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監督者:白澤光純
株式会社コンクルー 代表取締役CEO
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「ついでにここも」と引き受けた追加工事が、請求のときに「そんな話は聞いていない」と揉めてしまう——そんな経験はありませんか。揉める典型パターンから、着手前に送る見積・確認の文例、建設業法の考え方まで、書面で記録を残すコツをまとめました。
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現場で施主さんから「ついでにここも直しておいて」と頼まれ、断るのも角が立つと思ってそのまま追加工事を引き受けた経験はありませんか。ところが完成後の請求書に追加分を載せたら、「そんな話は聞いていない」「てっきりサービスだと思っていた」と支払いを渋られる。結局こちらが折れて、数十万円を飲み込んだ——そんな苦い記憶がある社長さんも、少なくないはずです。元請から「口頭でいいから、先にやっておいて」と言われるまま着手し、精算のときにいつも金額を削られる、という声もよく聞きます。
この記事では、追加工事の見積と請求で「言った言わない」に巻き込まれないための書面の残し方と、関係を壊さずに使える文例を、着手前の段取りから、口頭で進んでしまった後のリカバリーまでまとめました。
先に結論からお伝えします。追加工事のトラブルは、次の3つを守るだけで、かなりの割合を防げます。
伝えてから手を動かす。これだけです。「書面」と聞くと大げさな契約書を思い浮かべるかもしれませんが、ここでいう書面はメールやSMS、チャットのやり取りでも十分に成立します。大事なのは形式ではなく、「言った・言わない」にならない記録が残っていることです。
揉める追加工事には、実はひとつの共通点があります。それは「金額を言わずに、先に手を動かしてしまった」ということです。逆に言えば、金額の見当だけでも先に伝えておけば、揉める芽の多くはその場で摘めます。次の章から、なぜ揉めるのか、どうすれば防げるのかを順番に見ていきましょう。
追加工事のトラブルには、パターンがあります。代表的な3つの場面を見てみましょう。
場面①: 現場での口頭指示に、善意で応えてしまう
施主さんや現場担当者から「ついでにここもお願いできますか」と声をかけられ、断ると角が立つと思って、その場で引き受けてしまうケースです。悪気があるわけではなく、むしろ「対応がいい業者だ」と思われたい一心だったりします。ところが、そのやり取りには金額の話が一切出ないまま、工事だけが進んでしまいます。
場面②: 仕様変更が「追加料金になる」と伝わっていない
「やっぱりこっちの仕様に変えてほしい」という指示変更は、現場ではよくあることです。ただ、変更を依頼した本人からすると「お願いしただけ」という感覚で、それが追加費用の発生する変更だとは思っていないことがあります。伝える側が「追加の料金が発生します」と一言添えなければ、相手には伝わりません。
場面③: 概算も言わずに着手し、請求額に相手が驚く
金額の話を後回しにしたまま工事を終わらせ、完成後の請求書ではじめて金額を提示するケースです。相手からすれば、いくらになるか分からないまま工事が進み、ある日突然、想定より大きな金額を提示される格好になります。驚きと不信感が同時に生まれ、「そんなに高くなるとは思わなかった」という反発につながります。

この3つの場面に共通しているのは、相手に悪意があるわけではないという点です。施主さんの側にも「これくらいは込みだと思っていた」という、本人なりの理屈があります。双方の記憶違いや思い込みが重なって、揉め事に発展するんですね。だからこそ、対策は「相手を疑うこと」ではなく、「仕組みとして記録を残すこと」に尽きます。
揉めない追加工事は、だいたい同じ流れをたどります。

