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監督者:白澤光純
株式会社コンクルー 代表取締役CEO
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ボイラーという言葉は聞いたことがあっても、「具体的に何をする機械なのか」「どのような仕組みで動いているのか」を正確に説明できる方は多くないのではないでしょうか。 ボイラーは、水を温めたり蒸気をつくったりする装置で、さまざまな用途で使われています。 本記事では、ボイラーの基本原理から種類、用途、ボイラーを扱うために必要資格まで、初心者にも分かりやすい視点で丁寧に解説します。
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まず、ボイラーの基本的な情報を詳しく解説します。

ボイラーとは、水や熱を運ぶための媒体(熱媒)を密閉構造の容器に入れ、外部からの熱エネルギーによって加熱し、圧力をもつ蒸気や温水をつくり出す装置です。
内部で生成された高温の蒸気や温水は、配管を通じて離れた設備まで送られ、建物の暖房や産業機械の加熱工程など、さまざまな用途に利用されます。
「boiler」という言葉は英語の「boil(沸騰させる)」が由来で、その語源のとおり水を沸かして熱エネルギーを生み出す装置であることを表しています。
ボイラーの歩みは、蒸気機関の進化とともに発展してきました。
17世紀末には蒸気の圧力や真空を利用した装置が試作され、1712年にニューコメンが炭鉱排水用の蒸気機関を実用化しました。1760年代にはワットが復水器を分離する改良を行い、蒸気機関の効率を大きく高めたことで産業革命を加速させました。19世紀には高温・高圧に対応したボイラーが登場し、鉄道や船舶、発電などの主要技術として広く利用されました。
その一方で事故も増えたため、欧米では検査制度が整えられ、日本でも明治期から技術導入と安全対策が進み、1959年に「ボイラー及び圧力容器安全規則」を制定しています。
このような歴史を経て、ボイラー技術は現在の高効率で安全な設備へと発展しています。
ボイラーの仕組みについて、分かりやすく解説します。
ボイラーは、温水をつくるタイプと蒸気をつくるタイプの2種類に大きく分かれます。
温水ボイラーは暖房や給湯に用いられ、蒸気ボイラーは噴出する蒸気の勢いや圧力を生かして動力源として使われたり、高温が必要な調理・洗浄・滅菌などに利用されます。
蒸気ボイラーは温水ボイラーよりも高温・高圧で運転されるため、安全性への配慮がより重要です。
ボイラーの基本となる仕組みは、圧力容器(内部の圧力が大気圧を超える容器)の内部に満たした水や液体を加熱し、温水または蒸気として利用できる状態に変化させることです。
本体は密閉構造の圧力容器であり、火炉や電気ヒーターなどの熱源によって内部が加熱されると、水温が上昇すると同時に圧力も高まります。これにより、通常より高い温度で水を保持したり、効率的に蒸気を発生させられます。
温水をつくるボイラーでは、圧力容器で発生した高温蒸気が配管内を流れる過程で周囲の水に熱を伝え、その熱交換によって温水が供給されます。一方、蒸気をつくるボイラーでは、容器内で生成された蒸気そのものを取り出し、動力源や高温処理などの用途に直接利用します。
ボイラーで使用される圧力容器は、労働安全衛生法に基づき「第一種圧力容器」と「第二種圧力容器」の2つに分類されています。
どちらも高温・高圧の液体や気体を閉じ込めて運転するため、容器の構造や耐圧性能だけでなく、大きさ・圧力の上限・検査周期など、さまざまな基準が法律によって細かく定められています。
第一種圧力容器は、高温・高圧の状態で液体を扱う場面に使用される容器で、内部で蒸気が発生したり、通常では沸騰する温度を超えて水を加熱したりする用途に対応しています。
例えば、100℃の水に圧力を加えて120℃まで温度を引き上げるような運転が可能であり、蒸留器・消毒器・精錬装置など、産業分野で高い温度管理が求められる設備に広く利用されています。
危険性が高い運転条件に耐える必要があるため、第一種圧力容器は製造段階から厳格な管理が行われています。製造には都道府県労働局の許可が必要となり、製造・輸入・設置の各段階で労働局による検査が義務化されています。
さらに、使用開始後も安全性を維持するため、登録性能検査機関による年1回の性能検査が定められています。
