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監督者:白澤光純
株式会社コンクルー 代表取締役CEO
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電気設備を安全に運用する上で、「地絡」は必ず理解しておきたい重要な概念です。 地絡とは、本来絶縁されている電気回路が大地とつながり、電気が地面へ漏れ出す異常な状態を指します。 感電や火災、設備故障など、重大な事故につながる原因となるため、正しい知識と早期発見が欠かせません。 本記事では、地絡の仕組みや発生要因、点検方法、対処手順、そして漏電や短絡との違いについて詳しく解説します。
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まず始めに地絡の仕組みや特徴、起こりやすい状況について解説します。
地絡とは、一言でいうと「電気がケーブルや機器から大地へ漏れている状態」です。英語ではこの現象を「ground fault」または「earth fault」と呼びます。
電気は抵抗の低いところへ流れようとする性質があり、大地は非常に抵抗が小さいため、電線や機器が大地と電気的につながると、電流は一気にそこへ流れ込みます。
本来、電気が流れるのはブレーカーから負荷(照明やモーターなど)へ至る決められた回路だけです。しかし、ケーブルの被覆が傷ついたり、電線に樹木や金属構造物が触れたりすると、電気回路と大地との間に別の経路ができてしまいます。この「予定外の経路」に電流が流れている状態が地絡です。
地絡が発生すると、電気回路と大地の間に電位差が生じて、そこに電流が流れ始めます。このとき大地と回路の間に現れる電圧を「地絡電圧」といい、大地を流れる電流を「地絡電流」と呼びます。地絡電流は、ケーブルの傷の大きさや接触状態、接地抵抗などによって大きさが変わります。
三相交流回路では、一線が大地に接触すると三相のバランスが崩れ、零相電流や零相電圧と呼ばれる異常な成分が発生します。これらを検出するために、零相変流器や設置型計器用変圧器が設置されることが多いです。地絡電流や零相電流を検知すると、遮断器を動作させて回路を素早く切り離し、事故の拡大を防ぎます。
地絡は、屋外の配電線や高圧ケーブルが敷設されている場所で特に起こりやすい現象です。例えば、強風で飛んできたビニールシートが電線と電柱の金属部にまたがって引っかかったり、樹木の枝が成長して電線に触れたりすると、電線と大地の間に導通経路ができて地絡が発生します。
工場やプラントなどで広い敷地にケーブルを敷設している場合も注意が必要です。重機やクレーンのブームが誤って高所の電線に接触すると、金属製のブームを通じて電流が地面に流れ、地絡事故につながります。
さらに、屋内配線でも、長年使用したケーブルの被覆劣化や、ネズミなどの小動物によるかじり傷が原因で、露出した導体が建物の鉄骨や配管を介して大地とつながり、地絡が起こることがあります。
地絡によって生じる主なリスクは次のとおりです。
それぞれについて解説します。
地絡が起こると、本来は電圧がかからない部材や構造物が充電状態になる場合があります。
露出した金属部分や鉄筋、架台などが電気を帯びると、触れた人の体を電流が通過し、強い痛みから筋肉の硬直、最悪の場合は呼吸困難や心停止に至る危険性があります。
特に湿度の高い環境や屋外での作業では体の抵抗が下がり、感電のリスクがさらに高まります。このように、地絡は作業者の生命に直接関わる重大な事故につながります。
地絡が発生すると、電流が大地へ流れ込む際に熱が発生し、ケーブルの被覆が溶けたり、周囲の可燃物が加熱されたりすることがあります。劣化した配線や設備が地絡を起こすと、局所的な発熱が進み、発火へ至る可能性が高まります。
また、屋外では木の枝や枯れ草、建材などが近くにある場合、地絡による小さな火花が引火するケースも考えられます。火災は建物全体や広範囲の停電を引き起こすため、早期検知と迅速な遮断が不可欠です。
電流が正常な経路を流れなくなると、機器に必要な電力が届かず、誤動作や停止が生じます。特に変圧器や分電盤、制御盤などの重要設備で地絡が起こった場合、内部部品が損傷し、大規模な故障につながることがあります。
