この記事は約9分で読めます。
.png&w=3840&q=75)
監督者:白澤光純
株式会社コンクルー 代表取締役CEO
この投稿をシェアする
耐火被覆は、火災時に建物の骨組みを高温から守るために欠かせない施工です。 特に鉄骨造は高温で強度が低下しやすく、耐火被覆の有無が建物の安全性を大きく左右します。 本記事では、耐火被覆の役割から材料の種類、工法の違い、耐火構造との関係、施工の流れ、メリット・注意点まで分かりやすく解説します。
AI搭載
コンクルーCloud
顧客管理・見積作成・原価管理・電子受発注・請求支払いなど全ての業務がコンクルーCloudひとつで完結

まず、耐火被覆(たいかひふく)の役割や特徴などについて解説します。

耐火被覆は、鉄骨造の柱や梁をロックウール、モルタル、ケイ酸カルシウム板、耐火塗料などで覆い、火災時に鋼材が急激に加熱されないように保護する施工です。
加熱による構造部材の温度上昇を抑えることで、建物が自立できる時間を確保し、避難や消防活動を円滑に進められる状態を維持します。
建築基準法でも必須とされている施工であり、鉄骨建築における安全性を支える基本的な仕組みとして位置付けられています。
鉄骨造は強度が高く、広い空間を作りやすいことから、オフィスビルや商業施設、マンションなど多くの建築物に採用されています。
軽量鉄骨・重量鉄骨ともに耐震性に優れていますが、鋼材は450℃を超えると強度が急激に低下し、800℃付近では自重を支えにくくなります。
火災時には室温が数百度から千度近くまで上昇する可能性があるため、鉄骨が軟化して曲がるのを防ぐ目的で耐火被覆を施す必要があります。
建物に求められる耐火性能は、火災時に何分・何時間構造耐力を維持できるかで評価されます。30分・1時間・2時間・3時間といった区分があり、建物の規模や用途によって必要耐火時間が決まります。
例えば、梁の場合は最上階から数えて4階以内で1時間耐火、5〜14階で2時間耐火、15階以上では3時間耐火が必要になるなど、階数や部位ごとに基準が細かく定められています。
耐火被覆で使用する材料や厚みは、この必要耐火時間に基づいて選定されるため、設計段階で適切な認定構造や工法を選ぶことが重要です。
耐火被覆を理解するには、建築基準法で定められた構造区分を押さえることが重要です。主な区分は次のとおりです。
それぞれについて詳しく解説します。
耐火構造とは、火災時でも一定時間、柱や梁、床、壁などが構造耐力を維持できると認められた構造を指します。建築基準法第2条第7号に定められた基準に適合し、国土交通大臣の認定を受けた耐火被覆を施すことで、鉄骨造の主要構造部は耐火構造として扱われます。
鉄骨造は高温で強度が低下しやすいため、耐火被覆が重要な要素です。近年は、認定された設計や工法を用いることで木造でも耐火構造を実現できるケースがありますが、木造の場合は鉄骨造のように被覆材を施す方法ではなく、専用の認定工法を用いて耐火性能を確保します。
準耐火構造は、耐火構造ほど高い性能は求められないものの、一定時間、火災の延焼を抑えることを目的とする構造です。住宅や小規模建物で採用されやすく、「崩壊を防止する」耐火構造に対し、「延焼を抑制する」ことに重点が置かれています。
木造の場合は、石膏ボードを複数枚張るなど、認定された仕様を用いることで準耐火構造を満たせます。鉄骨造のように耐火被覆を必要としない点が特徴で、用途や規模に応じて採用される機会が多い構造区分です。
耐火建築物は、建物全体として耐火性能を備えた建築物を指し、その主要構造部が耐火構造であることに加え、開口部には防火設備を設ける必要があります。
部材単位の性能である「耐火構造」と異なり、建物単位で火災による崩壊や周囲への延焼を防ぐ性能を備えている点が特徴です。建物の階数や規模が大きいほど、建築基準法により耐火建築物とすることが求められます。
また、防火地域や準防火地域に建つ一部の建築物も、耐火建築物または準耐火建築物とすることが義務付けられています。鉄骨造の場合は、主要構造部に適切な耐火被覆を施すことで耐火建築物として扱われ、都市部の中高層建築で一般的に採用されています。
耐火被覆に使われる主な材料は次のとおりです。なお、国土交通大臣の認定を受けた材料のみが使用されます。
それぞれを詳しく解説します。
ロックウールは、高炉スラグや天然岩石などの鉱物を高温で溶融し、繊維状に加工した人工繊維の不燃材です。耐火性と断熱性に優れ、鉄骨への吹き付けや巻き付けなど幅広い工法に対応できるため、耐火被覆材として最も一般的に使用されています。
軽量で湿気に強く、燃えにくい性質を持ち、経年劣化が少ない点も特徴です。施工箇所の形状を選ばず継ぎ目の少ない仕上がりにしやすいため、安定した耐火性能を確保できます。
