、「見られている」という意識が安全運転につながります。ヒヤリハットを朝礼で共有したり、事故事例をみんなで振り返ったりするのも効果的です。こうした運転者台帳や点呼記録を残していく安全管理は、現場でいえば入場前の安全書類(グリーンファイル)をきちんと整えるのと同じで、「記録に残して初めて意味を持つ」タイプの備えです。書類づくりの基本は、グリーンファイル(安全書類)の作り方を解説した記事もあわせて参考にしてみてください。
社員が事故を起こすと、金銭の心配だけでなく、「本人をどう扱えばいいのか」まで悩ましいものですよね。ですが、業務中の事故は原則として会社が受け止めるもの、と法律が設計している以上、社長がひとりで抱え込みすぎる必要はありません。まずは保険会社と一緒に落ち着いて対応し、そのうえで規程と再発防止の仕組みを整えていく。それが、会社も社員も守る近道です。この「建設業のトラブル相談」では、こうした「これって聞いてもいいのかな」と思うような、社長業のちょっとした困りごとをこれからも取り上げていきます。