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監督者:白澤光純
株式会社コンクルー 代表取締役CEO
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「VE(バリューエンジニアリング)って建設の話でよく聞くけれど、具体的に何をする手法なのか分からない…」と感じる方は多いのではないでしょうか。 コストを抑えつつ品質を維持・向上させるという説明はよく目にしますが、実際どの工程で行われ、どのような効果やリスクがあるのかまではイメージしづらいものです。間違った理解のまま進めてしまうと、必要な性能が確保できなかったり、後戻りが発生して余計な費用が増える可能性もあります。 本記事では、VEの基本概念から、建設業における活用の背景、実施のタイミング、進め方、注意点などを分かりやすく解説します。
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まず、VEの基本的な情報について詳しく解説します。
VEは、「価値(Value)=機能(Function)÷コスト(Cost)」という基準で物事を評価する思想に基づいた体系的な改善手法です。
ここでいう価値とは、単に価格の安さや品質の高さだけではなく、対象が持つ機能をどれだけ効率よく発揮できるかという総合的な指標を指します。この考え方を踏まえ、VEではまず対象となる製品やサービスが果たすべき機能を細かく分析し、その機能を損なわない範囲で、より合理的な方法や代替案を検討します。結果として、同じ機能をより少ないコストで実現したり、同じコストでより高い品質や性能の提供が可能です。
このように、VEは単なるコスト削減ではなく、機能とコストのバランスを最適化しながら価値そのものを高めることに主眼を置いています。
建設分野で行われるVEは、設計内容や施工方法を見直し、建物が果たすべき役割や要求される品質を損なわずに、より合理的な方法へ置き換えるための検討プロセスです。
「VE案」「VE提案」と呼ばれることもあり、建築業においても費用を下げることだけを目的としたものではありません。場合によっては、確保できる予算を有効に使い、耐久性や利便性を高める方向に仕様を引き上げることもVEの範囲に含まれます。
VEは、開発・設計・調達などの各工程で代替案を比較検討し、機能・品質・コストの最適な組み合わせを導き出すための体系的な手法です。
建設分社におけるVEの起源は、1947年にアメリカのGE社で起きたアスベスト不足の問題にさかのぼります。
当時、アスベストは高い耐熱性や不燃性から建材として広く使われていましたが、戦後の資材不足で調達が難しくなりました。GE社では床材として必要だったものの確保できず、担当者が代替材を探し機能を検証した結果、別の素材でも十分な性能を満たせると判明しました。従来材に固執せず、「求められるのは材料そのものではなく、その機能である」という発想が生まれ、これがVEの基本思想の原型です。
日本には1960年代に導入されました。建設業界では当初限定的でしたが、公共工事の費用縮減が求められた1990年代以降、設計段階からのVE活用が促進され、入札制度や発注方式にも組み込まれることで広く浸透しています。
CDとは「Cost Down」の略称で、費用を下げることを主目的とした手法のことをいいます。
例えば、材料のグレードを下げる、仕様を簡略化する、工事範囲を縮小するなど、一定の機能低下を前提とした見直しを行う点が特徴です。大幅なコスト調整が求められる際に用いられます。
一方VEは、機能や品質を維持しながら、より合理的な方法でコストを最適化する考え方であり、価値を損なわずに改善策を探ることを目的としています。つまり、CDは「コストを下げるために機能へ妥協する手法」、VEは「価値を守りながら最適なコストを追求する手法」という点が異なります。
VAは「Value Analysis」の略で、既に使われている製品やサービスを対象に、その役割とコストの関係を改めて検討し、品質を落とさずに経済性を高めるための改善活動のことをいいます。