また吸音性能もあり、機械室や商業施設の防音対策として利用される他、粉じんの発生を抑える工法を選ぶことで作業環境にも配慮できます。アスベストの代替素材として定着しており、安全性の面でも高く評価されています。

モルタルやセメントを主成分とする耐火被覆材は、耐熱性と耐久性に優れ、鉄骨や耐火壁の仕上げに用いられます。特にラス張りモルタル塗りの工法では、厚みのある被覆層を形成できるため、高い断熱性能を確保できます。
湿式工法となるため養生期間が必要ですが、硬化後は衝撃や摩耗に強く、長期的な安定性を発揮します。商業施設や倉庫など、構造部が露出する環境でも利用しやすい点が特徴です。
成形板は、ケイ酸カルシウムや石膏を原料とした硬質の板材で、鉄骨を覆うように貼り付けて耐火性能を確保します。表面が平滑で仕上がりがきれいなため、被覆後に追加の仕上げ材を必要としない場合もあります。
板状のため加工が容易で、現場の柱や梁の形状に合わせた施工がしやすい点も利点です。衝撃に強く、高層建築やエントランスなど、意匠性を重視する場所でも採用されています。
耐火塗料(発泡型塗料)は、鉄骨に直接塗布することで火災時に塗膜が数十倍に膨張し、断熱層を形成する特殊な材料です。薄膜でありながら1時間以上の耐火性能を実現できるため、見た目を損なわずに耐火性を付与したい場面で活用されます。
色を塗り替えられるため、デザイン性が求められるホールやエントランスなどにも適しています。メンテナンスもしやすく、改修工事でも採用されるケースが増えています。
耐火被覆の代表的な工法は次のとおりです。
それぞれの特徴を解説します。
吹き付け乾式工法(ふきつけかんしきこうほう)は、耐火被覆工事で広く採用されている代表的な工法です。ロックウールとセメントを事前に混合した材料を、水を加えながら吹き付けて成形する方法で、乾燥が早く工期を短縮しやすい特徴があります。
圧送できる距離に制限があるため、改修や部分補修などの小規模な現場で特に効果を発揮します。また下地の形状に左右されにくく、複雑な柱や梁にも施工しやすい点が強みです。
吹き付け半乾式工法(ふきつけはんかんしきこうほう)は、泥状に混ぜたセメントとロックウールを同時に吹き付ける方法で、厚みを均一に仕上げやすいことから大規模工事にも適した工法です。施工部分から離れた場所でも材料を圧送できるため、広い範囲を効率よく施工できます。
原料が無機質であるため火災時に有毒ガスが発生しにくく、安全性の高さも特徴です。細かな部分にも密着して吹き付けられるため継ぎ目のない仕上がりになり、施工後は多くの場合、石膏ボードなどで表面を覆って仕上げます。
吹付湿式工法(ふきつけしっしきこうほう)は、無機質系材料を施工現場で水と混合し、湿った状態で均一に吹き付ける工法です。材料に含んだ水分によって粉じんが抑えられ、作業環境を汚しにくい点がメリットです。
湿式のため乾燥工程が必要ですが、ムラが少なく安定した仕上がりが得られます。大規模施設や屋内工事で採用されることが多い工法です。
巻き付け工法(まきつけこうほう)は、ロックウールのフェルト材を柱や梁に巻き付け、専用ピンで固定する方法です。粉じんの発生が少なく周囲への影響を抑えられるため、他の工事と併行しやすい点が特徴です。
仕上がりが整いやすく、場合によっては追加の仕上げ材を必要としません。狭いスペースでも施工しやすいことから、改修現場で採用されるケースが多くあります。
一方で、吹き付け工法に比べると費用が高くなる傾向がありますが、専用ピンでしっかり固定するため見栄えの良い仕上がりが期待できます。
成形板張り工法(せいけいばんはりこうほう)は、ケイ酸カルシウム板などの耐火板を柱や梁の寸法に合わせて貼り付ける方法です。板材は表面が平らで硬く、そのまま仕上げとして利用できるため、見た目の美しさが求められる場所で多く採用されます。
加工性が高く、複雑な形状の部位にも対応しやすい点が特徴です。ペイントやクロス仕上げにも適しており、意匠性を重視した空間でも柔軟に活用できます。また耐久性や耐衝撃性にも優れており、長期的に安定した性能を発揮します。
耐火塗料工法(たいかとりょうこうほう)は、鉄骨に直接塗料を塗り、火災時に塗膜が膨張して断熱層を形成する仕組みを活用した工法です。薄膜でも1時間以上の耐火性能を確保でき、鉄骨の意匠性を損なわずに耐火性を付加できる点が特徴です。
塗装仕上げのためデザインの自由度が高く、色を付けやすいことからエントランスなど人目につきやすい場所で多く採用されています。部分補修がしやすく、メンテナンス性に優れている点もメリットです。
耐火被覆工事の主な流れとポイントは次のとおりです。
それぞれを詳しく解説します。
工事の開始前には、建物の用途や階数に応じて必要耐火時間を決定します。柱や梁、床、壁などの部位ごとに設定された1時間・2時間・3時間といった区分に合わせ、適切な材料や厚さを選定します。
