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監督者:白澤光純
株式会社コンクルー 代表取締役CEO
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現場に置いた電動工具やケーブルが夜間に盗まれた——保険は出るのか、誰の損害になるのか。盗難に気づいた直後の初動から、工具と資材で変わる保険の考え方、盗難損失の経理、明日からできる予防策までを、電気工事会社の社長さんのご相談をもとに順番に整理します。
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【今回のケース】電気工事業・従業員7名の会社
「先週、住宅の新築現場に電動工具一式と配線用のケーブルを置いて帰ったのですが、翌朝に行ってみると根こそぎ盗まれていました。インパクトドライバーやレーザー墨出し器、まだ使っていない銅線ケーブルまで、被害は数十万円分になりそうです。うちは保険にいくつか入っているのですが、こういう現場の盗難で保険は出るものなのでしょうか。それに、盗まれた材料の中には元請さんからの支給材も混ざっていて……これは誰の損害になるのか、頭が真っ白です。」
※この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の案件についての法的助言ではありません。実際の取り扱いは契約内容や状況によって変わります。判断に迷うときや相手方と争いになりそうなときは、弁護士や税理士などの専門家にご相談ください。
朝、現場に着いて工具や資材がごっそり消えていたときの、あのすっと血の気が引く感じ。想像しただけでもつらいですよね。しかも被害額の計算だけでなく、「保険は出るのか」「支給材はどうなるのか」「元請にどう報告しよう」と、考えることが一度に押し寄せてきて、何から手をつければいいか分からなくなるものです。結論から先にお伝えすると、現場の盗難は、入っている保険の種類しだいで補償される可能性が十分にあります。そして誰の損害になるかは、「盗まれたのが自社の工具か・支給材か・施工済みの部分か」で切り分けて考えることができます。この記事では、盗難に気づいた直後の初動から、工具と資材で変わる保険の考え方、盗難損失の経理、そして二度と繰り返さないための予防策までを、順番に一緒に見ていきます。
被害に気づくと、つい「いくら盗られた」と金額に気を取られてしまいますが、最初の数時間の動き方で、あとで保険が出るか、スムーズに回収できるかが大きく変わります。順番に見ていきましょう。
まっさきにやることは、警察への通報です。110番でも最寄りの警察署でもかまいません。盗難の被害届(盗難届)を出すと「受理番号」が発行されます。この受理番号は、あとで保険会社に保険金を請求するときに、まず求められる大事な番号です。逆に言えば、警察に届けていないと保険の手続きが進みません。保険会社より先に、まず警察へ。これを覚えておいてください。
盗まれたと分かると、つい散らかった現場を片づけたくなりますが、その前にスマホで写真を撮っておきましょう。工具や資材が無くなった場所、こじ開けられた保管庫や仮囲い、侵入されたと思われる経路。これらは警察の捜査の手がかりになるだけでなく、保険会社が「本当に盗難があったか」を確認する資料にもなります。片づけるのは記録を取ってからです。
落ち着いたら、何が盗まれたのかを一覧にします。品名・メーカー・型番・製造番号・買った時期・おおよその金額。これらが分かると、警察への届け出も保険請求もぐっと進めやすくなります。購入時のレシートや納品書、通販の購入履歴、工具が写っている現場写真などが残っていれば、それが「持っていた証拠」になります。日ごろから工具の型番や製造番号を控えておくと、こういうときに本当に助かります。
自社の工具だけでなく、元請から預かった支給材や、現場に納入済みの材料まで盗まれている場合は、できるだけ早く元請や施主にも報告します。あとで「黙っていた」と受け取られると、信頼にかかわります。支給材はそもそも所有者が元請や施主であることが多く、共同で警備を見直したり、相手側の保険が使えたりすることもあります。報告は早いほど、話がこじれません。
ここまでを、盗難に気づいたらまず動く3ステップとして整理したのが次の図です。