さらに、保護機器が異常を検知して回路を遮断すると、建物全体の停電や生産ラインの停止といった二次的な被害が発生します。これらは復旧に時間と費用がかかるため、事業活動にも大きな影響を及ぼします。
地絡は、電気設備や配線の絶縁が弱まったり、外部から物理的な力が加わったりすることで、大地へ電流が流れる経路が生まれることによって発生します。主な地絡の発生要因は次のとおりです。
それぞれを詳しく解説します。
電線やケーブルは絶縁被覆によって導体が保護されていますが、経年劣化や紫外線、湿気、熱などの影響で絶縁性能が低下します。
被覆が破れたり薄くなったりすると、導体が外部と接触しやすくなり、漏れた電流が大地へ流れて地絡となります。屋外設備や長期間交換されていない配線では、このリスクが特に高まります。
電線に樹木の枝が触れたり、鳥の巣やビニールシートなどの飛来物が覆いかぶさったりすると、電線と大地の間に低抵抗の経路が形成されることがあります。
さらに、ネズミやリスがケーブルをかじって被覆を損傷するケースも多く、これが漏電を引き起こし、そのまま地絡につながることがあります。自然環境が近い場所では、定期的な目視点検が欠かせません。
建設現場や屋外作業では、クレーンのブームや高所作業車が誤って配電線に接触し、地絡が発生する事故が後を絶ちません。
重機は金属製で電気をよく通すため、接触した瞬間に重機本体から地面へ電流が流れます。このような事故は作業員の感電や広範囲の停電につながるため、重機操作時の周囲確認が極めて重要です。
配線工事の際にケーブルが鋭利な箇所へ押し付けられたり、余計な力をかけて無理に引き回したりすると、内部で被覆が傷ついて地絡の原因になることがあります。
また、アース線の誤配線や機器の取り付け不備によって、大地へ不要な導通が生じるケースもあります。施工時の丁寧な取り扱いや配線チェックが事故防止に不可欠です。
地絡は見た目だけでは判断できない場合が多く、誤った推測で作業を進めると感電や設備損傷につながります。安全に復旧するためには、適切な検査手順を踏み、漏電や断線との違いも含めて状態を見極めることが重要です。ここでは、地絡の有無を確認するための代表的な方法について解説します。
最初のステップは、配線や機器の周辺を目視で確認する作業です。被覆が剥がれて導体が露出していないか、配線が切れかかっていないか、湿気や腐食がないかを丁寧にチェックします。
また、外部設備では木の枝や鳥の巣、ビニールシートなど、電線に触れて電流経路を作りそうなものがないか確認します。重機が近づいた形跡やケーブルの擦れ跡も地絡の手がかりになります。
地絡の判断には、メガー(絶縁抵抗計)やテスターを用いた抵抗測定が有効です。測定対象の配線とアース間の抵抗値を確認し、値が異常に低い場合は大地と導通している可能性があります。
絶縁抵抗がほぼゼロに近い場合は、導体が大地と直接つながっている状態であり、地絡が強く疑われます。測定中は必ず回路を遮断し、安全を確保しながら行う必要があります。
工場設備や大規模な電気設備では、零相変流器(ZCT)や地絡継電器が導入されています。これらの機器は、電流の不平衡や零相電流を検出して異常を自動的に知らせます。
警報が作動した場合は、対象回路を切り分けながら異常箇所を特定します。設備が多い現場では、ZCTの履歴や遮断器の動作記録を確認することで、地絡の発生位置を絞り込めます。
地絡が発生すると、モーターが回らない、照明が点滅するなど、機器の挙動に異常が出ることがあります。また、漏電遮断器や配線用遮断器が頻繁に落ちる場合も、電流が正常に流れていないサインです。
該当する回路を1つずつ切り離し、どの回路で異常が再現するかを確認することで、地絡箇所を特定できます。設備の動作ログが残っている場合は、そこから異常発生のタイミングを把握することも可能です。
地絡が発生した場合、迅速かつ安全に対応しなければ、感電や火災、機器損傷といった二次被害が拡大します。現場での初動対応はもちろん、原因箇所の切り分けや設備の保護対策まで一連の手順を正しく行うことが重要です。ここでは、地絡が発生した際の適切な対処方法を解説します。
地絡の疑いがある場合は、まず該当回路のブレーカーを確実に遮断します。電源が入ったまま点検を行うと、感電の危険性が高まるだけでなく、機器が追加的なダメージを受ける可能性があります。