認定された仕様に基づいて設計を行うことで、法令に適合した耐火性能を確保できます。設計段階での正確な条件設定は、後の施工品質を左右する重要なプロセスです。
耐火被覆工事は、下地確認や清掃から始まり、材料の準備、吹付けや巻き付けなどの作業、そして仕上げの工程へと進みます。
吹付け工法では、ロックウールやセメントスラリーを専用機械で送り、均一な厚さになるよう調整しながら施工します。巻き付けや成形板張りの場合は、ピンや金物を使用して確実に固定します。
いずれの工法でも、設計で指定された厚さや密着性を確保しながら丁寧に作業を進めることが、耐火性能の維持につながります。
施工後は、耐火性能が計画どおり確保されているか確認します。厚さ検査では専用ゲージを用いて複数箇所を測定し、設計値との差がないかを判断します。
吹付け材料の場合は、かさ密度の測定が重要で、規定の比重を満たしていない場合は性能が発揮できません。また、使用した材料や工法が国土交通大臣の認定番号に基づく仕様と一致しているかも必ず確認します。
これらの検査を適切に行うことで、長期的に信頼できる耐火性能を保証できます。
改修工事では、既存部分との厚さの差や材料の違いによって性能が変わるため、認定仕様に合わせた補修が不可欠です。吹付け工法が難しい環境では、巻き付け工法や耐火塗料工法が選ばれることもあります。
また、施工範囲が限定される現場では、粉じんや騒音の影響を最小限に抑える工法を選択することが求められます。既存建物の耐火性能を維持しながら施工を行うためには、現場条件に応じた柔軟な判断が重要です。
耐火被覆の主なメリットは次のとおりです。
それぞれを詳しく解説します。
耐火被覆の最大のメリットは、火災時に構造体の温度上昇を抑え、建物の倒壊を防ぐことです。鉄骨は高温下では急激に強度が低下するため、被覆材によって熱を遮断し、一定時間、構造耐力を保持する役割があります。
これにより、避難時間の確保や消防活動の実施が可能になり、建物内外の人命や財産を守ることにつながります。高層建築や集客施設では特に重要な性能といえます。
耐火性能が高い建物は、火災保険料を抑えられる場合があります。建物は構造に応じて保険区分が設けられており、耐火性が高いほど火災による損害リスクが低いと判断されるためです。
耐火被覆を施すことで、鉄骨造がT構造やM構造として扱われるケースがあり、保険区分の変更によって保険料が軽減されます。長期的な維持コストの観点でも、耐火性能を確保する効果があります。
住宅物件・一般物件共に、耐火性の高い構造ほど保険料が低くなる傾向があります。
住宅物件の構造区分は次のとおりです。下にいくほど保険料が高くなります。集合住宅は特に保険料が低くなる傾向があります。
区分 | 対応する建物の例 |
M構造(マンション構造) | RC造、コンクリートブロック造、レンガ造、石造、耐火建築物の共同住宅 |
T構造(耐火被覆構造) | RC造、鉄骨造、耐火建築物(共同住宅以外)、準耐火建築物、省令準耐火建物 |
H構造(非耐火構造) | 木造、土蔵造、上記以外の建物 |
一般物件の構造区分は次のとおりです。下にいくほど保険料が高くなります。
区分 | 対応する建物の例 |
1級 | RC造、レンガ造、石造、耐火被覆鉄骨造、耐火建築物 |
2級 | 鉄骨造、準耐火建築物、省令準耐火建物 |
3級 | 上記に該当しない建物 |
ロックウールをはじめとする耐火被覆材には、断熱性や吸音性を備えたものがあります。機械室や商業施設では騒音対策として有効であり、内部の温度変化を抑える効果も期待できます。
また、吹付け材は下地と密着しやすく、吸放湿性のある材料では結露の発生を抑えられる点もメリットです。こうした付加機能によって、快適性や設備保全にも貢献します。
耐火被覆の注意点は次のとおりです。
それぞれを解説します。
現在の耐火被覆材は、安全性が確認されたロックウールなどが主流です。しかし、高度成長期と呼ばれる1955年〜1960年代頃には、アスベストを原料とした耐火材が広く使用されていた時期がありました。
当時のアスベストは髪の毛より細い繊維で、吸い込むと体内に残りやすい性質があり、健康への悪影響が指摘されています。そのため現在では使用が禁止され、ロックウールなど安全性に配慮した材料が採用されています。
既存建物の改修や解体では、アスベストが含まれている可能性があるため、事前調査を行い、適切な処理方法を確認する必要があります。安全対策を怠ると作業者や周囲の人に健康リスクが及ぶため、慎重な対応が求められます。
耐火被覆は建物の安全性向上に大きく貢献しますが、材料や工法によって初期コストに差があります。吹付け工法は比較的安価ですが、巻き付け工法や成形板張り工法は費用が高くなる場合があります。
また、改修工事では既存の被覆状態や劣化具合によって追加費用が発生する可能性があります。長期的な維持管理を踏まえ、建物の用途や環境に適した工法を選定することが重要です。