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監督者:白澤光純
株式会社コンクルー 代表取締役CEO
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三相交流という言葉を耳にしたことはあっても、「家庭の電気と何が違うの?」と疑問を感じる方は多いのではないでしょうか。 さらに、専門用語が多いため、正しく理解できていないことで設備選びや職場での判断に不安を抱える場合もあります。 本記事では、三相交流の基本原理から電圧の仕組みやメリット、結線方式、実際の利用シーンまでを体系的に整理し、初めての方でも無理なく理解できるように分かりやすく解説します。
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まず、三相交流の基本情報を紹介します。
三相交流とは、産業用電源として広く利用されている交流方式の一つです。
電力会社からの供給形態としても確立されており、発電所や変電所、工場設備など電力インフラの多くが三相を前提に構成されています。
三相交流は、R相・S相・T相と呼ばれる3本の電線に、それぞれ時間をずらして電圧が流れる仕組みです。
3本の電圧は全て同じリズムで上下しますが、波が大きくなるタイミングを互いに120度ずつずらして発生させている点が特徴です。
この様子をイメージしやすくするために使われるものが「三相交流の波形」です。波形では、3本の電圧が同じ形の正弦波でありながら、ちょうど1周(360度)を3等分したずれを持って並んでいます。R相が上がり始めたころにはS相が少し遅れて続き、さらにその後をT相が追いかけてくるような形です。
3本の波がこのようにずれて重なっているため、どれかの電圧が弱くなっても、他の相がその分を補えます。結果として、三相交流全体としては電力がほとんど途切れず、一定に近い状態を保ちながら供給されます。
単相交流は、私たちの家庭で使われている一般的な電気で、照明・コンセント・家電製品などを動かす目的で使われます。
電力の規模としては日常生活に十分対応できますが、強い力が必要な機械を動かすには向いていません。
つまり、単相交流は「家庭向けであり、普段使う家電に適した電気」で、三相交流は「産業向けであり、力のいる設備に適した電気」という違いがあります。
三相交流では、電圧を「どこを基準に測るか」によって意味が変わります。
相電圧とは、各相と大地(グランド)との間に生じる電圧のことです。
三相交流では、R相・S相・T相の3つの相が120度ずれた正弦波をつくります。例えば、発電機や変圧器の巻線を120度の角度差で配置し、その中心で磁石が回転すると、3本のコイルそれぞれに起電力が生まれます。この1つ1つの起電力が「相電圧」です。
相電圧は、三相の基本を形づくる3本それぞれの電圧であり、三相交流はこの3つの相電圧が合わさって成り立っています。
線間電圧とは、相と相の「線どうしの間」に現れる電圧です。
相電圧が「相と大地」の電圧なのに対し、線間電圧は「R相とS相」「S相とT相」のように、隣り合う2つの相を比較したときの電圧です。
三相交流の設備では、この線間電圧がよく使われます。例えば三相200Vというときの「200V」は、相電圧ではなく線間電圧を指しています。
三相交流で扱う電力は、次の式で計算できます。
三相電力(P)= √3 × 線間電圧(V) × 線電流(I) × 力率(cosθ)[W]
それぞれの意味は次のとおりです。
● P[W]
三相で消費・供給される総電力
● V[V]
三相200V・400Vなどに代表される「線間電圧」
● I[A]
各線に流れる電流
● cosθ
機器の効率に関わる指標である「力率」
三相交流には「スター結線(Y結線)」と「デルタ結線(Δ結線)」の2つの結線方法があります。しかし、線間電圧と線電流を用いる限り、この電力計算式は結線方式に左右されない点が特徴です。
