建設業許可を持つと、付き合いのある無許可の同業から『名義を貸して』と頼まれることがあります。断りづらいですが、名義貸しは貸す側にも懲役・罰金・許可取消という重い代償が。何がまずいのか、迷いやすいグレーゾーン、角を立てない断り方までをやさしく整理します。
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【今回のケース】内装工事業・従業員5名の会社
「昔から付き合いのある同業の知り合いから、『大きな内装の仕事が入りそうなんだが、うちは建設業許可を持っていない。おたくの許可(名義)で請けてくれないか。工事はこっちで全部やるし、手間賃も少し包むから』と持ちかけられました。長い付き合いですし、困っている様子を見ると無下に断りづらくて…。これって、引き受けても大丈夫なものなのでしょうか。もしまずいなら、角を立てずに断る方法も知りたいです。」
※この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の案件についての法的助言ではありません。実際の取り扱いは契約内容や状況によって変わります。判断に迷うときや相手方と争いになりそうなときは、弁護士や行政書士などの専門家にご相談ください。
長いお付き合いのある相手から「助けてほしい」と頼まれると、なかなか無下にはできませんよね。ましてや「工事はうちでやるから、名前だけ貸してくれればいい」と言われると、大した手間もかからないように聞こえて、つい情が動いてしまうお気持ち、よく分かります。ですが、結論からお伝えします。建設業の名義貸しは、どれだけ関係が近くても引き受けてはいけません。これは建設業法に違反する行為で、しかも実際に工事をした相手だけでなく、名義を貸したあなたの側にも、懲役や罰金、そして苦労して取った建設業許可の取消しといった、非常に重い代償がのしかかってくるからです。この記事では、名義貸しがなぜそこまでまずいのか、貸した側が負うリスク、判断に迷いやすいグレーゾーン、そして相手との関係をこわさずに断る方法までを、許可を持つ側の目線で順番に整理していきます。
まず、いちばん気になっているところにお答えします。「名前だけ貸す」という行為は、建設業の世界では名義貸しと呼ばれ、はっきりと違法です。実際に手を動かして工事をするのが相手の会社であっても、書類の上ではあなたの会社が請け負う形をとり、あなたの許可を使って本来は無許可ではできない工事を成立させる——この構図そのものが、建設業法の土台にある「許可制度」を骨抜きにしてしまうため、厳しく禁じられています。
そして見落とされがちなのが、リスクを負うのは名義を借りた側だけではない、という点です。むしろ「貸した側」であるあなたのほうが、長年かけて積み上げてきた許可や信用を一気に失いかねません。手間賃を少し受け取るくらいの軽い気持ちで引き受けると、まったく釣り合わない代償を払うことになります。次の章から、その中身を具体的に見ていきましょう。
「名義貸しは違法」と言われても、ふだんやっている下請けへの発注と何が違うのか、線引きがあいまいだと不安になりますよね。まずはここを整理します。
建設業でいう名義貸しとは、ざっくり言えば「自分の会社の名前(建設業許可)を、実体のないまま他人に使わせること」です。今回のご相談のように、無許可の会社が請けられない工事を、あなたの許可を看板にして請けさせ、実際の施工はまるごと相手に任せる——これが典型例です。あなたの会社は契約書に名前が載るだけで、現場には関与しません。
実は、建設業法には「名義貸しの禁止」という見出しの条文が一本だけあるわけではありません。名義貸しは、その実態に応じて複数の規定に引っかかる、というのが正確な理解です。ポイントは大きく2つあります。
ひとつ目は、そもそも許可の要る工事を、無許可の会社がやってしまう点です。建設業では、建築一式工事なら1件1,500万円以上(税込。木造住宅は延べ面積150平方メートル以上)、それ以外の工事なら1件500万円以上(税込)の工事を請け負うのに、建設業許可が必要です(出典:国土交通省・建設業の許可とは)。名義貸しは、この許可を持たない会社に許可の要る工事をさせるための「抜け道」ですから、実際に施工する相手は無許可営業(建設業法3条1項違反)をしていることになります。
