決算は黒字なのに、月末になると通帳とにらめっこ。材料屋と職人への支払いは今月、元請けからの入金は再来月——。建設業で「支払いが先、入金は後」になる仕組みを1枚の図にまとめました。銀行や家族への説明にも使える、転載自由の資金繰り図解です。
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決算では黒字。仕事もちゃんとある。なのに月末になると、通帳の残高とにらめっこして胃が痛くなる——。材料屋さんと職人さんへの支払いは今月なのに、元請けからの入金は再来月。この時間差に、毎月じわじわと追いつめられている社長さんは、けっして少なくありません。
そして多くの方が、心のどこかで「うちの経理のやり方が下手なのかな」と自分を責めています。でも、これはあなたの会社が特別なのではありません。建設業というお金の流れそのものが、そういう構造になっているだけです。この記事では、その構造を1枚の図にして、目で見て納得できる形にまとめました。銀行や家族に「なぜ苦しいのか」を説明するときの材料としても、そのまま使ってもらえます。
まず結論から、絵にしてしまいます。下の図は、1本の工事で「お金が出ていくタイミング」と「お金が入ってくるタイミング」を、時間の流れにそって並べたものです。

見てのとおり、出ていくお金(材料・職人さん・外注)は工事の序盤にかたまって並び、入ってくるお金(請求してからの入金)は、ずっと後ろのほうにポツンと置かれています。この、出ていくお金と入ってくるお金のあいだにできる空白の帯——これが「入金ズレ」であり、その期間ぶんのお金を、あなたの会社が身銭で立て替えている状態です。
もう一度言います。あなたの会社の経理が下手なのではありません。建設業は、構造としてこの立て替えが先に来ます。まずここを、社長自身がはっきり腹に落とすことが出発点です。自分を責めるのをやめて、「これは構造だ」と言えるようになると、対策の話も冷静に進められます。
入金ズレは、たまたま起きているわけではありません。建設業のお金の出入りには、支払いを前に、入金を後ろに押しやる要因が3つ重なっています。
工事を始めるには、まず材料を仕入れ、職人さんや外注さんに動いてもらわなければなりません。つまり、お金は工事の入り口でどっと出ていきます。材料屋さんへの支払いも、職人さんの手間賃も、待ってはくれません。ものを作る前に、作るための費用が先に立つ——これはどんな工事でも避けられない、先出しの宿命です。
一方で、こちらが請求できるのは、多くの場合「工事が終わったとき」か「ここまで出来ましたと認めてもらえたとき(出来高)」です。材料を仕入れた瞬間に請求できるわけではありません。工事が進み、完成し、検査を通って、はじめて請求書が出せる。つまり売上は、その性質上どうしても後ろに寄ります。出ていくお金は前、入ってくるお金は後。この時点で、すでにズレる下地ができています。
そのうえ、請求してから実際に振り込まれるまでにも時間がかかります。「月末締めの翌月末払い」「翌々月末払い」といった支払サイトの慣行があるため、請求書を出しても、入金はさらに1〜2か月先になるのが普通です。
なお、下請けへの支払いには法律上の目安もあります。元請負人は、注文者から出来形払いや完成払いを受けたときは、その日から1か月以内で、できる限り短い期間内に、対応する下請代金を支払うこととされています(建設業法24条の3)。また元請けが特定建設業者の場合は、注文者からの入金を待たずに、下請けから工事の引渡しの申し出があった日から50日以内に支払期日を定める義務があります(同24条の6)。いずれも下請けを守るために支払いの上限を区切るルールです(出典:国土交通省 建設業法令遵守ガイドライン)。裏を返せば、あなたが元請けから受け取る側でも、こうした期間を挟むぶん、入金は後ろにずれていくということです。
ここまでを、数字を入れて追いかけてみます。以下はすべて架空の例です。実在する特定の工事や会社の数字ではありません。あくまで構造を体感するための、わかりやすい仮の設定として見てください。
設定はシンプルにこうします。請負金額800万円、工期は4月着工・5月完成の2か月。原価は材料費300万円と、労務・外注費350万円の合わせて650万円。差し引き150万円がこの工事の利益(粗利)です。決算だけ見れば、しっかり黒字の工事です。
これを、月ごとのお金の出入りに並べ替えると、次のようになります。
月 | 出ていくお金 | 入ってくるお金 | その月の収支 | 手元の累計 |
|---|---|---|---|---|
4月(着工) | ▲450万円(材料300+労務外注150) | — | ▲450万円 | ▲450万円 |
5月(完成) | ▲200万円(残りの労務外注) | — | ▲200万円 | ▲650万円 |
6月 | — | — | 0円 | ▲650万円 |
7月(入金) | — | +800万円 | +800万円 | +150万円 |

最後の7月まで来れば、たしかに手元は+150万円のプラス。利益の150万円が、ちゃんと現金として残ります。ここだけ見れば何の問題もありません。
問題は、その手前です。5月の時点で、手元は650万円のマイナス。この工事のために、あなたの会社は最大650万円を立て替えている計算になります。入金がある7月まで、この650万円を自前で持ちこたえなければなりません。「黒字なのに現金がない」というのは、決算上の利益と、日々の手元現金が、まったく別のものだからこそ起きる現象です。決算書は工事が終わった後の結果を映し、通帳はいまこの瞬間の立て替えを映しているのです。
そしてやっかいなのは、工事が1本ではないことです。仕事が増え、現場が2本、3本と重なるほど、この立て替えの山も重なって積み上がります。売上が伸びて忙しくなるほど、先に出ていくお金は膨らむ。成長しているのに資金繰りが一番苦しい、という逆説は、こうして生まれます。順調なときこそ、この立て替えの厚みに注意が必要です。
「黒字倒産」という言葉を聞いたことがあると思います。帳簿上は利益が出ているのに、立て替えの谷を越えるための現金が尽きて、支払いが止まってしまう。建設業でこれが起きやすいのは、性格の悪い経営をしているからではなく、まさにこの入金ズレという構造が背景にあるからです。だからこそ、利益が出ているかどうかとは別に、「来月・再来月に手元がいくらになるか」を先に見ておくことが、この業種ではとりわけ大切になります。
この構造は、打ち手でゼロにできるものではありません。ただ、ズレの幅を小さくしたり、立て替えを持ちこたえやすくしたりする手はあります。町場の会社でも取り組みやすいものを、5つに絞って挙げます。
それぞれの詳しい進め方は、工事原価の考え方をまとめた記事にゆずります。ここでは、まず「構造を知り、自社のズレの幅を把握する」ところまでで十分です。
この記事のなかの2枚の図(お金の流れの全体図と、月次のキャッシュ推移)は、銀行への説明資料、社内の勉強会、他メディアでの引用などに、自由に使っていただけます。同じ悩みを抱える建設会社の役に立つなら、それが一番うれしいからです。利用にあたっては、次の条件と、あわせてお伝えしたいことがあります。
画像ファイルだけを直接リンクして使うのではなく、この記事そのものを引用元として示していただけると助かります。図に添えた数字はすべて架空の例です。実際の資金繰りは工事の内容や取引条件で変わりますので、自社の数字に置き換えて考える出発点として使ってください。