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監督者:白澤光純
株式会社コンクルー 代表取締役CEO
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「ケレン」という言葉を耳にしても、具体的にどんな作業なのか分からず不安を感じる方は多いでしょう。 塗装工事の見積書に書かれていても、作業内容がイメージしづらく、費用の妥当性や必要性を判断しにくいという声も少なくありません。 本記事では、ケレンの意味、必要な理由、種類の違いなどを詳しく解説します。
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ケレンとは、塗装を始める前に素地を整えるための下処理を指す言葉で、主に錆びた鉄部や汚れた表面を削ったり磨いたりして、塗料が密着しやすい状態に整える作業を意味します。
語源は英語の「clean」といわれており、表面を清潔な状態に近づけるというニュアンスがそのまま残っています。
建築現場では「下地処理」「素地調整」などのいい方をすることもありますが、どれも塗装前に余分なものを取り除き、塗料が定着しやすい環境をつくるという点で同じ目的を持っています。鉄だけでなく、木材のように古い塗膜が浮いている部分や汚れが付着している箇所にも行われる作業です。
ケレンが必要な理由と目的は、次のとおりです。
● 塗料が密着できる下地を整える
● 塗膜が食いつく表面形状をつくる
● 錆・腐食の進行を抑える
● 塗装の耐久性を高め、寿命を延ばす
それぞれを解説します。
ケレンの最初の役割は、塗料を確実に密着させるための「素地づくり」を行うことです。
鉄部や外壁の表面には、錆・ほこり・油分・旧塗膜の浮きなど、塗装の障害になる要素が数多く存在します。これらを残したまま塗装すると、塗料は素材そのものではなく異物の上に薄く乗るだけの状態になり、わずかな衝撃や気温変化で簡単に剝がれてしまいます。
特に錆は触れるだけで崩れる不安定な層となり、塗装の接着面としてはもろく弱いです。不純物を徹底的に取り除き、素材本来の強度がある面を出すことで、塗料が食いつくための確かな下地が整います。
ケレンには表面清掃に加えて、塗膜がより強固に定着できるよう、素材にごく小さな凹凸をつくる役割もあります。
鏡のように滑らかな面は塗料が引っかかる足場がないため、強風や紫外線、温度差などの外的要因で剝がれやすいです。一方、紙やすりをかけたような微細なザラつきがあると、塗料がその溝に入り込み、固まった際に強固なつかみを作れます。
この現象は「アンカーパターン(投錨効果)」と呼ばれ、塗膜を長期間維持する上で欠かせないメカニズムです。ケレンは単なる汚れ落としではなく、接着力を作りだす作業でもあります。
鉄は空気や湿気に触れるだけで自然に酸化し、錆が広がっていきます。
錆は放置しても止まらず、内部へと食い込みながら金属を弱らせ、最終的には穴あき・破損・部材の寿命低下につながります。錆が表面に残ったまま塗装しても、上から塗膜で覆っただけでは酸化反応を止められず、内部で腐食が進み続けてしまいます。
前述のとおり、ケレンは、この錆の原因となる不安定な酸化層をできる限り除去し、金属を健全な状態に近づけてから塗装に進みます。適切なケレンを行うことで、塗膜が錆の進行を食い止める保護膜として機能し、素材そのものの寿命を大きく延ばせます。
建築物や鉄部の維持管理において、防錆のためのケレンは避けて通れない工程です。
塗装の耐久性は、使用する塗料のグレードや塗り回数だけで決まるものではありません。
むしろ、塗膜寿命に最も影響するのは「素地調整」、つまりケレンの質だとされています。実際、塗膜寿命に影響を与える要因分析でも、約半分は下地処理の良し悪しとされ、ケレンの重要性が定量的にも裏付けられています。
ケレンが不十分だと、塗装後わずかな期間で剝がれ・膨れ・ムラが発生し、美観も性能も失われます。逆に丁寧にケレンを行えば、塗料が均一に密着し、層としての強度が高まり、外部環境への耐性が大きく向上します。その結果、塗装のメンテナンス周期が長くなり、長期的な維持管理コストの削減にもつながります。
ケレン作業は、劣化の度合いや素材の状態に応じて、次の4段階に分類されます。
● 1種
● 2種