いちばん気になっているところですよね。現場の盗難で保険が出るかどうかは、「どの保険に入っているか」と「何が盗まれたか」の組み合わせで決まります。ここを混同すると、「入っていたつもりなのに出なかった」となりがちなので、ていねいに整理します。
インパクトドライバーや発電機、レーザー墨出し器といった、現場に持ち出して使う工具や機械。これらの盗難に備えるのが動産総合保険です。動産総合保険は、会社の什器・備品・商品といった「動く財産」を対象に、火災や破損、運送中の事故、そして盗難など、幅広い偶然の事故を補償する保険です(出典:日本損害保険協会・動産総合保険とは)。持ち出して使う道具は、建物の火災保険では守りきれないため、この動産総合保険でカバーするのが基本の形になります。ただし自動車そのものや、工場に据え付けた機械などは対象外とされているので、細かい範囲は証券で確認しておきましょう。
一方、これから現場に組み込む予定の資材や材料、施工の途中まで仕上げた部分などをカバーするのが建設工事保険です。建設工事保険は、工事の目的物そのものや、工事用の資材・材料を対象にしていて、工事期間中のさまざまな事故に備えます。ここで注意したいのは、建設工事保険の対象は「工事に使う資材・材料」であって、作業に使う工具・機械・器具は含まれないのが一般的だという点です。つまり同じ現場の盗難でも、工具は動産総合保険、資材は建設工事保険と、守る保険が分かれているのです。
もうひとつ大事な注意点があります。盗難の補償は、契約や特約によって条件がついていることが多いのです。たとえば建設工事保険では、盗難に気づくのが遅れて一定の期間(30日など)を過ぎてしまった場合や、いつの間にか無くなっていた「紛失」は、補償の対象外とされることがあります。動産総合保険でも、盗難を補償に含めるかどうかや、防犯対策が不十分だと支払われない、といった条件が設けられていることがあります。「工事の保険に入っているから盗難も大丈夫だろう」と思い込まず、加入している保険の証券を引っぱり出して、代理店に「現場の工具の盗難は補償されますか」と具体的に確認しておくことを、強くおすすめします。
なお、車に積んだ工具ごと盗まれた、車上荒らしにあった、というケースでは自動車保険の車両保険が関係することもありますが、車内の積載物は対象外になっていることが多いので、これも要確認です。どの保険で何を守るのかを、次の図に整理しました。

ご相談にもあった「支給材が混ざっている」問題。盗難の損害が最終的に誰の負担になるのかは、盗まれた物を3つに分けて考えると整理しやすくなります。
自分で買ったインパクトドライバーや発電機は、当然ながら自社の財産ですから、盗まれれば自社の損害です。ここは動産総合保険などで自衛しておく部分になります。
元請や施主から「これを使って」と渡された支給材は、多くの場合、所有権は渡した側にあります。ただし、現場で預かって管理している以上、こちらには「きちんと保管する義務」(善管注意義務)があります。施錠もせず現場に放置していて盗まれた、となると、保管がずさんだったとして責任を問われる可能性もあります。逆に、盗難防止をきちんとしていたなら、危険負担のルールや契約しだいで相手側の負担になることもあります。まずは契約書や約款で、支給材の保管責任がどう決められているかを確認し、早めに元請へ報告するのが安全です。
すでに配線を通した、下地を組んだといった「施工済みの部分」が盗難で失われた場合はどうでしょう。一般的な考え方として、工事の目的物を注文者に引き渡す前の段階では、その滅失・損傷の危険は請負人(つまり工事をした自社)が負いやすいとされています。分かりやすく言うと、引渡し前に盗まれた分は、基本的にもう一度自社の負担でやり直すことになりがちだ、ということです。これは酷なようですが、だからこそ工事の目的物を対象にする建設工事保険に意味があるわけです。実際の負担は契約や約款の定めで変わりますので、大きな案件では特に、契約時に工事中の危険負担がどうなっているかを確認しておきましょう。
地味ですが見落としがちなのが税務です。盗難で失った分は、税金の計算上はきちんと損失として扱えます。泣き寝入りした上に税金でも損をしないよう、押さえておきましょう。
