猛暑の現場に空調服を『会社として支給したい』社長へ。個人が一着選ぶのとは違い、支給か手当か、電圧とメーカーの統一、互換バッテリーのリスク、洗い替えや貸与規程、経費処理まで考えることが増えます。2025年の熱中症対策義務化もふまえ、機種の羅列ではなく選び方と揃え方を整理しました。
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夏の現場に、ファンの回る作業着がすっかり当たり前になりましたよね。職人さん個人が量販店で一着買う、という時代から、いまは「会社としてまとめて用意する」ところまで来ています。ところが、いざ社長の立場で「うちも支給しよう」と考えると、通販サイトのおすすめランキングだけでは決めきれないことに気づきます。ランキングは、あくまで個人が一着を選ぶための情報だからです。
会社で揃えるとなると、一着の良し悪しだけでなく、誰の負担で用意するのか、何を基準に選ぶのか、何着買って誰に配るのか、バッテリーの安全はどう守るのか、経費でどう落とすのかまで、考えることが一気に増えます。しかも空調服は電気を使う道具ですから、選び方を間違えると発火や故障といった、洋服では起きないトラブルにもつながりかねません。
この記事では、「空調服のおすすめは何か」という問いに、会社として支給する社長の目線で答えていきます。特定の機種を並べるのではなく、支給の考え方、選ぶときの基準、メーカーの系統整理、支給運用のルール、経費処理まで、順番に整理しました。価格や仕様は2026年7月時点の各社公式情報などをもとにしています。読み終えるころには、自社の現場に配る一着と、その揃え方が具体的にイメージできるはずです。
機種選びの前に、社長がいちばん先に決めるべきなのは「どう用意するか」です。方法は大きく三つあります。
一つ目は自腹(従業員が各自で購入)。会社は口を出さず、欲しい人が自分で買う形です。手間もお金もかかりませんが、機種も安全性もバラバラになり、暑さ対策を会社として管理しているとは言いにくくなります。二つ目は手当(現金支給)。「空調服手当」として現金を渡し、購入は本人任せにするやり方です。三つ目が会社が選んで支給・貸与する(現物支給)。会社が機種を決めてまとめて配る、いちばん管理の効く形です。
ここで押さえておきたいのが、2025年(令和7年)6月に施行された、職場の熱中症対策の義務化です。改正された労働安全衛生規則により、WBGT(暑さ指数)28度または気温31度以上の場所で、継続して1時間以上、または1日4時間を超える作業を見込むときは、事業者に対策が義務づけられました。罰則付きの義務です(出典:厚生労働省 職場における熱中症対策の強化について)。
ただし、義務の中身は「①熱中症のおそれがある人を早く見つけて報告を受ける体制を整える」「②作業からの離脱・身体の冷却・緊急時の連絡や搬送といった手順を定めて周知する」の二つです。つまり「空調服を配りなさい」という義務ではありません。恐怖をあおる必要はありませんが、暑さ指数そのものを下げる暑熱対策の一つとして、ファン付きウェアの支給は有力な手段になります。会社が主導して安全を整える流れの中に、支給という選択肢を置いて考えるのが自然ですよね。
この流れで考えると、現金の「手当」はあまりおすすめできません。現金で渡すと、税務上は原則として給与(課税対象)に含まれてしまううえ、本人が何を買うかは分からず、安全面を会社が管理できないからです。逆に、会社が機種を決めて配る現物支給なら、後で触れるとおり経費処理もシンプルで、電圧やメーカーを揃えて安全を担保することもできます。会社支給・貸与を軸に据える——これが、この記事を通した大きな前提になります。
支給すると決めたら、次は選び方です。ここでスペック表を上から眺めると、風量が何リットル、電圧が何ボルト、と数字に埋もれてしまいます。会社で配る立場では、見るべき観点は限られています。個々の機種スペックより、次の基準で絞り込むのが近道です。
これが会社支給でいちばん大事な基準です。空調服は、ウェア(服)・ファン・バッテリーの三点セットで動きます。そしてこの三つは、同じメーカーの同じシリーズで揃えるのが大原則です。理由は二つあります。