● 3種
● 4種
それぞれを詳しく解説します。
1種ケレンは、鋼材の腐食が大幅に進行している場合に実施される最も高度な下地処理です。
橋梁や鉄塔、船舶、化学プラントなど厳しい自然環境や腐食要因に長期間さらされる大型構造物を対象とし、表面に残った錆や旧塗膜、黒皮(鋼材の製造過程でできる酸化皮膜)をほぼ完全に取り除きます。
使用される工法は、ショットブラストやサンドブラストといった研磨材を高圧で吹き付ける特殊機械が中心で、鋼材の素地が露出するまで徹底的に表面を処理します。この工程を施すことで、塗料が最も密着しやすい状態を作れ、重防食塗装との組み合わせでは20年以上の高耐久を実現することも可能です。
一方で、大掛かりな設備や粉塵対策が必須であるため一般住宅ではほとんど使われません。特殊用途に限られるものの、防食性能を確保する上で欠かすことのできない最上位のケレンです。
2種ケレンは、錆や旧塗膜の劣化が広範囲に及び、手工具のみでは十分な処理ができない場合に選ばれる中度〜重度の素地調整です。
ディスクサンダーやワイヤーホイール、パワーブラシといった電動工具を用い、浮いた塗膜や深い錆を削り落としながら塗装の妨げとなる要因を確実に取り除きます。鉄骨階段や屋外鉄部、海沿いで腐食が進行しやすい建材など、比較的ダメージが大きい部材が主な対象です。
粉塵や騒音の発生量は増えるものの、広い面積を効率よく処理できるため作業の精度と速度を両立できます。また、細かな部分は手工具で仕上げ、全体の凹凸を整えながら塗料の密着性を高める状態へと導きます。
工数が多い分コストはやや高くなる傾向にありますが、劣化を放置したまま塗装するよりも耐久性を大幅に向上させるため、長持ちする塗膜を作る上で非常に重要な工程です。
3種ケレンは、一般住宅や低層の集合住宅で最も多く採用される標準的なケレン方法です。
特徴は、全ての旧塗膜を除去するのではなく、密着力が残っている塗膜(活膜)は残し、剥がれや浮きが発生している劣化部分だけを丁寧に取り除く点にあります。ワイヤーブラシや、スクレーパー、電動サンダーなど複数の工具を組み合わせ、表面の荒れや凹凸を整えながら、塗料がしっかり密着できる安定した下地へと仕上げます。
活膜を生かすことで無駄な削りすぎを防ぎ、工期や費用を抑えられるバランスの良い方法として多くの現場で採用されています。ただし、腐食が深く広範囲に広がっている部材の場合は対応しきれないため、状況に応じて2種ケレンへの切り替えが必要です。
一般的な塗り替え工事の品質を左右する重要な工程であり、仕上がりの美しさと耐久性を大きく左右します。
4種ケレンは、劣化がごく軽微で大きな錆や剥がれが見られない箇所に対して行われる、最も簡易的な素地調整です。
サンドペーパーや研磨スポンジ、皮スキなど軽作業用の工具を使い、表面の汚れや油分、粉化した塗膜などを取り除き、塗料が密着しやすいよう細かな傷(目荒らし)をつけて整えます。新築後初めての塗り替えや前回の塗装から数年しか経過していない建物など、下地の状態が比較的良好な場合に適しています。
粉塵や騒音がほぼ発生しないため住環境への負担も少なく、作業時間も短く済む点が特徴です。ただし、表面的にはきれいに見えても内部で錆が進行しているケースでは不十分となるため、状態の見極めが重要です。
軽度のメンテナンスとして効果的であり、適切に行えば塗膜の密着性を確保し長持ちしやすい仕上がりにつながります。
ケレン作業が行われる素材は、次のとおりです。
● 金属系素材(鉄部・トタンなど)
● セメント・コンクリート系素材
● 木材(破風板・軒天・外部木部など)
● 樹脂・プラスチック素材
● 特殊な旧塗膜(鉛・PCB含有塗膜など)
それぞれを詳しく解説します。
金属は素材の性質上、空気や水分に触れると腐食が進み、錆が発生しやすい部材です。
特に鉄骨・鉄筋・鉄塔・橋梁などの大型構造物では、表面に生じた錆を放置すると内部まで腐食が広がり、強度低下や損傷のリスクを招きます。このため、鉄部に対するケレンは、医療で例えるなら「外科的治療」のような意味合いを持ち、錆を確実に除去することが重要です。重度の腐食ではブラスト工法を用いて素地が露出するまで表面を整え、錆の再発を防ぐ仕上げを行います。