急ぎの現場で「見積を作っている時間がない」というときもありますよね。そんなときの次善策は、正式な見積の代わりに、概算金額と上限の目安だけでも先に伝えておくことです。「詳しい金額は後日お出ししますが、だいたい◯万円前後、多くても◯万円は超えない見込みです」と一言添えるだけで、相手の心構えはまったく変わります。国土交通省の建設業法令遵守ガイドラインでも、追加工事の内容や金額がその場で確定できないときは、概算を明記した書面を着工前に取り交わし、内容が固まった段階であらためて正式な見積・契約に切り替える進め方が、実務対応として示されています(出典:国土交通省 建設業法令遵守ガイドライン)。承諾の記録を都度残す一手間が面倒に感じるなら、たとえば建設業向けの業務管理ツール「コンクルーAI」のように、見積から注文書・請書のやり取りまでをデータとして残せる仕組みを使うのも一つの方法です。
追加工事の見積書は、元の契約とバラバラに存在すると、後から「これは元の契約に含まれているのか、追加なのか」が分からなくなります。次の点を押さえて、元契約と紐づけて作りましょう。
工事名に「追加」と明記し、元工事名・契約日を書く——「◯◯邸新築工事に伴う追加工事(令和◯年◯月◯日契約分)」のように、どの契約に対する追加なのかが一目で分かる書き方にします。
見積番号で管理する——元契約の見積・注文番号と、追加工事の見積番号を対応づけておくと、後から突合しやすくなります。一式見積と明細見積の使い分けでも触れていますが、追加工事は特に、範囲と数量・単価を明細で示したほうが、後の交渉の根拠になります。
範囲と数量・単価を明記する——単価は、できるだけ元契約と同じ単価基準を使いましょう。元契約と違う単価がいきなり出てくると、「なぜ急に高くなったのか」という疑問を招きます。
有効期限を入れる——追加見積にも、通常の見積と同じように有効期限を明記します。
サービスでやる分も「0円」で明細に載せる——好意で無償対応する部分があるときこそ、金額欄に「0円」として明細に載せておきましょう。書かなければ、その対応があったこと自体が記録に残りません。0円でも明細に載せておけば、「これだけのことをサービスでやっている」という事実が、次に何かを頼まれたときの判断材料になります。
請求書は元契約分と行を分ける——追加分は、元契約の請求と行を分けるか、別葉にします。こうしておくと、精算のときにどちらの分がいくらなのか、双方ですぐに突合できます。
ここまでの6項目を、見積作成前のチェックリストとして整理しておきます。
チェック項目 | ポイント |
|---|---|
工事名 | 「追加」の明記+元工事名・契約日 |
見積番号 | 元契約の見積・注文番号と対応づけ |
範囲・数量・単価 | 元契約と同じ単価基準を使う |
有効期限 | 通常の見積と同様に明記する |
サービス対応分 | 0円でも金額欄に明細として残す |
請求書の行 | 元契約分と分ける、 |
作成のたびにこの6項目を見返すだけでも、「これは元契約に含まれているのか」という後からの疑問をかなり減らせます。
ここからは、そのまま使える文例を3つ紹介します。あくまで連絡文の一例なので、普段の相手との関係性に合わせて言葉づかいは調整してください。契約条項の雛形ではなく、記録を残すための文例だと理解してお使いください。
> ご依頼いただきました◯◯の件、着手前にお見積りをお送りします。内容と金額をご確認いただき、問題なければ「了承」とご返信いただけますと幸いです。ご不明点があれば、いつでもご連絡ください。
「ご依頼の件、着手前にお見積りをお送りします」という一言を型として覚えておくと、どんな追加依頼にもそのまま使えます。
> ◯◯の件、現時点での概算は◯万円前後を見込んでおります。詳細が固まり次第、正式なお見積りをお送りします。もし◯万円を超えそうな場合は、着手前にあらためてご連絡いたします。
現地を見ないと金額が読めない、というときでも、上限の目安だけは先に伝えておくと安心です。「超えそうな場合は事前にご相談します」の一言が、後の言った言わないを防ぎます。
> 本日ご依頼いただきました◯◯の件、下記の内容で承りました。内容に相違がなければご確認のみで結構です。もし認識に違いがあれば、お知らせください。
現場でつい口頭のまま作業を進めてしまった、というときも、その日のうちにこの一報を送っておけば、事後でも記録を作れます。理想どおりの段取りでなくても、気づいた時点でリカバリーする習慣が、揉め事を防ぎます。