ふたつ目が、あなたの会社が「名前だけの元請」になってしまう点です。ここで似ているようで違うのが、建設業法22条が禁じる一括下請負、いわゆる「丸投げ」です。一括下請負とは、請け負った工事を自社ではほとんど施工せず、そっくり他社に請け負わせてしまうことを指します(出典:e-Gov法令検索・建設業法)。
両者はよく似ていますが、名義貸しは丸投げよりさらに悪質だと考えてください。丸投げは「元請として契約したうえで、施工を全部外に出す」行為ですが、名義貸しは「そもそも施工能力のない相手に、許可という看板だけを貸して工事をさせる」行為です。言いかえれば、一括下請負が禁じられる最大の理由——元請が実体をもって施工に関与しないこと——を、名義貸しは最初から満たしてしまっているわけです。どちらも「施工の実体があるかどうか」が分かれ目になります。

ここが今回いちばんお伝えしたいところです。名義貸しの代償は、想像よりずっと重く、しかも何段構えにもなっています。
許可の要る工事を無許可で請け負う無許可営業には、3年以下の懲役または300万円以下の罰金という刑事罰が定められています(建設業法47条1項)。そして名義を貸したあなたの側も、この無許可営業を成り立たせた張本人として、同じ罰則に問われ得ます(出典:e-Gov法令検索・建設業法)。「実際に工事をしたのは相手だから、名前を貸しただけの自分は関係ない」は通用しません。
さらに重いのが、両罰規定と呼ばれるしくみです。従業員や代表者が業務として名義貸しなどの違反をした場合、その本人が罰せられるだけでなく、会社(法人)そのものにも罰金が科されます。無許可営業に関する違反では、法人に対する罰金の上限はなんと1億円以下です(建設業法53条)。個人への罰金上限が300万円であるのと比べても、桁違いに重いことが分かります。
刑事罰と並んでこたえるのが、行政処分です。名義貸しのような不正が発覚すると、あなたの建設業許可そのものが取り消されることがあります(建設業法29条)。しかも一度取り消されると、その後5年間は新たに許可を取り直すこともできません(建設業法8条の欠格要件)。つまり、たった一度の「名前貸し」で、これから5年間、許可の要る工事が一切できない会社になってしまう可能性があるのです。長年かけて整えてきた経営業務管理責任者や専任技術者の体制も、振り出しに戻ってしまいます。
刑事罰・行政処分のほかにも、「名前を貸しただけ」では済まない現実的なリスクがあります。とくに貸した側にのしかかるものを4つ挙げます。
契約書の上で工事を請け負っているのは、あなたの会社です。ということは、施工が原因で不具合や欠陥が出たとき、施主や発注者が責任を問う相手も、まずはあなたになります。実際に工事をしたのは別の会社でも、「請負人はあなた」である以上、契約不適合責任(いわゆる瑕疵の責任)や補修の義務から逃れるのは簡単ではありません。相手の施工品質を、あなたはコントロールできないのに、です。
もっと深刻なのが、現場での事故です。無許可の会社に工事を任せるということは、施工体制や安全管理が十分かどうかを、あなたが確かめられないまま現場が進むということ。万一、第三者にケガをさせたり、近隣に損害を与えたりすれば、元請という立場のあなたが損害賠償を求められるおそれがあります。名義を貸した見返りの手間賃とは、まったく釣り合わない金額になりかねません。
建設業の監督処分は、その内容が速やかに公表されるのが原則です(出典:国土交通省・建設業者の不正行為等に対する監督処分の基準)。後ほど詳しく触れますが、営業停止や許可取消といった処分を受けると、会社名・代表者名・処分の理由・処分の内容が国のサイトに掲載され、取引先や金融機関、これから取引を考える相手の目にも触れます。数日の営業停止でも、この「公表」による信用への打撃は、処分そのものより長く尾を引くことがあります。
許可の取消しや営業停止を受けると、その期間は新しい請負契約が結べません。すでに動いている別の現場や、これから受注するはずだった仕事、公共工事の入札参加資格などにも影響が及びます。たった一件の名義貸しが、本業まるごとの停滞につながる——これが「貸した側こそリスクが大きい」と申し上げる理由です。
名義貸しというと「許可証をそのまま渡す」ような露骨なものを想像しがちですが、実際には「これも該当するの?」と迷うケースがたくさんあります。良かれと思ってやったことが名義貸しと判断されないよう、代表的なグレーゾーンを見ておきましょう。