図面や仕様の再調整、生産手法の見直し、仕入れ先の再選定など、現行仕様を前提にした最適化が中心です。
VEは、新たに設計する段階で機能とコストのバランスを追求する方法で、必要な性能を満たしつつ、より合理的な材料や工法を検討するなど、計画初期から価値を最大化するためのアプローチです。両者はどちらも「必要な機能を最小のコストで実現する」という目的は共通していますが、VAは「既存品の改善」、VEは「設計段階の最適化」という点で明確に区別されます。
建設におけるVEの効果とメリットは次のとおりです。
● 品質を確保したコストの最適化
● 顧客満足度の向上
● 集客力の強化
それぞれを詳しく解説します。
建設プロジェクトでは、建物が備えるべき安全性・耐久性・快適性といった機能を確保することが重要です。
VEでは、これらの必要な品質を維持した上で、過剰に設定されている仕様や従来の慣例的な工法、コストに見合わない材料などを丁寧に見直します。複数の代替案を比較し、同じ性能をより合理的な方法で実現できる手段を探るため、品質を犠牲にせずにコストを最適化できる点が大きなメリットといえます。
特に設計の初期段階でVEを実施すると、図面・仕様への反映が容易で、影響範囲が大きいため高い効果が得られます。
VEの導入により、品質・機能・コストのバランスが整った合理的な提案が可能になるため、発注者の納得度が高まります。
従来型の提案では、施工会社が一般的な工法をそのまま提示しても、施主側にメリットが十分に伝わらないケースが少なくありません。一方、VEでは自社の持つ技術力やノウハウを生かしながら、無駄を省いた施工方法や維持管理性を向上させる仕様を提案できるため、施主に「より良い選択肢」として受け止められます。
これにより信頼関係が築きやすくなり、顧客の満足度が向上する点もメリットです。
VEによって高品質かつ無理のないコストで施工が実現すると、利用者や発注者の満足度が向上し、ポジティブな口コミやSNSでの評価が広がりやすくなります。
近年は建設会社を選ぶ際にインターネット上のレビューを参考にする人が増えており、良い評判の蓄積はそのまま集客力の強化につながります。短期的には利益率がやや下がる場合があるものの、長期的には信頼度の向上により受注機会が増え、結果として企業全体の利益拡大に寄与します。
また、VEに取り組む姿勢は「誠実で技術力のある会社」という印象を与えやすく、ブランド力の向上にも直結します。こうした相乗効果により、VEは企業の集客基盤を強固にする大きな要素です。
建設業におけるVEのタイミングは、次のとおりです。
● 設計段階
● 工事発注段階
● 施工段階
それぞれを分かりやすく解説します。
設計段階は、建築プロジェクト全体の方向性が決まる最も重要なタイミングであり、VEを実施することで大きな波及効果が期待できます。
この時期は、建物の規模や構造形式、設備方式、仕上げグレードなどのベースが固まる前段階であるため、変更の柔軟性が高く、コストと機能のバランスを整えやすい点が特徴です。
例えば、構造計画では柱やはりの配置を合理化することで基礎工事・鉄骨工事の費用を同時に圧縮でき、設備計画では冷暖房方式や機器の配置を見直すことで設備費と建築面積の双方を削減できる可能性があります。
一方で、この段階での判断はプロジェクト後半に大きな影響を及ぼすため、関係者の合意形成を丁寧に図ることが不可欠です。
施工者を選定する段階では、実際に工事を担う企業の技術力や調達力を生かしたVE提案が行われます。
設計者だけでは気付きにくい施工上の合理化案や、資材の入手性、工法の最適化など、現場の知見に基づく具体的な改善案が期待できるタイミングです。
例えば、仮設計画の工夫や標準仕様に近い材料への置き換え、施工性に優れた工法の採用などが挙げられます。これにより、品質を保ちながら工程の短縮や人件費の抑制が可能です。
現場が実際に動き始めた後でも、状況に応じてVEを検討するケースがあります。