一方、トタン(亜鉛めっき鋼板)は鉄よりは錆に強いものの、経年劣化により腐食が進むことがあるため、表面の汚れや酸化皮膜、軽度の錆を丁寧に落とす必要があります。いずれの金属も塗装の密着性と防食性能を確保するためにケレンが欠かせず、最終的な塗膜寿命を左右する非常に重要な工程です。
コンクリートやモルタルは錆びることはありませんが、水分を吸収しやすい性質があり、表面の汚れや粉化、カビ、藻などが付着しやすい素材です。
これらを残したまま塗装すると密着不良の原因となり、仕上がりのムラや早期劣化につながります。また、コンクリート表面に発生した微細なひび割れは、内部の鉄筋まで水分が到達する通り道となり、鉄筋腐食を引き起こす恐れがあります。そのため、ケレンは粉状に劣化した塗膜や汚れを削り取り、清潔な状態に戻すことが主目的です。
同時に、塗り替え前には含水率のチェックも重要で、必要に応じて乾燥期間を確保しなければなりません。適切にケレンを行うことで、塗料の密着性が向上し、構造体の保護性能が長く維持されます。
木材も金属のように錆びませんが、雨水や紫外線の影響を受けて表面が荒れたり、古い塗膜が剥離したりすることがあり、そのまま塗装をすると密着不良を起こしてしまいます。
木部のケレンは、浮いた旧塗膜や汚れを取り除き、表面を均一に整えることが中心です。サンドペーパーを用いて研磨する際も、「木肌を滑らかにする」ことが目的ではなく、塗料が浸透しやすいように微細な凹凸(目荒らし)をつけることが重要です。
目の細かすぎる研磨材を使うと逆に塗料が乗りにくくなるため、適度な粗さのものを選ぶ必要があります。木は膨張・収縮を繰り返す素材のため、下地処理の精度がそのまま耐久性につながります。
プラスチックは金属と異なり、強く擦ると傷が残ったり、溶剤に弱く溶けてしまったりするため、金属のような強いケレンは行えません。
表面を均一に整える目的で研磨を行う場合もありますが、過度に削ると素地に深い傷が残り、塗装後も跡が目立つことがあります。このため、プラスチックのケレンは粉塵や油膜、手垢などを除去する「清掃的な下処理」が中心です。
素材によっては塗料の密着が弱いものも多いため、プライマー(下塗り材)を併用することで付着性を補うケースも少なくありません。樹脂特有の性質に配慮しながら、必要最低限の負荷で下地を整える工夫が求められます。
古い建築物や構造物では、現在使用が禁止されている鉛・PCB含有塗料が下地として残っていることがあります。
これらは人体や環境に悪影響を及ぼすため、通常のケレン方法では処理できません。作業時には足場を組み、密閉養生を行い、剥離剤などを用いて飛散しないよう慎重に除去する必要があります。防護具の着用や廃棄物管理も法令に基づいて実施され、安全性と環境配慮の両面が求められます。
このような素材は「特殊ケレン」と位置付けられ、専門知識と適切な施工体制が不可欠です。
ケレン作業の流れは、次のとおりです。
それぞれを詳しく解説します。
ケレン作業は、まずどの部位にどの程度の処理が必要かを見極めるところから始まります。
金属や木部を含む塗装対象を確認し、錆の進行度や古い塗膜の剥がれ具合をチェックします。この段階で、どの種類のケレン(2種・3種・4種)が適切かを判断することが非常に重要です。
正確な診断を行うことで、無駄のない工程計画を立てられ、耐久性の高い仕上がりにつながります。
ケレン作業に入る前に、下地表面に付着したホコリ・砂・土・コケなどを取り除く一次清掃を行います。
ほうきやブラシを使って乾いた汚れを落とし、状況に応じて高圧洗浄で洗い流してから十分に乾燥させます。表面に大きなゴミが残ったままケレンをすると、研磨作業の妨げになったり、塗膜の密着不良を招いたりするため、作業前の清掃は欠かせない工程です。
特にコンクリート面や屋外の鉄部は汚れが付きやすく、洗浄後の乾燥時間も仕上がりを左右します。
一次清掃が完了したら、対象素材の状態に応じて最適なケレン方法を選び、下地を整えていきます。
錆が広く深く進行している鉄部では、電動サンダーやディスクグラインダーなど強力な工具を使って腐食層を削り落とす2種ケレンが適用されます。錆や旧塗膜の浮きが部分的に見られる場合は、ワイヤーブラシやスクレーパーを使った3種ケレンで、劣化している部分だけを重点的に除去します。一方、錆は少なく表面が粉を吹いている程度(チョーキング現象)の場合は、サンドペーパーや研磨スポンジで軽く目荒らしする4種ケレンが行われます。
