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監督者:白澤光純
株式会社コンクルー 代表取締役CEO
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「ヒートポンプってどういう仕組みで動いているの?」など疑問を抱く方は多いのではないでしょうか。 近年は住宅設備や電気自動車にも採用が広がり、身近な存在になっている一方で、仕組みやメリット・デメリットが分からず不安を感じる人も少なくありません。 本記事では、ヒートポンプの基本原理から種類、電化製品への応用、よくあるQ&Aまで体系的に解説します。
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まず、ヒートポンプの基本的な情報について解説します。
ヒートポンプは、周囲の環境に存在する熱を集めて別の場所へ移し替えるための技術です。
空気や水、地中などにわずかでも含まれている熱エネルギーを取り出し、それを必要とする側へ届ける働きを持っています。
ヒートポンプという名称は、熱を押し上げて運ぶイメージが、液体をくみ上げるポンプの動きと重なることから付けられました。本来、熱は温度の高い方から低い方へ向かう性質がありますが、ヒートポンプはその自然な流れとは逆方向に熱を動かすために使われています。
ヒーターは、電気抵抗で発熱する「電熱方式」によって空気や物体を直接温める仕組みです。
電気が熱にそのまま変換されるため構造がシンプルで即暖性が高い一方、投入した電気エネルギー以上の熱を生み出せません。スポット暖房や小型機器など、限られた範囲を素早く暖めたい場面に向いています。
ヒートポンプは、冷媒を循環させて「外の空気から熱を集めて運ぶ」仕組みです。つまり、ヒーターは「電気をそのまま熱にする装置」、ヒートポンプは「外気の熱を集めて運ぶ装置」という違いがあります。
エアコンは、室内の温度を調整するために作られた空調機器で、その内部にはヒートポンプの仕組みが組み込まれています。
冷房時は室内の熱を外へ逃がし、暖房時は屋外にある熱を取り込んで室内へ届ける動きを、ヒートポンプの働きによって実現しています。
つまり、ヒートポンプとエアコンの違いは、ヒートポンプは「熱を移動させる技術そのもの」を意味するのに対し、エアコンは「ヒートポンプの技術を活用して具体的な機能を提供する製品」という点です。
次に、ヒートポンプの仕組みを分かりやすく解説します。
ヒートポンプの核は、熱を吸収し運搬する能力を持つ「冷媒」と呼ばれる特殊な流体です。
冷媒は空気や水、地中といった環境中の低温側にも存在する熱を取り込み、それをより高温の側へ移動させる働きを担っています。
他の液体と異なり、冷媒は圧力が変化すると気体と液体を容易に行き来する性質があり、相変化を利用することで、熱を効率よく集めたり放出できます。
現代の空調機器や給湯設備が少ないエネルギーで運転できるのは、ヒートポンプの冷媒の特性に大きく依存しています。
ヒートポンプは、冷媒が装置内部を巡りながら「圧縮 → 凝縮 → 膨張 → 蒸発」という4段階の変化を繰り返すことで熱を移動させます。
蒸発器から戻った冷媒は圧縮機に吸い込まれ、過度に押し込まれることで圧力が一気に高まります。圧力の上昇には温度の上昇が伴い、冷媒は高温の気体になります。
この高温状態が、次の段階で熱を放出するための下準備です。
高温・高圧の気体になった冷媒は凝縮器へ送られ、周囲の空気や水と熱を交換しながらエネルギーを外へ放出します。
熱を放出する過程で冷媒は液体へ戻り、温度も安定します。
暖房時には室内へ暖かさを届け、冷房時には屋外へ熱を押し出す役割を果たします。
液体となった冷媒が膨張弁を通過すると、圧力が急激に下がり、それにより温度も大きく低下します。