例えば、実際の地盤状況が想定より良かった、既存建物との取り合いが明確になった、資材の供給状況が変わったなど、現場ならではの状況変化に対応するためです。
この段階では、既に多数の仕様・工程が確定しているため、変更の自由度は設計段階ほど高くありません。場合によっては仕上げグレードの調整や代替材料の採用など、限定的な改善にとどまることもあります。
また、変更によって設計の見直しが生じると工期延長や追加費用の発生リスクも伴うため、提案内容は慎重に検討する必要があります。しかし、柔軟に現場の課題に対応できる点は大きなメリットであり、早めの情報共有と意思決定の仕組みが整っていれば、施工段階でも一定のVE効果を得られます。
VEの基本的な進め方は、次のとおりです。
それぞれを詳しく解説します。
建設におけるVEでは、まずプロジェクトの前提条件を正確に共有することが重要です。
建物の用途や敷地条件、想定する利用者の動線、耐震・避難計画、設備容量、法規制、仕上げ方針、予算、工期など、多方面の要素が複雑に絡み合います。担当者によって「どこまでを制約とみなしているか」が異なるため、共通認識を持たずに検討を始めると、後の段階で手戻りや設計変更が発生しやすくなります。
ここでは建築・構造・設備・現場管理・積算など多職種の視点から情報を統合し、「改善できる余地」と「触れてはいけない制約」を明確にする作業が求められます。この段階の精度が高いほど、後のVE案は実用的で効果的です。
建設VEでは、仕様そのものではなく「機能(働き)」に焦点を当てます。
例えば、壁なら「空間を仕切る」「耐火性能を確保する」、床材なら「歩行に必要な強度を持たせる」「防音性能を担保する」など、表面的な仕様ではなく本質的な役割を明確にします。
この段階で重要なのは、材料名や仕上げ名称を基準に考えないことです。なぜなら、仕様を前提にすると代替案が出づらくなるためです。あくまで「何のために存在するのか」を言語化し、その機能を実現できる別の手段がないかを考えられる状態にします。
機能を定義したら、「何を目的として、どの機能がそれを支えているのか」を整理します。
建設プロジェクトでは、目的(安全性・居住性・利便性)と手段(材料・設備仕様・工法)が複雑に絡むため、これらを階層化することで全体像がつかみやすくなります。例えば「快適な室内環境を維持する」という上位機能の下に、「断熱する」「遮音する」「換気する」といった下位機能が並びます。
この整理によって、価値への貢献度が高い機能と、改善余地の大きい機能が自然と見えるようになります。建設特有の慣習的な仕様や不要な上乗せ機能を排除するためにも、機能の構造化は欠かせないプロセスです。
建設では、材料費・施工費・手間賃・現場管理費・仮設費・機械使用料など、幅広いコスト要素があります。
これらを仕様単位ではなく「機能単位」で整理することで、どの機能がコストの大部分を占めているのかが把握できます。例えば「耐久性の確保」のために設定した仕上げ材が、実際には過剰性能を持ち、他の手段で代替可能なケースもあります。逆に、意匠重視の仕上げが全体コストを圧迫している場合もあります。
コスト構造を正確に把握することで「改善できる費用」と「削ってはいけない費用」を見極められ、より精度の高いVE案の基礎データとなります。
機能ごとに「現状コスト」と「適正と考えられるコスト」を比較し、価値を評価します。
建設では、過剰な安全率や仕様の伝統的な慣例によってコストが膨らんでいることも多く、実際の機能に見合っていない場合が目立ちます。ここでは、技術者の経験則だけではなく、同規模プロジェクトの比較データや積算根拠も活用し、より合理的なコスト基準を設定します。
適正コストを明確にすることで、「どこを改善すれば良いか」「どれだけの削減余地があるか」が具体的に判断でき、VEの方向性がはっきりします。
価値評価の結果を基に、VEで重点的に検討すべき領域を絞ります。
大幅なコストダウンが期待できる設備容量の見直し、構造形式の選定、仕上げ材の代替、省施工化につながる工法変更など、建設では改善可能性の高い項目が多数存在します。