これらの作業は全て、塗料がしっかり密着する土台づくりのために不可欠な工程です。
ケレンによって錆や旧塗膜を削り落とした後の表面には、細かな粉じんや鉄粉が残ります。
これらは塗料の密着を妨げる原因になるため、ハケや雑巾で丁寧に拭き取り、必要に応じてシンナーで油分を除去します。特に鉄部では、削った後に残った鉄粉が再び酸化し、新たな錆の発生源となることがあるため、仕上げ清掃は決して省けない工程です。
ケレン後の表面をクリーンな状態にしておくことで、この後の防錆処理や塗装工程がより安定し、塗膜の寿命向上にもつながります。
鉄部の場合、ケレンによって素地が露出した部分は非常に錆びやすい状態です。
そのため、表面を整えたあとすぐに錆止め塗料(プライマー)を塗布し、腐食の再発を防ぐ処置を行います。錆止めは単に錆を防ぐだけでなく、上塗り塗料との密着性を高める重要な役割も担っています。
ケレンが丁寧に行われていればいるほど、錆止めの効果は最大限に発揮され、長期的な耐久性が期待できます。鉄部塗装における品質確保の要となる工程です。
ケレン作業と防錆処理が完了したら、ようやく本来の塗装工程へ移ります。
一般的には、下塗りで密着性を高め、中塗りで膜厚を確保し、上塗りで仕上げの色と保護層を形成します。ケレンで下地がしっかり整っているほど、塗膜は均一になり、美観と耐久性の両面で高い品質が得られます。
塗装とケレンは切り離せない関係にあり、「良い塗装は良い下地づくりから」という原則を体現する流れです。
ケレン作業の費用は、使用する道具の種類・作業範囲・劣化の進行度によって大きく変動します。
1種ケレンは、ケレンの中でも最も高額です。
専用機械を使い、大量の研磨材を吹き付けて表面を一気に処理するため、設備費・材料費・人件費の全てが高くなることが理由です。
一般住宅で行われることはまれですが、もし必要になれば大きな支出になるため、事前にしっかり見積もりを取ることが重要です。
2種ケレンは、電動工具を多用するため1㎡当たりの単価が高く設定されています。
サンダー・電動ブラシなどを使い、多くの工数を要するため、1種ほどではないものの住宅におけるケレンの中では上位の費用帯です。
外階段・鉄扉・ベランダの鉄部などでサビが悪化している場合に必要となり、対象面積が広いと数万円単位で費用差が出ることもあります。
3種ケレンは、住宅で最も採用されやすい価格帯です。
劣化した部分のみを処理するため、作業量が2種よりも少なく、単価も中程度〜やや低めに収まります。ただし、サビの割合によって必要な作業量が変わるため、3種の中でも上限に近い金額になることがあります。
部分ごとの劣化を事前に確認することで過剰な作業を避け、費用を抑えられます。
4種ケレンは、ケレンの中で最も低価格です。
紙やすりや研磨スポンジなどで軽く整える程度の作業で済むため、単価は他のケレンと比べて圧倒的に低く、予算に優しい方法といえます。
塗膜自体が大きく傷んでいない場合に適用されるため、日頃からメンテナンスを行うことで、この価格帯で作業を済ませられる可能性が高まります。
最後に、ケレンに関するよくある質問とその回答を紹介します。
ケレンで用いる工具は、対象の状態によって大きく変わります。
電動工具ではディスクサンダーや、ワイヤーカップブラシ、グラインダーが代表的で、広範囲のサビや劣化塗膜を効率的に削り落とせます。一方、細かな部分や繊細な部材には皮スキ(スクレーパー)、ワイヤーブラシ、研磨パッドなどの手工具が活躍します。
どの工具を使うかによって作業の精度や負担が大きく変わるため、専門業者は劣化具合に応じて複数の工具を組み合わせて施工します。
現場調査で、サビの広がりや、旧塗膜の浮き具合、粉化(チョーキング)などを確認し、塗膜の密着状態からケレン方式が決まります。
見た目だけでは判断しにくいため、専門業者は触診や拡大検査で劣化具合を確認し、最適なケレンの種類(2種・3種・4種など)を設定します。
軽度の汚れ落としや研磨であればDIYも可能ですが、本格的なケレンは専門性が高く、電動工具の扱いや安全管理が必須です。
誤った方法で作業すると、塗装の密着不良や素材の損傷を招くリスクがあります。
特に鉄部のサビ処理は見た目以上に技術が求められるため、再発予防まで考えるとプロに依頼する方が結果的に費用対効果の高い仕上がりになるでしょう。