この低温状態は、次の蒸発器で熱を吸い取るために最適な条件です。
低温・低圧になった冷媒は蒸発器に入り、周囲の空気や水から熱を吸収しながら気体に戻ります。
この吸熱作用によって、冷房時は室内の熱が奪われ空気が冷え、暖房や給湯では屋外のわずかな熱でも取り込めます。
気体化した冷媒は再び圧縮機へ戻り、このサイクルが連続的に進行します。
エアコンをはじめとするヒートポンプ式機器は、冷媒がどちらの側で熱を取り込み、どちらで放出するかによって、冷房と暖房を切り替えています。
暖房時には外気中の熱を吸収し、それを室内側で放出します。冷房時には室内で熱を吸収し、屋外に送り出します。
同じ機構を使いながら、吸熱と放熱の方向を逆にするだけで冷暖房の機能が成り立っており、構造を変えずに両方の動作が可能となる点がヒートポンプの大きな特徴です。
ヒートポンプの種類は、次のとおりです。
● 圧縮式ヒートポンプ
● 吸収式ヒートポンプ
それぞれを詳しく解説します。
圧縮式ヒートポンプは、冷媒を圧縮・膨張させることで温度を変化させ、その差を利用して熱を移動させる方式です。
気体が圧縮されると高温になり、逆に膨張すると冷えるという基本原理を応用したもので、現在最も広く普及しています。前述したヒートポンプの仕組みも圧縮式ヒートポンプです。
圧縮機を動かすための動力としては、電気モーターが一般的ですが、用途によってガスエンジンなどが使われる場合もあります。
吸収式ヒートポンプは、冷媒と吸収液の組み合わせによって熱を移動させる方式で、「蒸発 → 吸収 → 再生 → 凝縮」というプロセスを繰り返しながら動作します。
冷媒の蒸発時に発生する気化熱を利用する点が特徴で、圧縮式とは異なり、圧縮機による大きな動力を必要としません。
主なエネルギー源には蒸気や高温水などが使われ、電力は補助として用いられる程度のため、電力消費が少ないというメリットがあります。
ヒートポンプは「どこから熱を取り込むか」によって次の分類があります。
● 空気熱源ヒートポンプ
● 地中熱源ヒートポンプ
● 水熱源ヒートポンプ
それぞれを詳しく解説します。
空気熱源は、外気に含まれる熱を取り込み、冷暖房や給湯に利用する最も一般的な方式です。
空気をエネルギー源とするため設備がシンプルで導入しやすく、幅広い製品に採用されています。冬の外気温が低い環境でも、空気中に残るわずかな熱を効率よく取り出せますが、気温が極端に下がる地域では暖房効率が落ちやすく、補助暖房との併用が必要になる場合もあります。
手軽さとコストのバランスが良く、日本の多くの地域で利用されている方式です。
地中熱源タイプは、地中に蓄えられた安定した温度を利用する方式です。
地面の温度は季節によって大きく変動しないため、夏は涼しく、冬は外気よりも暖かい環境が得られ、冷暖房共に安定した効率で運転できます。空気熱源より高い省エネ性を発揮することが多く、住宅・商業施設・工場など、多様な建物で導入が進んでいます。
一方で、地中にパイプを埋設する工事が必要となり、初期費用が高くなる点や広い敷地を要するケースがある点がデメリットです。このため、十分な土地が確保できる地域や大型施設で採用されることが多い方式です。
水熱源タイプは、河川水・地下水・湖・井戸水などの水温を利用する方式です。
水は熱容量が大きく、空気や地中より温度変化が緩やかなため、冷暖房の効率が非常に高い点が特徴です。大量の熱を安定して取り込めるため、工業施設や大型ビルなどで重宝されています。
ただし、水源の確保や水質管理が不可欠な他、取水・排水の設備や配管のメンテナンスにコストがかかります。環境への影響にも配慮しながら運転する必要があるため、専門的な管理体制が求められる方式です。
ヒートポンプのメリットは、次のとおりです。
● エネルギー効率の高さ
● 環境負荷の低減
● 高い安全性
それぞれを詳しく解説します。