このように、第一種圧力容器は高度な安全性と確実な管理体制の下で運用される設備であり、ボイラーや関連装置の中でも特に厳しい規制が適用されています。
第二種圧力容器は、圧力を加えても内部の液体が蒸気を発生させない条件下で使用される容器で、0.2MPaを超える圧力に対応できる構造を備えています。扱う対象が主に気体であるため、液体を高温高圧で扱う第一種に比べると危険性が低く、適用される規制もやや緩やかです。
製造にあたって直接の許可申請は不要ですが、安全性を確保するために一定の検査制度が設けられています。具体的には、製造後にボイラー協会またはボイラークレーン安全協会による検定を受ける必要があり、輸入される場合にも個別の検定が求められます。さらに、実際の運用が始まってからは、年に1回の自主点検を実施し、容器の状態や安全性を確認することが義務付けられています。
このように第二種圧力容器は、第一種ほどの厳格な管理ではないものの、気体を扱う設備として必要な安全基準がしっかり定められており、運用時には適切な保守管理が求められます。
ボイラーは「どのような材質で構造を形成しているか」によっても分類できます。代表的なのは鋳鉄製ボイラーと鋼鉄製ボイラーの2種類です。
鋳鉄製ボイラーとは、鋳鉄(ちゅうてつ)でつくられた複数のセクション(分割部品)を連結して構成するボイラーのことを指します。集合住宅や一般家庭の暖房・給湯など、比較的低圧で運転される設備に多く使用されています。
鋳鉄製は耐食性に優れ、低価格で導入しやすい点が大きな特徴です。セクションを組み合わせて構成するため、必要な容量に合わせてサイズを柔軟に調整できます。
一方で、鋳鉄は高圧に耐えるだけの強度がないため、低圧専用のボイラーとして利用されます。蒸気ボイラーとして使用できるのは0.1MPa以下、温水ボイラーとしては水頭圧0.5MPa以下・温度120℃以下といった制約があり、高温高圧の用途には向きません。
さらに、構造上の理由からボイラー水の循環使用が前提であり、蒸気を外部へ直接供給するような方式には適していません。
鋼鉄製ボイラーは、高温・高圧に耐えられる高い強度を持ち、鋳鉄と比べて素材の靭性(じんせい)が高いため、発電所や工場など高圧蒸気を必要とする産業設備で広く利用されています。
内部構造は鋳鉄製と比べてシンプルに設計されており、清掃や点検が容易でメンテナンス性が高い点がメリットです。
一方で、鋼鉄製は大型になる傾向があり、設置スペースが限られる施設では導入が難しい点がデメリットがあります。また、鋳鉄製のように分割構造ではないため、運搬や修理が大掛かりになることも注意点として挙げられます。
鋼鉄製ボイラーには主に次の3種類があります。
水を通す細い管(ウォーターチューブ)を加熱し、高温高圧の蒸気を生成するタイプです。熱効率が高く、負荷変動にも強いため、大規模プラントや発電所で多く採用されています。
円筒形の鋼板を溶接してつくられる構造で、蒸気容量が大きい点が特徴です。高圧運転に対応でき、工場の生産ラインなど安定した蒸気供給が求められる現場で使用されます。
熱媒ボイラーや廃熱ボイラーなど、特定の用途に合わせて設計されたタイプです。高温の熱媒体を循環させる方式や、工場の排熱を再利用して蒸気をつくる方式など、さまざまな目的に特化しています。
ボイラーの主な用途は、次のとおりです。
● 給湯システム
● 床暖房
● 加湿
● 調理
● 殺菌
● 火力発電の動力源
● 酒類の醸造
● 化学工場での蒸留・加熱
それぞれを詳しく解説します。
ボイラーは、家庭や建物のお湯をつくる設備の熱源としても幅広く使用されています。
家庭用の給湯方式にはいくつか種類があり、例えば水をタンクに蓄えてから温める「貯湯式」、タンク内部の圧力を下げて効率よく加熱する「真空式」、そして水道水が流れる配管の中で瞬時に加熱する「直圧式」などがあります。
いずれの方式も、「水を加熱して使いやすい温水にする」という点でボイラーと同じ原理に基づいており、広い意味ではボイラーの一種として捉えられます。
ボイラーで温めた温水は、住宅や施設の床暖房システムにも広く利用されています。
床下に設置した配管へ温水を循環させることで、床面全体を均一に温め、部屋全体にやわらかな暖かさを届ける仕組みです。空気を直接暖める暖房器具と異なり、室内の温度ムラが少なく、乾燥しにくい快適な暖房方式として評価されています。
