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監修者:白澤光純
株式会社コンクルー 代表取締役CEO
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元請から「VE案を出して」と言われたものの、値引きと何が違うのか、何を出せば認めてもらえるのかが曖昧——そんなときに読む記事です。VE案の意味とコストダウンとの線引き、材料や工法の代替といった具体例、採用されやすい出し方、VE・VA・CDの使い分けまで整理しました。
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VE案とは、求められている機能や品質を落とさずに、より少ないコストで同じ目的を果たすための代替案のことです。元請や設計から「VE案を出して」と言われたときに求められているのは、値引き額の提示ではありません。「この材料を同等性能のものに替えれば、性能は変わらずに◯◯円下がる」「この工法にすれば手間と工期が減って◯◯円下がる」といった、根拠のある置き換えの提案を指します。
VEはもともと「価値(Value)=機能(Function)÷コスト(Cost)」という基準で物事をとらえる考え方です。対象が果たすべき機能を分析し、その機能を落とさない範囲でより合理的な方法を探すことで、同じ機能をより安く実現したり、同じコストでより高い性能を実現したりします(出典:公益社団法人日本バリューエンジニアリング協会「VEとは」)。建設現場で「VE案」「VE提案」と呼ばれるものも、この考え方を設計・施工に当てはめたものです。

「VE案を」と言われて出したつもりが、「それは値引きでは」「仕様を落としただけでは」と返されてしまうことがあります。何が違うのかを整理します。
CD(Cost Down)は、コストを下げることを指します。購入条件の見直しや作業の無駄を減らす方法もあり、「CDは機能低下を前提とする」とは言い切れません。
VEは、必要な機能を捉え、その実現方法とコストの関係から価値の向上を考える手法です。国総研の設計VEガイドラインも、VEを初期費用の縮減だけと同一視しないよう説明しています。実務では呼び名で判断せず、「必要な機能は何か」「変更後も満たすか」「維持管理を含むコストはどう変わるか」を示しましょう。(出典:日本VE協会「VEとは」、国土技術政策総合研究所「設計VEガイドライン」)
VAは「Value Analysis」の略で、既に使われている製品やサービスを対象に、役割とコストの関係を見直し、品質を落とさずに経済性を高める改善活動です。一般にはVAが「既存品の改善」、VEが「設計段階の最適化」と整理されることが多いですが、この線引きは資料によって幅があります。日本VE協会はVEを、機能とコストの関係で価値をとらえ、体系化された手順で価値の向上をはかる手法と説明しており、適用段階での区別を定義に含めていません(出典:公益社団法人日本バリューエンジニアリング協会「VEとは」)。実務では、呼び方より「機能を落としていないか」を基準に考えるほうが話が早く進みます。
用語 | 正式名称 | 主な対象・タイミング | 機能・品質への影響 | ひとことで言うと |
|---|---|---|---|---|
VE | Value Engineering(価値工学) | これからつくるもの。 | 維持、または向上させるのが前提 | 同じ働きを別の手段で実現して安くする |
VA | Value Analysis(価値分析) | すでにあるもの・現行の仕様 | 維持、または向上させるのが前提 | 今あるものを見直して安くする |
CD | Cost Down(コストダウン) | 時期を問わない | 低下を許容する場合がある | 金額そのものを下げる |

元請は「VE案」と言っているのに、出てきたのが仕様のグレードダウンだった——という食い違いは、この違いが共有されていないときに起こります。そもそも値引きとVE案は目的が異なるので、出精値引きの考え方を整理した記事も参考にしてください。提案するときは、金額の前に「この案で何が変わらないのか」を先に書いておくと、議論が噛み合いやすくなります。
実際のVE案は、大きく4つの型に分かれます。以下は検討の切り口であり、実際の採用実績や縮減額を示すものではありません。
いちばん出しやすい型です。設計図書で指定されている材料と同等の性能を持つ別の材料に置き換えます。たとえば「特注寸法で拾われている部材を、規格品の組み合わせで同じ納まりにする」といった提案です。比較するときは、材料単価だけでなく加工・運搬・取付けまで含む費用を揃えます。
この型で大事なのは、「同等」の根拠を示すことです。カタログの性能値、規格の番号、認定番号など、比較できる形で並べます。「安いから」だけでは通りません。
現場での作業を減らす方向の提案です。現場加工を工場加工に寄せる、湿式の工程を乾式に置き換える、ユニット化して据え付けだけにする——といった変更で、手間と工期が同時に減ることがあります。人手が集まりにくい今は、この型が効く場面が増えています。
ただし工法変更は、ほかの工種への影響が出やすい型でもあります。取り合う業者の作業手順が変わらないかまで確認してから出すと、後で戻されにくくなります。