会社(法人)の場合、事業で使っていた工具や資材が盗まれた損失は、事業上の損失として損金に算入できます。個人事業主の場合も、工具や材料といった事業用の資産が盗まれたなら、その損失は事業所得を計算するうえでの必要経費として扱います。ここで一つ勘違いしやすいのが「雑損控除」です。雑損控除は、自宅の家財のような生活に使う資産が盗難・災害にあったときの所得控除で、店や現場で使う事業用の資産は雑損控除の対象にはなりません(出典:国税庁・災害や盗難などで資産に損害を受けたとき)。事業の道具は経費や損金、生活の私物は雑損控除、と覚えておくと混乱しません。
もう一つ大事なのが、保険金を受け取ったときの扱いです。盗難の損失を経費・損金に落とす一方で、受け取った保険金や、元請などからの補填は収入(雑収入など)として計上します。損失と受け取ったお金を両にらみで精算するイメージです。このとき、先ほどの初動でつくった被害品リストや盗難届の受理番号、帳簿上の取得価額といった資料が、損失を計上する根拠にもなります。初動の記録は、税務の場面でもそのまま効いてくるわけです。金額が大きいときや判断に迷うときは、受け取る前に顧問の税理士さんに相談しておくと安心です。
ここまで読んで、「そもそも盗まれないようにしたい」と強く思われたはずです。現場の盗難を完全にゼロにするのは難しいのですが、狙われにくくする工夫はいくつもあります。手間とコストのバランスを見ながら、できるところから取り入れてみてください。
いちばん効くのは、そもそも現場に高価な工具を置いて帰らないことです。少し面倒でも、電動工具は車や事務所に持ち帰る、どうしても現場保管するなら施錠したコンテナや保管庫に入れる、といったルールを決めておきましょう。銅線ケーブルのような換金されやすい資材は、必要な分だけ搬入し、余った端材もまとめて施錠管理するのが安全です。
工具に社名や管理番号を刻印・塗装しておくと、転売されにくくなり、見つかったときに自社の物だと証明しやすくなります。あわせて、工具や資材の型番・製造番号・購入時期を一覧で管理しておきましょう。こうした資産の記録は、工事台帳のように工事ごとの情報とひもづけて残しておくと、盗難時の届け出や保険請求のときにそのまま使えて便利です。
夜間に無人になる現場や資材置き場には、防犯カメラやセンサーライト、「防犯カメラ作動中」の掲示が効果的です。人の気配や記録される感覚は、それだけで狙われにくさにつながります。近年は工事現場向けの、電源不要で通信機能つきのカメラも増えているので、被害額の大きい現場から導入を検討する価値があります。
もう一つ見落としがちなのが、現場の出入り管理です。下請けや応援の職人を含め、誰がいつ現場に入っているかを把握できていると、部外者の侵入に気づきやすくなります。作業員の情報を整理するグリーンファイル(安全書類)をきちんと整えておくことは、安全管理だけでなく、こうした現場の防犯体制づくりにもつながります。
最後に、少し背景の話をさせてください。「うちの現場が狙われたのはたまたまか」と思われるかもしれませんが、残念ながら、いま金属を狙った盗難は全国的に急増しています。
警察庁によると、令和6年(2024年)の金属盗の認知件数は2万701件にのぼりました。統計を取り始めた令和2年以降、増加が続いています(出典:警察庁・令和6年の犯罪情勢)。被害の中心になっているのが、銅を含む金属ケーブルです。令和5年の統計では、金属盗の認知件数の半分以上(54.8%)を金属ケーブルが占めていました(出典:警察庁・金属盗対策に関する検討会資料)。太陽光発電施設が突出して狙われていますが、同じ手口で、建設現場や資材置き場に置かれた銅線・ケーブルも標的になっています。銅の価格が世界的に高く、換金しやすいことが背景にあります。
こうした事態を受けて、令和7年6月には金属盗対策の新しい法律(盗難特定金属製物品の処分の防止等に関する法律)が成立し、金属くずの買取業者への規制などが順次始まっています(出典:警察庁・金属盗対策)。国も対策に乗り出しているとはいえ、現場を守るのは、やはり日ごろの備えです。「うちは大丈夫」ではなく、「うちも狙われうる」という前提で、工具の持ち帰りや施錠、記録を習慣にしておきたいところです。
工具や資材を盗まれるのは、金額の大きさ以上に、積み上げてきたものを踏みにじられたようで、本当に悔しいものですよね。ですが、正しい初動を踏めば保険という備えがありますし、税務でも救済の道は用意されています。まずは慌てず、警察への届け出と記録から一歩ずつ進めてみてください。この「建設業のトラブル相談」では、こうした「こんなこと聞いてもいいのかな」と思うような、現場と経営のあいだの困りごとを、これからも一緒に考えていきます。