三相交流には、大きく分けて次の3種類があります。
● 対称三相交流
● 平衡三相交流
● 不平衡三相交流
それぞれを分かりやすく解説します。
三相交流の中でも最も基本的な形とされるものが対称三相交流です。
対象三相交流は、3つそれぞれの電圧が同じ大きさでありながら、時間的には一定の間隔を保って発生します。その間隔は360度の周期を3つに分けた120度ずつで、3本の相が順番に電圧を生み出すようなイメージです。
このように3つの波形が均等に配置されているため、それらを重ねて考えると全体としての電圧が釣り合い、結果的に合計がゼロになるという性質が現れます。これは三相交流の計算や機器設計で基本になる考え方の一つです。
平衡三相交流は、対称三相交流の条件に加えて、3つの相に接続されている負荷が同じ状態である場合を指します。
負荷が均等であれば、電圧だけでなく電流においても3つがそろい、流れる電流の大きさや位相がきれいに並んだ状態になります。
このとき、電流の和もやはりゼロに近づくため、回路全体が無駄なく働きます。電源から見ても負担が偏りにくく、設備が安定した動作を続けられるため、電力システムとして非常に望ましい状態といえます
三相交流を使うときには、電源側と機械側のつなぎ方にいくつかのパターンがあります。
特に多く使われているものが「デルタ結線(Δ)」と「スター結線(Y)」という2つのつなぎ方です。
デルタ結線は、3本の電線を互いにつないで三角形の形を作る方式です。スター結線は、3本の電線の片側を1つの点に集めて「Y字型」に組む方式です。
2つの結線をどう組み合わせるかによって、次の4つの結線方式が生まれます。
● デルタ-デルタ結線(Δ-Δ)
● デルタ-スター結線(Δ-Y)
● スター-スター結線(Y-Y)
● スター-デルタ結線(Y-Δ)
それぞれを分かりやすく解説します。
デルタ-デルタ結線(Δ-Δ)は、電源側も機械側も三角形(デルタ)の形につなぐ結線方法のことをいいます。
3本の電線をぐるっと輪のようにつないだイメージで、三角形の中を電気がまわり続ける仕組みです。三角形の中で電気が循環するおかげで、電気の波が少し乱れたときでも外に影響が出にくく、比較的安定しやすい特徴があります。ノイズのような「電気のゆらぎ」を三角形の内部だけで処理してくれるイメージです。
一方で、この三角形の配線には電気を逃がすための中心点(中性点)がないため、アース(接地)が必要な設備とは相性がよくありません。
デルタ-デルタ結線は一般的な設備よりも、特定の条件で使う機器や特殊な用途に限られています。
デルタ-スター結線(Δ-Y)は、電源側を三角形(デルタ)、機械側をY字型(スター)につなぐ方法です。電圧を変える変圧器(トランス)で特によく使われます。
まず、電源側が三角形(デルタ)になっていることで、電気に少しノイズのような乱れがあっても三角形の中でうまく吸収され、外に出にくくなります。さらに、機械側のスター結線では3本の電線が1つの中心点に集まるため、この中心点を接地でき、安全面の確保がしやすい点が特徴です。
つまり、デルタの「電気が安定しやすい性質」と、スターの「安全に使いやすい性質」を両方取り入れた、バランスの良い結線方式だといえます。
スター-スター結線は、電源側も機械側も、どちらもY字型でつなぐ方法です。
Y字型の配線は3本の電線が真ん中の1点に集まる構造なので、電源側と機械側のどちらにも「中心点(中性点)」ができます。この中心点があるおかげで接地がしやすく、電気の事故を防ぐための安全対策や、点検・保守作業がしやすいという利点があります。
ただし、電気の波が乱れたときに逃がすルート(デルタ結線のような三角形の循環ルート)がないため、電気の乱れがそのまま機器に影響しやすいです。そのため、電力が大きく必要な設備には向いていません。
こうした理由から、スター-スター結線は比較的小規模な機器や負荷が軽い設備で使われることが多いです。