遮断後は、周囲に感電の恐れがある場所へ近づかないよう注意喚起を行い、安全な状態で調査を進めます。
屋外では雨や湿気があると危険性が増すため、状況に応じて作業を一時中断する判断も必要です。
遮断後は、配線や設備を回路ごとに切り分け、どの箇所に地絡が発生しているかを特定します。メガーによる絶縁抵抗測定やZCTの警報履歴の確認を行い、異常値を示す区間を特定します。
原因がケーブルの損傷であれば交換し、端子の緩みや湿気による漏電であれば清掃・乾燥を行います。
修理後は必ず絶縁状態を再測定し、安全が確認できた段階で通電試験を行い、正常動作を確認します。
地絡による事故を防ぐためには、保護機器の導入と適切な設定が重要です。漏電遮断器(RCD)は、漏れ電流を検知すると自動的に回路を遮断し、感電や火災を未然に防ぎます。
工場やビルなど大規模設備では、零相変流器(ZCT)と地絡継電器(GR)が設置され、微小な地絡でも早期に検出できる仕組みになっています。これらの保護装置は定期的に試験を行い、確実に作動する状態を維持する必要があります。
地絡は予防が最も効果的な対策です。特に絶縁劣化が進んだケーブルや長期間交換していない設備は地絡のリスクが高く、早めの更新が求められます。
また、屋外配線では樹木や飛来物が接触しないよう周囲を整備し、工事現場では重機が電線に接触しないよう安全管理を徹底します。
定期的な絶縁測定や目視点検を実施し、異常を早期に発見することで事故を防げます。
地絡は電気事故の一種ですが、似た意味を持つ「漏電」「短絡(ショート)」「天絡」「アース」と混同されやすい用語でもあります。これらはどれも電気の流れ方に関係しますが、現象の内容や危険性の大きさ、発生する電流の種類が異なります。ここでは、地絡とよく比較される代表的な用語の違いを解説します。
漏電(ろうでん)は「本来流れるはずの経路以外に電流が漏れる現象」を意味し、電流の行き先は大地に限りません。金属筐体や機器内部など、さまざまな場所へ電気が漏れる可能性があります。このため、漏電という概念の中に「大地へ電流が流れている状態(地絡)」が含まれるイメージです。
一方、地絡は「電流が大地に向かって流れている」点が明確な特徴です。漏電と比べて流れる電流が大きい傾向があり、大地を経由するため設備や人体への影響も深刻になりやすい特徴があります。漏電遮断器(RCD)は両方の現象に対処できますが、地絡では遮断までの時間が特に重要です。
短絡(たんらく)はいわゆる「ショート」のことを指し、「電位差のある2点が直接つながって大電流が流れる現象」です。例えば、被覆が破れて導体同士が接触した場合や、金属片が落下して相間をまたぐ形で触れた場合に発生します。
短絡の特徴は、抵抗が極端に小さくなるため、オームの法則に従って非常に大きな電流(短絡電流)が一気に流れる点です。この大電流により、電線の溶断や発火、設備焼損など重大事故を引き起こします。
これに対し、地絡は「相線と大地が接触する」現象であり、短絡ほど大電流にはなりにくいものの、通常より大きな地絡電流が流れます。また、三相回路では零相電流や零相電圧が発生し、設備が不安定になります。短絡は「線と線の異常接触」、地絡は「線と大地の異常接触」と覚えると理解しやすいです。
天絡(てんらく)は「意図しない形で電気回路が電源側に接続されてしまう現象」を指します。配線ミスや施工不良が原因で、負荷を介さずに電源と機器内部がつながってしまい、異常な通電が起こります。
地絡と違う点は、天絡は電気が大地に逃げるのではなく、電源側に直接流れ込む点です。そのため、機器内部の焼損や回路の破壊が起こりやすく、状況によっては短絡に近い危険性を持ちます。天絡は現場では意外と見落としがちな概念ですが、誤配線防止や点検手順に大きく関わる重要な用語です。
アース(接地)は「安全のために意図的に電気を大地へ流す仕組み」です。漏れ電流を安全に逃がすことで機器の故障や感電を防ぎます。コンセントに付いているアース端子や、設備の接地工事がその例です。
一方、地絡は「意図せず電気が大地へ流れてしまう異常状態」です。目的を持って電気を逃がすアースとは正反対の現象です。
また、アース線は地絡や漏電が起きたときに電流が流れる経路にもなるため、適切に施工されていないと感電リスクが高まります。アースは安全のための仕組みである一方、地絡は事故そのものである点を明確に区別する必要があります。