ヒートポンプは、周囲の環境に存在する熱を運んで利用する仕組みのため、投入した電力だけで温度調整を行う電気ヒーターとは根本的に異なります。
電気を直接熱に変換する方式では、使用したエネルギー以上の熱を得ることはできませんが、ヒートポンプは環境中の熱を取り込むことで、同じ電力量でも数倍の熱エネルギーを生み出せます。
暖房能力の効率はCOP(成績係数)という指標で示され、ヒートポンプはこの値が高い傾向にあります。これは、少ないエネルギーで大きな出力を得られることを意味し、省エネ設備として評価される理由です。
ヒートポンプは、周囲の熱を活用して効率的に暖房・冷房を行うため、同じ温度調整を行う際に必要な一次エネルギー量を大幅に減らせます。
そのため、化石燃料を直接燃やす暖房方式や電気をそのまま熱に変える方式に比べて、CO₂排出量を抑えられる点も大きなメリットです。
化石燃料への依存度を下げられる技術として、住宅だけでなくオフィスや工場でも採用が進んでおり、脱炭素化を推進する上で欠かせない選択肢となっています。
ヒートポンプは燃焼を伴わず、周囲の熱を移動させて利用する仕組みのため、火を直接扱う暖房器具に比べて安全性が高い点もメリットです。
ガスや灯油ストーブでは、燃料の取り扱いや換気に注意が必要ですが、ヒートポンプ式の空調や給湯設備は火を使わないため、火災・引火・一酸化炭素中毒といったリスクが大幅に抑えられます。
また、温度制御や安全装置が精密に管理されているため、異常が発生した際には自動停止や警告表示が作動するなど、事故を未然に防ぐ仕組みも整っています。
ヒートポンプのデメリットは、次のとおりです。
● 初期費用が高い
● 外気温による性能低下
● 運転音が気になる場合がある
それぞれを分かりやすく解説します。
ヒートポンプは、圧縮機や熱交換器など複数の機構を組み合わせて高効率を実現しているため、一般的な燃焼式機器に比べて本体価格が高くなりやすい設備です。
特に給湯器タイプは貯湯タンクと屋外機がセットになっており、導入時の工事費用も含めると、初期投資が大きくなるケースが多く見られます。
エネルギーコストの削減により長期的には回収可能ですが、投資回収までには数年単位の期間が必要となるため、家庭の導入計画や予算調整ではこの点を踏まえておく必要があります。
ヒートポンプは外気中の熱を取り込んで活用する仕組みのため、外気温が下がるほど得られる熱量が減り、暖房出力が低下しやすい特性がある点もデメリットです。
特に冬の冷え込みが厳しい地域では、外気が冷え込むほど暖房の立ち上がりが遅く感じられたり、設定温度に達するまで時間がかかることがあります。
さらに、外気温が氷点下付近になると、屋外機の熱交換器に霜がつきやすくなり、その除去のために「霜取り運転」が必要になります。この運転中は暖房能力が一時的に低下するため、体感的な暖かさが安定しにくい場合もあります。
ヒートポンプは、熱を移動させるために屋外機のファンや圧縮機を動かしながら運転します。そのため稼働中には一定の動作音が発生し、とくに給湯器のように深夜から早朝にかけて運転する機器では、低い振動音が響いて気になることがあります。
こうした低周波の音は大きな騒音ではないものの、住宅が密集している地域では周囲の静けさに対して目立ちやすく、気になりやすい傾向があります。
多くの場合は日常生活に支障のないレベルですが、隣家との距離が近い敷地や夜間の静けさが求められる環境では注意が必要です。
ヒートポンプが使われている主な電化製品は、次のとおりです。
● エアコン
● 給湯器
● 衣類乾燥機
● 業務用空調・冷凍空調設備
● 床暖房
それぞれを解説します。
前述のとおり、家庭で最も身近に使われているヒートポンプ製品がエアコンです。
エアコンは、室内機と室外機のあいだで冷媒を循環させ、温度差を利用して熱を移動させる仕組みで動きます。冷房時は室内の熱を外へ運び出し、暖房時は屋外の空気から集めた熱を室内へ送り込むことで、室温を効率よく調整します。