ここまで紹介してきた「書面で残す」というやり方は、実務上のコツであると同時に、法律の考え方とも一致しています。
建設業法19条2項では、請負契約の当事者が契約の内容を変更するときは、その変更内容を書面に記載し、署名または記名押印のうえ、相互に交付しなければならないとされています。書面といっても紙に限らず、相手の承諾があれば、メールなどのやり取りで済ませることも認められています(出典:建設業法第19条)。追加工事は元の契約内容の変更にあたるため、この書面化の原則が及ぶ場面です。この原則は元請・下請間の契約に限った話ではなく、建設業の許可を持つ会社が請け負う工事であれば、発注者が施主のような個人であっても対象になるとされています。ただし契約の形態によって細かな扱いは変わるため、判断に迷ったときは専門家に確認することをおすすめします。
工事請負契約書とはで紹介しているような正式な契約書を都度交わすのが理想ですが、追加工事のような日々のやり取りでは、メールやチャットの記録も一般的には証拠になり得ると考えられています。
こうした法律の後押しがあることを踏まえると、契約時や見積提示の段階から、条件欄に「追加・変更が生じる場合は、事前協議のうえ書面(メール可)で対応する」と一文入れておくのも、有効な予防策です。最初にルールを決めておけば、追加工事が発生したときに、あらためて説明する手間も省けます。現場での口頭指示が習慣になっている会社ほど、この一文の効果は大きいものです。契約の最初の段階で「追加は一度確認が必要」という共通認識ができていれば、現場で「ついでに」と言われたときも、その場で見積の話に自然につなげやすくなります。
ここまでは予防の話でしたが、すでに追加工事の代金で揉めてしまっている、という方もいると思います。その場合は、次の順番で進めましょう。
まず、手元にある記録を集めます。指示のやり取り(メール・チャット・メモ)、現場写真、出面(誰がいつ何をしたかの記録)など、当時の状況が分かるものはすべて集めておきます。書面が残っていなくても、写真や現場のやり取りの記録が、状況を裏づける材料になることがあります。
次に、感情を切り離して協議します。「言った言わない」の場面では、双方が「自分は正しい」と思い込みがちです。相手を責める言い方ではなく、「記録を確認しながら、お互いの認識をすり合わせたい」という姿勢で話し合いに臨むと、まとまりやすくなります。
話し合いで決着しない場合は、第三者の相談先を頼る選択肢もあります。元請・下請間の請負代金トラブルであれば、建設業法に基づいて国や都道府県に設置されている建設工事紛争審査会が、あっせん・調停・仲裁を行っています(出典:国土交通省 建設工事紛争審査会)。相手が施主のような個人の場合は、公益財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センターの「住まいるダイヤル」も相談先のひとつです(出典:住まいるダイヤル)。どちらも、いきなり法的な手続きに進むのではなく、専門家に間に入ってもらいながら落としどころを探る窓口です。相手が元請なのか施主なのかによって、まず頼るべき窓口が変わる、という点だけ覚えておいてください。
なお、「請求できます」と一律に言い切れるものではありません。追加工事の合意内容や経緯によって結論は変わるため、あくまで協議や相談の対象になり得る、という前提で臨むことをおすすめします。
追加工事のトラブルは、「着手前に・書面で・金額を」という3原則を徹底するだけで、その多くを防げます。見積は元契約と紐づけて作り、承諾は記録に残る形でもらい、請求は元契約と分ける。口頭で進んでしまったときも、気づいた時点で確認の一報を入れれば、リカバリーできます。
書面は、相手を疑うための道具ではありません。施主さんも元請も、悪気があって「言った言わない」を引き起こしているわけではなく、お互いの記憶違いや思い込みが重なっているだけのことがほとんどです。書面は、そうしたお互いの記憶違いを防ぎ、これからも気持ちよく仕事を続けていくための道具だと考えてみてください。次に「ついでにここも」と言われたときから、今日の3原則を試してみてください。