スター-デルタ結線は、電源側をY字型(スター)、機械側を三角形(デルタ)につなぐ方法です。電圧を下げるタイプの変圧器でよく使われる、比較的身近な組み合わせです。
機械側が三角形(デルタ)になっているため、三角形の中を電気が回り続ける循環ルートができます。このルートがあるおかげで、電気が少し乱れても三角形の中で吸収されやすく、外に影響が出にくくなります。つまり、ノイズのような電気のゆらぎに強い点が大きな特徴です。
一方で、中心点(中性点)があるのは電源側のスター結線だけで、機械側のデルタ結線には中心点がありません。そのため、機械側で接地したい場合には向かないといえます。
三相交流のメリットは、次のとおりです。
● 大電力を効率よく送れる
● 必要な電線の量を減らせる
● 送電ロスを抑えられる
● モーターを高効率で動かせる
それぞれを詳しく解説します。
三相交流は、単相交流と比べて同じ太さの電線でも約1.73倍の電力を送れる点がメリットです。
これは三相交流ならではの「3つの電圧が120度ずつずれて流れる」という仕組みが大きく影響しています。単相交流では電圧がゼロになる瞬間が周期的に現れるため、その瞬間は実質的に電力を送れていません。
三相交流の高い効率性は、発電所から都市部まで電気を届ける大規模な送電では欠かせない要素です。長距離送電は少しのロスでも大きな影響を与えるため、「大量の電力を安定して届けられる三相交流」が標準方式として採用されています。
電気は発電所から遠く離れた地域まで送られるため、送電には長い電線が必要です。単相交流で同じ電力を送ろうとすると、複数の単相回路を用意する必要があり、電線の本数も距離も増えてしまいます。
三相交流は1つの三相回路で単相3回路分と同じ電力を送れるため、必要な電線の総量を大きく減らせます。計算上、三相交流の方が必要な電線の長さは約半分で済むため、材料費の削減だけでなく、送電鉄塔や電柱に電線を張る作業も大幅に軽減されます。
山間部など工事が難しい地域では特にこの利点が大きく、三相交流が広く使われる理由の一つです。
電気を電線で運ぶ際、電線の抵抗によって一部の電力が熱として失われます。送電距離が長くなるほど損失が大きくなるため、効率的に電気を届ける仕組みが重要です。
三相交流は電線をより有効に使えるため、同じ条件で比べると電力損失を単相交流のおよそ半分にまで抑えられます。損失が減るということは、発電に使う燃料の消費を抑えられるということでもあり、エネルギー資源の節約や温室効果ガスの削減にもつながります。
長距離で大量の電力を運ぶ送電システムで三相交流が採用されているのは、電力を無駄なく届けられるというこの特性が大きな理由です。
三相交流は、モーターを動かす上で非常に相性が良い電源方式です。
三相交流を流すと、3つの電圧が時間差をもって変化するため、モーター内部に「回転磁界」と呼ばれる回転力の元となる磁界が自然に生まれます。この回転磁界のおかげで、三相モーターは追加の始動回路を使わなくても自力でスムーズに回転し始めます。
また、トルク(回す力)が一定で振動が少なく、電力を効率よく利用できる点も大きな特徴です。
三相交流の実用例は、次のとおりです。
● 産業機械・工場設備での利用
● ビル・商業施設の空調システム
● 公共インフラ設備
● EV急速充電設備
● 太陽光・再エネ発電のパワーコンディショナー
● 飲食店・小規模事業所の電気設備
それぞれを詳しく解説します。
三相交流が最も広く利用されているのは工場などの産業分野です。
多くの設備には大型モーターが組み込まれており、これらを安定して動かすには連続的に大きな力を出せる電源が欠かせません。三相交流は電力供給が途切れにくく、立ち上がりも滑らかで、産業機械に求められるパワーと安定性の両方を満たします。
工場で使用される主な三相機器には、次のようなものがあります。
● コンプレッサー(空気圧設備)
● 大型ポンプ(給水・排水・冷却設備)
● 産業用ロボット・搬送装置