とくに注意したいのが、経営業務管理責任者(経管)や専任技術者の「名義だけ借りる/貸す」パターンです。許可を維持するにはこれらの人を常勤で置く必要がありますが、実際には働いていない人を書類上だけ在籍させ、資格や経歴を借りて許可を通す——これも立派な名義貸し(虚偽申請)です。人手不足のなかで「名前だけ貸してくれる有資格者」を探したくなる気持ちは分かりますが、実態のない在籍は、発覚すれば不正な手段による許可取得として、許可取消しや刑事罰の対象になります。

共通しているのは、「書類や名前と、実際の中身がズレている」という点です。契約書があっても施工に関与していない、在籍しているはずの技術者が現場にいない——その「ズレ」こそが名義貸しの正体です。迷ったら、「実体が伴っているか?」と自問してみてください。
ここまで読んで、「やっぱり断ろう」と思われたはずです。とはいえ、長い付き合いの相手に正面から「違法だからダメ」と突きつけるのは、気が引けますよね。関係をこわさずに断りつつ、相手のためにもなる伝え方を考えてみましょう。
おすすめは、相手を責めるのではなく、「これは二人とも罰せられる話だから」という切り口で伝えることです。名義貸しは、貸した側・借りた側の双方が処罰の対象になります。「引き受けたら、うちだけじゃなくてお宅も無許可営業で罰せられてしまう。お互いのためにならないから、別のやり方を一緒に考えよう」——こう伝えれば、断りが「拒絶」ではなく「相手を思っての提案」に変わります。法律を理由にできるのも、こういう場面ではありがたいところです。
いちばん健全なのは、名義貸しではなく、あなたの会社がきちんと元請として関与する正式な下請契約に組み替えることです。あなたが見積り・発注・工程管理・検査に実体をもって関わり、相手を正規の下請けとして使うなら、それは適法な施工体制です。丸投げにならないよう、施工体制台帳や再下請負通知書で施工体制を書面に残しておけば、「名義だけ」との違いも明確になります。相手にも仕事が回り、あなたも正当なマージンを受け取れます。
規模が大きい工事なら、対等な立場で組む共同企業体(JV)という手もあります。ただし、無許可の相手とのJVには制約があるため、あくまで「実体を伴って一緒に施工する」形が前提です。名前を貸すのではなく、役割と責任を分け合う——この違いが大切です。
そもそも相手が困っている根っこは「許可がないこと」です。であれば、許可取得を勧めて背中を押すのが、長い目で見ていちばんの助けになります。500万円未満の軽微な工事なら許可はいりませんから、「まずは許可の要らない範囲で実績を作って、そのあいだに許可を取ろう」と一緒に道筋を描く。あるいは、その工事を確実に施工できる別の許可業者を紹介する。どれも、名義貸しのリスクを負わずに相手を助けられる方法です。
最後に、「実際のところ、名義貸しでどんな処分が出ているの?」という点に触れておきます。特定の会社名を挙げることはしませんが、公表されている傾向を知っておくと、リスクの実感がぐっと湧くはずです。
国は、建設業者に対する監督処分の基準を公表しています。そこでは、一括下請負(22条違反)には15日以上の営業停止、無許可業者と知りながら下請契約を結んだ場合には7日以上の営業停止、といった目安が示されています。虚偽申請や特に情状の重い事案では、告発(刑事手続き)や許可取消しをもって臨むとされています(出典:国土交通省・建設業者の不正行為等に対する監督処分の基準)。名義貸しは、その実態に応じてこれら複数の類型にまたがるため、処分も重くなりがちです。
そして、実際に下された処分は、国土交通省の「ネガティブ情報等検索サイト」で誰でも検索できます。会社名・代表者名・違反の概要・処分の内容が、一定期間にわたって掲載され続けます(出典:国土交通省・ネガティブ情報等検索サイト)。取引先や元請、金融機関がここを見て取引を見直す、ということも現に起きています。「名前を貸しただけ」のつもりが、自社の名前が違反者として世に残る——これが、名義貸しのいちばん現実的な怖さかもしれません。
長い付き合いの相手からのお願いを断るのは、勇気がいりますよね。ですが、名義貸しだけは、情に流されて引き受けてはいけないお願いです。断ることは、あなたの会社を守るだけでなく、無許可営業に踏み込ませないことで相手を守ることにもなります。正式な下請契約や許可取得の後押しなど、二人とも胸を張れる道はきっと見つかります。この「建設業のトラブル相談」では、こうした「これって聞いてもいいのかな」と思うような、社長業のちょっとした困りごとを、これからも取り上げていきます。