一つは、動かないことがあるから。ファン付きウェアのバッテリー電圧は年々上がっていて、以前の主流だった十数ボルトから、いまは24ボルトや、30ボルト級の高出力モデルまで登場しています(出典:サンエス公式サイト)。電圧の世代が違うと、同じメーカーでも新旧のファンとバッテリーが噛み合わないことがあります。各社が「互換性一覧」を公開しているのは、裏を返せば組み合わせを間違えると使えないからです。
もう一つは、安全のため。電圧や端子が合わない組み合わせ、とくに純正でない「互換バッテリー」を無理に使うと、発熱や発火の原因になります。会社でまとめて買うときに、服はこのメーカー、ファンは別のメーカー、バッテリーは安い互換品、とバラバラに集めるのは避けましょう。一つの系統に統一するのが、故障とトラブルを防ぐいちばんの近道です。
コストを抑えたい気持ちから、純正より安い互換バッテリーに手が伸びがちです。ですが、ここは節約すべきところではありません。製品評価技術基盤機構(NITE)によると、2020年から2024年までの5年間に通知されたリチウムイオン電池搭載製品の事故は1,860件あり、その約85%(1,587件)が火災に至っています。事故は気温が上がる6月から8月にかけて増える傾向で、まさに空調服を使う時期と重なります(出典:製品評価技術基盤機構(NITE))。
安価な非純正バッテリーは、異常が起きたときに電流を止める保護回路や温度管理が十分でない場合があり、火災につながるリスクが指摘されています。会社で配るなら、バッテリーと充電器は純正品でそろえ、PSEマーク(電気用品の安全基準を満たす表示)のある製品を選ぶ。これを支給の条件にしておくと安心です。何十台と配るからこそ、一台の発火が現場を止め、会社の責任問題にもなり得ます。
ウェアの形は、大きくベスト型と長袖型に分かれます。空調ベストは袖がないぶん動きやすく、風の出口が首元や脇に集まるので上半身を効率よく冷やせます。一方、長袖型は日焼けや飛来物から腕を守れるのが利点です。炎天下で腕をさらす時間が長い外仕事なら長袖、動きやすさや脱ぎ着のしやすさを重視するならベスト、と作業内容で選び分けます。
素材と現場の相性も忘れてはいけません。ファンは外の空気を服の中に取り込む道具なので、火の粉が飛ぶ溶接・溶断や、火気を扱う現場では要注意です。火の粉を吸い込んだり、酸素を送り込んで延焼を助けたりする危険があるため、こうした持ち場では難燃素材のモデルを選ぶか、そもそも通常の空調服の支給を見送る判断も必要になります。高所でフルハーネスを着ける作業なら、安全帯のベルトとファンが干渉しない形かどうかも確認しておきましょう。
会社支給ならではの観点が、サイズと洗濯です。体格には個人差があり、女性の従業員もいます。SサイズからLLや4Lまで、同じシリーズでサイズがそろうかを確認しておかないと、「合う服がなくて配れない人が出る」という無駄が生じます。予備のサイズを少し多めに持っておくと、途中入社の人にもすぐ渡せます。
洗濯については、ファンとバッテリーを簡単に取り外して洗えるかがポイントです。汗をかく道具ですから、洗い替えを前提に一人2〜3着そろえると衛生的に回せます。ここまでの選定基準を一枚に整理すると、次のようになります。
選定基準 | 会社支給での見るポイント | なぜ大事か |
|---|---|---|
系統の統一 | ウェア・ファン・バッテリー | 電圧世代が違うと動かない。 |
バッテリーの安全 | 純正品・PSE適合品に統一。安い互換品は避ける | 非純正は保護回路が不十分で、 |
ウェアの形 | 動きやすさ重視はベスト、腕を守るなら長袖 | 作業性と冷却効率のバランスが変わる |
素材と現場 | 火気・溶接は難燃素材か支給見送り。 | 火の粉の延焼や安全帯との干渉を防ぐ |
サイズ展開 | S〜4Lなど。女性・体格差に対応し予備も確保 | 合う服がないと支給そのものが無駄になる |
洗濯・メンテ | ファン・バッテリーを外して洗える。洗い替え前提 | 衛生を保ち、長く使える。 |
この基準を、現場のタイプに当てはめて整理したのが次の図です。まず「どんな現場か」を決めると、選ぶべき仕様の方向が見えてきます。

市場には数え切れないほどのファン付きウェアがあり、一つひとつを追うときりがありません。会社で選ぶときは、個々の機種ではなく「系統」でとらえると、ぐっと分かりやすくなります。大きく四つの系統に分けて見ていきましょう。