全てを対象にすると検討が散漫になるため、「影響度」「コスト効果」「実行可能性」「工期への影響」などの基準で優先順位をつけます。ここで対象を正しく選ぶことで、限られた検討時間でも効率よくVE効果を得られます。
優先領域が定まったら、代替案を幅広く検討します。
建設現場では、「工法変更」「材質変更」「部材統合」「加工方法の簡略化」「仕様の見直し」など、多様なアプローチが考えられます。例えば、外壁材の見直し、空調設備の容量調整、施工手順の改善、配管ルートの最適化などもVEの範囲です。このステップでは現実性を気にせず、できるだけ多くの発想を出すことが重要です。
施工管理者や職人の知見を取り入れると、机上では生まれない実用的な改善案が出やすくなります。
代替えのアイデアを1つずつ、「施工性」「安全性」「法規適合」「品質」「工期」「コスト」の観点で評価します。
建設は法令・規格が多く、設備や構造に関しては特に厳しい基準があるため、アイデアがどれだけ魅力的でも採用不可能な場合があります。また、現場条件や施工時期によって採用できない場合もあるため、幅広い角度から実現性を確認します。
一次評価では、大まかな試算や簡易比較を行い、採用候補案を複数に絞り込みます。
候補案をより詳細に検討し、現場で実装可能なレベルまで具体化します。
図面修正や材料仕様書の作成、詳細見積もり、安全対策の検討、施工手順の作成など、複数の専門分野が連携して内容を深掘りします。この段階では、実施した場合のリスク評価も同時に行い、予期されるトラブルや追加コストを事前に洗い出します。
利点と欠点を整理し、最終的に発注者が判断できるレベルまで案をブラッシュアップし、完成させます。
最終的に、コストや品質、工期、安全性、維持管理性などの総合評価を行い、最適なVE案を決定します。
その後、設計図書や仕様書への反映、施工計画の修正、調達方法の変更など、実施に向けた具体的な準備に移ります。承認後は、現場での実施・検証を行い、成果を評価して次のプロジェクトにフィードバックします。
こうしてVEは単発で終わらず、建設会社全体の改善力向上にもつながります。
VEのデメリットと注意点は、次のとおりです。
● 機能低下につながる可能性がある
● 検討時間・調整コストの増加
● 設計意図やデザイン性への影響
● 発注者の判断負担が大きくなる
それぞれを詳しく解説します。
VEは本来「価値を高める」ための手法ですが、コスト削減が優先されすぎると、知らないうちにCD(コストダウン)に変質してしまう場合があります。
例えば、材料の見直しや設備仕様の変更が建物性能・耐久性・メンテナンス性を下げてしまうケースです。
設計者・施工者・発注者の認識が一致していないと、完成後に「思っていた仕上がりと違う」「将来の維持費が増えた」といった不満につながるため、VE提案は機能・品質の維持を前提に検討することが重要です。
VEは関係者全員で機能分析や代替案の比較検討を行うため、一定の調整時間が必要です。
特に建築プロジェクトでは、構造・設備・意匠など多分野が絡むため、代替案の影響範囲を検証するには専門家同士の協議が欠かせません。短期間で結論を急ぐと見落としが生じ、後工程でやり直しが発生する可能性もあります。
スケジュールに余裕を持ってVEプロセスを計画することが重要です。
VE提案の中には、意匠デザインや構造バランスに影響を与えるものもあり、安易に採用すると建築全体のコンセプトが損なわれることがあります。
例えば、外装材の変更はコスト削減につながる一方、外観の統一感やブランド性に影響することもあります。
設計者の意図や発注者の価値観を共有し、その建物にとって本当に妥当な変更かどうかを見極める必要があります。
VEは複数の案を比較し、メリット・デメリット・長期的な影響を判断する必要があります。
特に建築に詳しくない発注者は、専門用語や技術的な説明に不安を感じやすく、どの案が最適なのか判断しづらい点がデメリットです。
発注者の意思決定が遅れるとプロジェクト全体の工程に影響するため、「提案の背景」「想定効果」「リスク」を可視化し、比較資料を整える必要があります。