● 冷凍・冷蔵用圧縮機
これらの機器は総じて大きな電力を必要とするため、家庭用の単相電源では対応が難しく、三相交流が「工場の標準電源」として定着しています。
ビルや大型商業施設では、広い空間を冷やしたり温めたりするために、大型の業務用エアコンやチラー(冷水機)が使われています。
これらの機器には大きなモーターが内蔵されており、十分な力と安定した電力が必要となるため、三相200Vや400Vが標準的に採用されています。
生活を支える公共インフラでは、止まることが許されない設備が数多く存在します。こうした装置は24時間連続で運転されるため、効率が高く電力が安定しやすい三相交流が欠かせません。
代表的な利用例は次のとおりです。
● 上下水道設備のポンプ
● 鉄道の変電設備(架線に電気を送るシステム)
● 発電所・変電所の内部設備
三相交流は電力ロスが少なく、設備への負荷も小さくできるため、公共インフラのような「長時間・高信頼性」が求められる現場で理想的な電源方式といえます。
電気自動車(EV)が普及する中、短時間で大量の電力を供給する「急速充電器」には三相電源が用いられています。急速充電では一度に大きな電力を取り出す必要があるため、電源は高い出力と安定性が欠かせません。
三相交流を使うことで、充電器内部の電力変換装置へ十分な電力を安定して供給でき、結果として「短時間で車を充電できる性能」が実現します。
高速道路のサービスエリアや商業施設の急速充電システムの多くが三相電源を採用しています。
大規模な太陽光発電所(いわゆるメガソーラー)では、パネルで発電した直流の電気を商用電源へ送り込むために、三相タイプのパワーコンディショナー(PCS)が使われています。
大量の電力を扱う発電設備では、電力を無駄なく変換し、電力会社の系統へ安定して接続することが求められます。この点で三相交流は非常に相性が良く、再エネ分野でも重要な役割を果たしています。
工場ほど大規模ではなくても、飲食店や中小規模の事業所でも三相200Vが利用されることがあります。店舗で使われる業務用機器は、家庭用とは比べものにならないほど大きな出力が必要な場合が多く、安定した電力を供給できる三相電源が適しているためです。
代表的な三相機器は、次のとおりです。
● 業務用冷蔵庫・冷凍庫
● 製氷機
● 大型オーブン
● 業務用エアコン
このように、「家庭用よりも強い電力が求められる機器」は、規模が大きくなくても三相交流を利用することが多いです。
最後に、三相交流に関するよくある質問とその回答を紹介します。
一般の住宅では、照明や家電の使用に十分対応できる単相100V・200Vが標準で使われており、三相交流が家庭で使われることはほとんどありません。三相は大きな電力を安定して供給するための方式で、工場機械や業務用設備向けのものだからです。
ただし、農業用の大型ポンプを動かす家や木工・金属加工を行う作業場を併設している家庭など、特殊な用途がある場合に限り、電力会社と契約して三相200Vを導入するケースもあります。
三相交流は世界各国で広く採用されています。産業用電源の国際的な標準方式で、工場設備や大型建物の電力供給に欠かせない存在です。
地域によって使用される電圧は異なり、多くの国では日本より高めの電圧が一般的で、例えば380〜415Vが主流です。
電力規格に差はあるものの、「三相を使って大きな電力を効率よく扱う」という考え方は世界共通で利用されています。
近年はインバーター制御の普及により、三相モーターをきめ細かく調整でき、省エネ性能や運転効率が大きく向上しました。
さらに、太陽光発電などの再生可能エネルギー分野では、三相方式のパワーコンディショナが主流となり、安定した電力供給に貢献しています。加えて、IoT技術と組み合わせることで、設備の状態監視や故障予測が可能になり、運用の最適化が進んでいます。
このように、三相交流はエネルギー社会を支える基盤技術として今後も発展が期待されています。