建物そのものには手を入れず、つくり方だけを変える型です。足場の計画を見直して盛り替え回数を減らす、揚重の段取りを組み替えてクレーンの台数や日数を減らす、施工順序を入れ替えて仮設材のリース期間を短くする、といった提案が該当します。
完成物の仕様を変えない案でも、施工中の安全、荷重、近隣対応、他工種への影響は確認が必要です。「仕様が同じだから問題ない」とせず、変更する施工条件と確認根拠を示します。
過剰になっている仕様を、要求性能を満たす範囲に戻す型です。「人がほとんど通らないバックヤードに、エントランスと同じ耐摩耗グレードの床材が指定されている」といったケースが典型例です。
この型は、一歩間違えると単なる仕様ダウンになります。「その部位に本来求められている機能は何か」を先に言語化してから提案するのが、VE案として扱ってもらうための条件です。
金額だけを並べると、安くなる理由と引き換えに変わる条件が見えなくなります。次の表を現行案と提案案の両方について埋め、判断が未了の点は空欄ではなく「要確認」と残します。
項目 | 比較・確認する内容 |
|---|---|
要求性能 | 強度、防火、耐久、寸法等。仕様書・認定・試験資料で根拠を確認 |
初期費用 | 材料・加工・施工・運搬・仮設を同じ範囲で比較 |
維持費 | 点検、交換、補修の条件。未確認の耐用年数で安さを断定しない |
施工条件 | 工期、作業空間、揚重、安全、他工種、保証への影響 |
承認者と期限 | 発注者・設計者・元請など誰の確認が必要か。発注前にいつ決めるか |
例えば材料を規格品に変える案なら、安い見積書だけでなく、納まりと要求性能を確認できる資料を添えます。設計や契約の承認を受ける前に、現場の判断だけで材料を発注・施工しないようにしましょう。これは実務の確認表であり、各工事の指定様式や承認手続きを置き換えるものではありません。
どんな案なら「VE案」として扱ってもらえるのか。判断の目安は、公共工事の手続きが参考になります。国土交通省が直轄工事で試行してきた契約後VE方式では、①施工の確実性・安全性が確保されていること、②設計図書の目的物と比較して機能・性能が同等以上であること、③経済性が優位であると判断されること、の3つを満たす提案は採用を原則とすると定められています(出典:国土交通省「契約後VE方式の試行に係る手続について」)。逆に言えば、機能・性能が同等以上だと説明できない案は、そもそも土俵に乗りません。
同じ手続きでは、そもそも提案の対象に含めないものも示されています。工期の延長など施工条件の変更を伴う提案、契約書上の条件変更に該当する提案、第三者との調整を要する提案です(出典:国土交通省「契約後VE方式の試行に係る手続について」)。「工期を延ばせば安くできます」はVE案ではなく条件変更の相談なので、分けて出したほうが話が早く進みます。
提案書に書くべきは、金額の前に「現行案との差額」と「品質・機能への影響の有無」です。影響がある場合はそれを隠さず明記し、変更後の仕様と責任範囲を書面で明確にしておくことが重要とされています。同通知でも、発注者が提案を採用しても、提案した建設業者の責任が否定されるわけではない旨が定められています(出典:国土交通省「契約後VE方式の試行に係る手続について」)。
縮減額をそのまま差し引かれると提案する側の動機がなくなりますが、同通知ではVE提案による低減見込み額の10分の5に相当する金額(VE管理費)は削減しないものとすると定められています(出典:国土交通省「契約後VE方式の試行に係る手続について」)。民間工事に同じ決まりがあるわけではありませんが、「縮減額は発注者と受注者で分け合うもの」という考え方の目安にはなります。
提出のタイミングも重要です。同通知では、提案を受け付ける期間を契約締結日から着手35日前までとし、15日以上の準備期間を確保するとしています(出典:国土交通省「契約後VE方式の試行に係る手続について」)。民間工事では契約や承認手続で期限を確認し、材料発注のタイミングから逆算し、余裕をもって出すのが現実的です。
考え方が整理できたら、あとは書類の形に落とし込むだけです。現行案と提案案を並べて書けるVE提案書のフォーマットをVE提案書テンプレート記事で無料配布しているので、あわせて活用してください。
公共工事では、VEを行う段階に応じて「設計VE(設計段階)」「入札時VE(工事入札段階)」「契約後VE(施工段階)」という正式な呼び名が付いています。既往調査では、事業の上流である設計VEは、入札時VE・契約後VEに比べてコスト縮減効果が高いことが示されています(出典:国土技術政策総合研究所「設計VEガイドライン」)。
民間工事でも構図は同じです。図面が固まる前に相談してもらえるほど打てる手は多く、着工後になるほど「もうそこは変えられない」が増えます。見積を出す段階で「気になる箇所があれば早めに言います」と伝えておくと、VE案を出せる余地が広がります。
VE案とは、機能や品質を保ったままコストを下げる代替案のことです。値引きや仕様ダウンとの違いは「何を変えないか」にあり、材料・工法・仮設計画・仕様の見直しという4つの型で具体化できます。提案するときは、根拠数字と品質への影響を隠さずに示すことが、採用される近道です。