特に石油を原料とするボイラーは、少ない燃料で大きな熱量を得られる高効率な熱源であり、長時間の連続運転にも向いています。さらに構造が比較的単純なため、故障しにくく安定した性能を維持しやすいことから、住宅用暖房の熱源として長く採用され続けています。
ボイラーで発生させた蒸気は、広い空間の加湿にも効果的に利用されています。
乾燥が進むと人の喉や肌に影響が出るだけでなく、静電気の発生によって電子機器の故障リスクが高まったり、美術品や資料の劣化につながったりすることがあります。特に大型の空調システムを持つオフィスビルや商業施設、博物館、美術館などでは、ボイラーの蒸気を空調設備に組み込み、広範囲を効率よく加湿しています。
また、病院や製薬工場のように衛生管理が厳しく求められる環境では、建物全体の空調とは別に、専用のボイラーを設置して独立した加湿システムを構築しているケースもあります。これにより、空気中の清潔さを保ちながら、安定した湿度を確保できる点が大きなメリットです。
業務用の調理現場では、ボイラーで発生させた蒸気を使った過熱水蒸気調理が活用されています。
水蒸気を100℃以上までさらに加熱し、高温の蒸気で食材を包み込む調理法です。過熱水蒸気は、蒸し料理のように内部をしっとり仕上げながら、同時に焼き目をつけることも可能で、食材のうまみや栄養を逃しにくい点が大きな特徴です。
水分の飛びやすい食材でもパサつきにくく、ヘルシーで高品質な仕上がりになるため、食品工場やレストランの調理機器としても注目されています。
ボイラーでつくった蒸気は、食品工場をはじめとする多くの現場で殺菌・滅菌の目的にも利用されています。
蒸気は高温で均一に熱が伝わりやすく、薬品を使わずに微生物を除去できるため、食品の安全性を高めるための非常に有効な手段です。食品工場では、原材料そのものの殺菌だけでなく、調理器具や配管・容器に付着した細菌や微生物を除去する工程にも蒸気が活用されます。
高温の蒸気は対象物全体にむらなく熱を届けられるため、加熱による殺菌効率が高く、衛生管理の信頼性を向上させられます。
ボイラーは、火力発電所において発電タービンを回すための蒸気をつくる中核設備として機能しています。
火力発電では、燃料を燃やして得た熱でボイラー内部の水を高温・高圧の蒸気に変え、その蒸気をタービンへ送り込んで回転させることで電気を生み出します。タービンが高速で回転するほど発電量が増えるため、ボイラーが安定して大容量の蒸気を供給できるかどうかが発電効率を左右します。
タービンを通過した蒸気は冷却されて水に戻り、再びボイラーで加熱されるという循環方式が採用されています。蒸気を冷やすためには非常に多くの水が必要となるため、火力発電所が海沿いや大規模な河川の近くに建設されるケースが多いです。
ボイラーが生み出す蒸気は、日本酒や蒸留酒などの酒類の醸造工程でも欠かせない役割を果たしています。蒸気は高温で大量の熱を安定して供給できるため、酒づくりに必要な加熱工程を正確かつ効率よく進められます。
蒸留酒では、発酵させた醸造酒を加熱し、アルコール分を含む蒸気を発生させます。ボイラーの蒸気を利用して温度を安定させることで、発生した蒸気を冷却して得られる蒸留酒の品質を均一に保ちやすくなります。
また、日本酒の製造では、原料である米を蒸す工程が非常に重要です。ボイラーの蒸気は、米を芯までしっかりと蒸し上げ、こうじづくりや発酵に適した状態に整えます。蒸気は高温で殺菌効果もあるため、衛生的な環境を維持しながら醸造工程を進められる点も大きな利点です。
化学工場では、原油や化学薬品の加工に欠かせない蒸留や加熱の工程にボイラーの蒸気が広く利用されています。
例えば、原油の精製工程では、まず原油を加熱して蒸気を発生させ、蒸留塔の内部で温度差を利用しながら、重油・軽油・灯油などの石油製品へ分離します。この過程では、蒸気の温度と圧力を精密に制御する必要があり、ボイラーの安定した蒸気供給が製品品質に直結します。
また、溶剤の回収や化学反応を進めるための反応器の温度管理にも蒸気が用いられます。蒸気は均一に熱を伝えやすく、温度ムラが出にくいため、化学反応の進行を一定に保てます。
ボイラーは高温・高圧で運転される設備であるため、誤操作は重大な事故につながる恐れがあります。そのため、日本ではボイラーの種類や大きさに応じて、運転・整備・製造に関わる者へ資格取得が義務付けられています。
ボイラーを取り扱うために必要な主な資格は、次のとおりです。
● ボイラー技士
● ボイラー整備士
● ボイラー溶接士
● 危険物取扱者