「空調服」という言葉は、もともと株式会社空調服(旧・株式会社セフト研究所)の登録商標です。ファンで服の中に空気を送り、汗の気化熱で身体を冷やすという仕組みを世に広めた元祖にあたります(出典:株式会社セフト研究所公式サイト)。定番として実績があり、ウェアのバリエーションも豊富なので、まず標準を押さえたい会社に向く系統です。
作業服メーカーの株式会社サンエスが展開するのが、登録商標の「空調風神服®」です。風向きを調整できる斜めファンや、業界でも高水準の風量をうたう24ボルト仕様のバッテリーなどが特徴で、公式サイトにはウェア・ファン・バッテリーの互換性一覧も用意されています(出典:サンエス公式サイト)。作業服全般をこのメーカーでそろえている会社なら、装備の系統も合わせやすいでしょう。
作業服アパレル各社が、独自のバッテリー・ファン規格でブランド展開しているのがこの系統です。近年シェアを伸ばしているバートルの「エアークラフト」などが代表格で、高出力バッテリーやデザイン性を売りにするモデルが多く、若い職人さんにも人気があります。デザインと機能で選びたい会社に向きますが、系統ごとに規格が独立しているので、他社のファンやバッテリーとは基本的に混ぜられない点は押さえておきましょう。
意外と見落とされがちなのが、電動工具メーカーの系統です。マキタの「充電式ファンジャケット・ファンベスト」や、HiKOKI(工機ホールディングス)の「コードレスクールジャケット」は、同社の電動工具用バッテリーをそのまま流用できるのが最大の強みです。マキタなら10.8V・14.4V・18Vのスライドバッテリーに対応し(バッテリーホルダー経由)、2026年モデルは風量を大きく高め、保冷剤ポケットも備えました(出典:マキタ公式サイト/HiKOKI公式サイト)。
すでに現場でマキタやHiKOKIの工具を使っている会社なら、バッテリーと充電器を工具と共通化できるので、追加投資と在庫管理を抑えられます。インパクトドライバーの電池がそのまま空調服に使える、と考えると分かりやすいですよね。工具の系統がすでに一つに決まっている会社には、有力な選択肢になります。
これら四系統を、価格の目安と現場向けの機能・特化度で大まかに配置すると、次のようになります。あくまで系統の位置関係をつかむための図で、機種ごとの優劣を示すものではありません。

価格の目安としては、ウェア・ファン・バッテリーをそろえたセットで一着あたりおおむね1万円台後半から2万円台が一つの中心帯で、高出力の上位モデルやハイエンドはそれ以上になります。電動工具系はウェアとファンを比較的安く買え、バッテリーは既存の工具用を流用できるぶん、初期費用を抑えやすい系統です(価格帯は2026年7月時点の各社公式・実勢の目安。モデルや販売店で変わります)。
選定基準の話と重なりますが、社長として先に線を引いておきたいのが、空調服が向かない現場です。良かれと思って一律に配った結果、かえって危険になっては本末転倒ですよね。
もっとも注意したいのが、火気・溶接・溶断の現場です。ファンは服の中に外気を送り込むため、飛んできた火の粉を巻き込んだり、送り込んだ酸素が延焼を助けたりする恐れがあります。こうした持ち場では、難燃素材のモデルに限定するか、送風タイプ以外の暑さ対策(水冷ベストや休憩・水分補給の徹底など)に切り替える判断が要ります。
次に、粉じんが極端に多い場所や、狭い密閉空間。細かい粉じんを吸い込み続けるとファンの寿命を縮めますし、換気の悪い場所では送風が体感ほど冷却に働かないこともあります。高所作業でフルハーネスを使う場合は、前述のとおりベルトとファン位置の干渉に注意が必要です。どの現場に何を配り、どこは配らないか。この線引きを、装備の管理と同じく現場ごとにルール化しておくことが、安全書類(グリーンファイル)を整えるのと同じ発想で効いてきます。
機種と系統が決まったら、最後は運用です。ここを決めずに配ると、「誰に何を渡したか分からない」「退職者の分が返ってこない」「バッテリーが古いまま使われる」といったほころびが出てきます。難しく考える必要はなく、三つだけ決めておけば十分です。