電気をそのまま熱に変換する方式とは異なり、周囲の環境にある熱を活用するため、少ない電力で十分な冷暖房能力を発揮できる点が特徴です。省エネ性に優れ、年間を通して快適な室内環境を保ちやすいことから、多くの家庭やオフィスで広く利用されています。
ヒートポンプ技術を給湯に応用した設備として、エコキュートが広く普及しています。
空気中の熱を取り込み、そのエネルギーを使って効率的にお湯を沸かす仕組みで、従来のガス式と比べて必要なエネルギー量を大幅に削減できる点が特徴です。また、電気料金の安い深夜帯にまとめてお湯をつくり、貯湯タンクに蓄えて必要なときに使用する方式を採用しているため、日々の光熱費を抑えやすいというメリットもあります。
省エネ性と経済性の両立から、家庭用設備として定着しており、新築住宅やリフォーム時の選択肢としても人気です。
衣類を乾燥させる家電にもヒートポンプ技術が活用されています。
冷媒が圧縮・膨張する際に生じる温度差を利用し、衣類に含まれる水分を効率よく取り除く仕組みが特徴です。従来の高温の熱風を吹き付ける方式とは異なり、比較的低い温度で乾燥させるため、生地への負担が少なく、デリケートな衣類でも縮みや傷みを抑えながら仕上げられます。
また、熱を作り出すのではなく移動させる技術を使うため、乾燥に必要な電力も抑えられ、省エネ性の高さからドラム式洗濯乾燥機を中心に採用が広がっています。
ヒートポンプ技術は、家庭だけでなくオフィスビルや商業施設、工場など、大規模な建物環境の空調にも幅広く利用されています。
建物全体の冷暖房を1つのシステムで効率的に管理できるため、使用エネルギーを抑えながら安定した室内環境を維持できる点が大きな強みです。
さらに、冷凍・冷蔵分野でもヒートポンプが活躍しています。冷媒の温度変化を利用して食品や原材料を適切な温度に保つことで、長期保存や品質維持に貢献します。
ヒートポンプは、床暖房としても採用されています。
床下やパネルを通して温水を流すことで、空気を強くかき回さずにじんわりと暖められ、住空間全体が均一に暖まりやすいという利点があります。
特に断熱性の高い住宅では熱が室内にとどまりやすく、ヒートポンプの省エネ性能をより効果的に発揮できます。
最後に、ヒートポンプに関するよくある質問とその回答を紹介します。
車に搭載されるヒートポンプとは、外気の熱を取り込み、その熱を車内へ移動させることで暖房を行う仕組みのことです。
特に電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)で採用が増えています。従来のガソリン車では、エンジンの排熱を利用して暖房ができましたが、EVには排熱がほとんどないため、その代わりとしてヒートポンプが重要な役割を果たします。
電気ヒーターのように電力を直接熱に変える方式と比べて、少ない電力で効率よく暖房できる点が大きな特徴です。
ヒートポンプは複数の部品が連動して動くため精密な仕組みではありますが、適切に使用・メンテナンスしていれば特別壊れやすい機械ではありません。
しかし、冷媒を循環させる配管の劣化による冷媒漏れ、屋外機ファンの摩耗、圧縮機(コンプレッサー)の負荷増大など、長期間の使用で不具合が生じる可能性はあります。
「異音がする」「暖まり方・冷え方が弱い」「立ち上がりが遅い」といった症状は、初期トラブルのサインであることが多いです。放置すると故障につながる場合があるため、気づいた時点で早めに点検を受けると良いでしょう。
家庭用のヒートポンプ機器(エアコン・給湯器など)は、一般的に10〜15年ほどが耐用年数の目安とされています。
ただし、これはあくまで平均的な数値であり、使用環境や運転時間、定期点検の有無によって寿命は前後します。
長く安全に使いたい場合は、数年に一度の専門業者による点検がおすすめです。