それぞれを解説します。
ボイラー技士は、高温・高圧のボイラーを安全に運転・管理するための国家資格です。事故リスクの高い設備を確実に扱うための専門知識と技能が求められます。
二級 → 一級 → 特級の順にステップアップできる構成となっており、扱えるボイラーの規模や業務内容が段階的に広がっていきます。
一級を取得する場合は二級取得後に一定期間の経験(2年以上)、またはボイラー取扱主任者として1年以上勤務している必要があります。特級を目指す場合は、一級取得後に5年以上の実務経験、またはボイラー取扱主任者として3年以上の経験が求められます。
このようにボイラー技士は、実務と資格を積み上げながら、より高度な設備の運転管理を担えるようになる資格制度です。
ボイラー整備士は、大規模なボイラーや第一種圧力容器の点検・分解整備を専門的に行うための国家資格です。
運転業務を担うボイラー技士とは役割が異なり、設備の内部を開放し、汚れの除去や部品の状態確認、必要に応じた修理作業など、保守に特化した業務を担当します。そのため、ボイラーを運転するだけでなく、日常的な清掃や内部整備まで一貫して携わりたい場合は、ボイラー技士とボイラー整備士の両方の資格が必要です。
ボイラー整備士は受験資格に制限がなく、誰でも受験できるため、ボイラー関係の資格の中では比較的取り組みやすい点が特徴です。整備の専門知識を身につけることで、安全性の向上や設備の長寿命化にも貢献できます。
ボイラー溶接士は、ボイラー本体や圧力容器の製造・補修に必要な溶接作業を行うための国家資格です。ボイラーは高温・高圧に耐える構造が求められるため、溶接の品質は安全性に直結します。そのため、この資格は高度な技術を持つ溶接技能者を証明する重要な資格です。
区分は次の2種類あり、担当できる作業範囲が異なります。
● 普通ボイラー溶接士
● 特別ボイラー溶接士
特別資格の方が扱える範囲が広く、より複雑で高度な溶接技術が求められます。ボイラーの構造安全を支える重要な職種であり、プラント設備や重工業などで活躍の場が多い資格です。
危険物取扱者は、消防法で定められた危険物を安全に取り扱うための国家資格で、ボイラー設備で使用される燃料(石油類など)を扱う場面で必要となることがあります。
燃料の管理方法や万が一の事故防止について理解しておくことは、ボイラー運転の安全確保に欠かせません。資格は次の3区分に分かれています。
● 甲種:全ての危険物の取り扱い・立ち会いが可能です。受験には化学分野の学習歴や乙種取得が必要です。
● 乙種:指定された危険物の取り扱いが可能です。受験資格がなく、初めてでも挑戦しやすい点が特徴です。
● 丙種:簡易な取り扱いや作業に従事できる資格です。こちらも受験資格はいりません。
特にボイラーでは、燃料の安全管理が重要であるため、危険物取扱者の知識を習得しておくことで、運転時のリスク低減につながります。
最後に、ボイラーに関するよくある質問とその回答を紹介します。
家庭で使われる石油給湯器やガス給湯器は、水を温めてお湯を供給する点でボイラーと似ていますが、用途や規模が異なります。
一般的には、工場や大型施設で蒸気や大量の温水をつくる装置をボイラー、家庭での給湯を目的とした小型機器を給湯器と考えると理解しやすいでしょう。
石油給湯器は灯油を使い火力が強いため寒冷地に向いており、初期費用は高めですが燃料代を抑えやすい特徴があります。一方、ガス給湯器は導入しやすく給油の手間がない反面、ランニングコストは高めです。どちらも耐用年数や維持費が異なるため、地域性や使い方に合わせて選ぶことが大切です。
現代の自動車には、蒸気を発生させるためのボイラーは組み込まれていません。
現在主流となっているガソリン車・ディーゼル車・電気自動車はいずれも別の方式で動力を得ており、高温高圧の蒸気を使う必要がないためです。
過去には蒸気で走る車も存在しましたが、現代の自動車ではボイラーは現実的ではありません。
ボイラーで利用される燃料にはいくつかの種類があり、設備の規模や目的に応じて選ばれています。
家庭用や小規模施設では、扱いやすく火力も十分な灯油(石油)やガス燃料が一般的です。一方、工場や大規模プラントのように大量の熱エネルギーを必要とする現場では、重油や産業用ガスが用いられることが多く、近年では電気を使って加熱する電気ボイラーも選択肢として広がっています。
このように、燃料の種類は利用環境やエネルギー効率、ランニングコストに応じて使い分けられています。