空調服を「支給(あげる)」のか「貸与(貸す)」のかを、はっきりさせておきましょう。会社の備品として貸与にするなら、退職時に返却する・故意の破損は本人負担・紛失時は連絡するといったルールを一枚の規程にまとめておきます。難しい文書はいりません。誰に・いつ・どのサイズを渡したかを記録しておくだけでも、管理はずいぶん楽になります。
汗をかく道具ですから、洗い替えは欠かせません。一人あたり2〜3着を目安にそろえると、洗濯している間も現場に出られます。同じシリーズでまとめておけば、ファンやバッテリーは使い回せるので、増やすのはウェア本体だけで済みます。ここでも系統をそろえておく効果が効いてきます。
いちばん見落とされやすく、いちばん大事なのがバッテリー管理です。リチウムイオン電池は消耗品で、使ううちに劣化します。一つずつ個体番号をふり、購入日・使う人・おおよその使用年数を台帳で管理しておくと、「いつのまにか古い電池を使い続けていた」という危険を避けられます。あわせて、純正の充電器を使う・就寝中や不在時の充電放置はしない・高温の車内に置かない、という充電のルールも共有しておきましょう。これはNITEが呼びかける「正しく購入・正しく使用・正しく対処」にも沿った基本です。
こうした貸与状況や台帳、日々の日報を紙で回すのは案外手間がかかります。写真や日報とあわせてデジタルで扱うなら、現場に配るタブレットとセットで考えると管理がまとまります。備品や台帳を現場管理アプリ(コンクルーAIなど)にのせてしまう手もあり、誰に何を貸しているかを事務所からも確認できるようになります。
最後は、社長がいちばん気にするお金の話です。結論から言うと、空調服の経費処理はシンプルです。一着あたり数千円から数万円で、取得価額が10万円未満のものは、買った年に全額を消耗品費(作業用品費)などとして経費にできます(出典:国税庁タックスアンサー No.5403)。何年もかけて償却する資産にはあたらないので、身構える必要はありません。
気をつけたいのは、従業員に支給・貸与したときに「現物給与」として本人に課税されないか、という点です。ここには条件があります。作業服などの支給が非課税として扱われるのは、①専ら勤務場所で職務のために着るもので、私用には着ない(着られない)こと、②その仕事に従事する人の全員を対象に支給・貸与することを満たす場合です(出典:国税庁 質疑応答事例(源泉所得税))。空調服は現場作業のための装備ですから、対象者の全員に配る形にしておけば、この条件に収まりやすいわけです。非課税で扱えるなら、会社側は福利厚生費または消耗品費として計上できます。
逆に、冒頭で触れた現金の「手当」で渡すと、原則として給与に含まれて課税対象になります。同じお金をかけるなら、現物で支給・貸与したほうが税務上もすっきりする、というわけです。ここでも「会社が選んで現物で配る」形が、安全面だけでなく経理の面でも合理的だと分かります。なお、まとめ買いの金額が大きくなる場合や、細かな適用条件は会社ごとに事情が違うので、実際の処理は顧問税理士に確認してください。制度は改正されることもあるため、購入のタイミングで最新の扱いを押さえておくと安心です。
ここまで見てきた内容を、社長が動きやすいように順番で整理しておきます。
まず、現金の手当ではなく、会社が選んで現物で支給・貸与すると決める。次に、現場のタイプで仕様を決める——一般的な屋外なら標準モデル、炎天下の長時間なら高出力バッテリーと長袖、火気・溶接の現場は難燃素材か支給を見送る、高所はハーネス対応、という具合です。そして、メーカーの系統を一つに統一し、純正で電圧世代をそろえる。作業服をそろえているメーカーがあればその系統、工具をマキタやHiKOKIで統一しているなら電動工具系、という選び方が自然です。
あとは運用に落とすだけ。貸与規程を一枚つくり、洗い替えは一人2〜3着、バッテリーは台帳で管理する。経費は消耗品費で一括、全員に配れば非課税の条件にも収まりやすい。これだけ押さえておけば、大きく外すことはありません。
いきなり全員・全現場に配ろうとせず、まずは暑さの厳しい現場や職長から小さく始めて、使い勝手を見ながら広げていく。空調服は、一着の性能を競うよりも、会社としてどう安全に・無駄なくそろえるかで差が出る道具です。この夏、現場の一人ひとりが少しでも楽に働けるよう、自社に合った一着とその揃え方を、ここから決めていってください。